139列車 イライラ
潮ノ谷の意見は柊木を通してアド先生に伝えられた。
(決まりましたね。)
内心そう思っていた。
そのことは佐久間からのメールで知った。知ったのは6月19日、7時39分23秒。
(マジか・・・。)
頭が闇に包まれていく。それが自分でも分かった。
その日は何をしていても空しかった。
(どっちに決まってもよかったんじゃないのか。でも・・・、いざ決まってみると・・・。)
部品が欠落する。それを探そうと踏み入る。闇に包まれた森林が僕の行く手をさえぎった。
6月20日。そんな気持ちのまま学校に行った。通学途中の電車の中で朝熊と会った。朝熊は四国を支持している。
「おはようございます。永島先輩。」
朝熊は笑っていた。僕はおはようの代わりに右手をかざした。
その後、臨地研修の話になった。
「潮ノ谷先輩どっちなんでしょうね。」
朝熊にはまだ伝わってないようだった。
「さぁ、どっちなんだろうね。」
事情を知っているが故にそんな問いかけでも心に深く突き刺さった。
「・・・。」
「・・・今日決まるんだよなぁ・・・。」
「そうですね。」
「どっちに決まっても悔しいだろうな。」
「えっ。」
「もし四国に決まったとして、俺が悔しい思いするだろうなってこと。逆に箕島の方は北陸に決まったら悔しいだろうなってこと。」
「そりゃそうでしょ・・・。」
どうしても会話が続かなくなった。
「間もなく小楠ー。小楠です。降り口は右側です。急行遠州浜松行きはお乗り換えです。」
「あれ、乗り換えないんですか。」
荷物を床に置いたままにしていたからだろうか。疑問に思ったらしい。
「こんなに早いんだから普通でゆっくり行こうよ。急行なんかに乗り換えたら死ぬって。いろんな意味で・・・。」
「それもそうですね。」
朝熊は納得した。
「暁から来ると鹿島から急行にのっちゃうんで、各停ってあんまり使わないんですよね。まぁ、時折急行に乗り遅れちゃった時に乗ることもあるんですけど。」
そんな雑談を岸川学園の最寄り駅涼ノ宮までやっていた。
月曜日1時間目理科演習。2時間目数学Ⅱ。3時間目現代文。
授業中もイライラが止まらなかった。何も頭に入ってこない。頭の中が臨地研修と「寝台特急カシオペア」でいっぱいになっている。
(今年は去年と違って「カシオペア」を見ることはできない・・・。)
考えていることはどうしても軌道を外れた。
「ああ、くそっー。」
叫ぶ気もないのに叫んだ。
「どうした。永島。」
いきなりの絶叫を聞けば、誰でもびっくりするだろう。宿毛が心配して聞いた。
「いや、なんでもない。」
「そう・・・。ならいいんだけど・・・。」
「・・・。」
(なんでもないわけないだろう。)
自分に言い聞かせる。
「なぁ、永島。ちょっと水飲みに行くのに付き合ってくんない。」
ぱっとしないかもしれないけど・・・。僕は席を立った。
「今日、水筒に水入れようとしたら、ペットボトルの中身が少なくてさぁ。ペットボトルごと持ってきちゃった。もうこれ飲みほしちゃったからこれに水を入れようと思ってさぁ。」
階段を下る宿毛は2リットルのペットボトルも僕に見せた。
「今日は何かイライラしてるんだよなぁ。こういうときって何かと嫌こと続くよな。」
「宿毛にもそういうときあるんだ。」
「なきゃおかしいだろ。なかったら俺はロボットかなんかだよ。」
「・・・。」
「俺も今日はイライラしてるんだよなぁ。」
「へぇ、珍しいな。」
少し間があった。
「永島はいつもの明るさで、嫌こと一気に吹き飛ばして、いいことだけを呼び込みそうな気がするけどなぁ。」
「えっ。」
声をひきつらせた。
「宿毛ってそういう風に思ってんだ。」
「少なくとも俺はかな・・・。永島っていつも楽観的じゃん。お前にマイナス思考は似合わないって。俺そういうところ、うらやましいなぁって思ってんだ。」
(いいことだけを呼び込みかぁ・・・。)
本当にそれがあったらいい。この時ほどそれを思ったこともなかったかもしれない。
4時間目英語R。12時35分。4限目終了の鐘が鳴った。授業が終了するといつもの場所に歩いて行った。鉄道研究部の部室だ。
いつもの様に部室前の階段を上り部室に入った。部室に入ると佐久間がにやにや笑って僕を見ていた。
「永島。」
僕を見て、手招きをする。
「昨日考えてみた。」
と言って、左手に持っている携帯を見せた。
「・・・。」
そこには究極ともいうべき臨地研修の案が出ていた。
「木ノ本、ちょっとこっち来て。」
「何。」
今来たばかりの木ノ本も呼んでさっき僕に見せた案を見せる。
「すげーっ。」
「これどうよ。四国のプランなんか見返すことができるぜ。」
(そうかもしれない・・・。いや、絶対出来る・・・。)
そう確信していた。
文字数普段と比べて0.5話分しかなかった・・・。そして、どうでもいい・・・。