138列車 多数決
6月17日。これからの予定について話し合われた。狭い部室に20人集まった。これでは人口密度が高すぎる。そのため部屋を3年4組に移して話し合いが行われた。
「今日は、夏の臨地研修について決めたいと思います。」
アド先生が取り仕切った。
「まず日程を決めたいと思います。」
「今年は3年生が多いので、オープンキャンパスとかでいろいろ暇がないと思うんです。さらに特進と中学の方は補修があって行く時が8月の6日からお盆の前と、お盆の後からと非常に限られるんです。」
こう話している間にも黙ろうとしない人がいる。
「おい。話聞け。」
箕島がうるさい人たちを制した。
「日程の方は前話に出ていた8月6日から8月8日の3日間でいいと思います。」
僕がそう意見をした。
「8月の6日から8日まで。」
アド先生が復唱する。
「はい、まず日程が決まりました。」
まず日程が決まったというのが伝えられる。
「次に行き先を決めたいと思います。」
行き先に入った。今臨地研修先としてあがっているのは四国と北陸。僕としてはどっちがいいと決めるのはたぶん無理だろう。だが、一番行きたいところを言えとなると北陸に行きたいという。ここで、どっちになるか決まるのだ。
「北陸。」
「四国。」
僕と箕島が同時に口を開いた。北陸と四国の言葉はお互いにかき消された。
「どこだって。」
アド先生には何と言ったのか聞きとれなかったようである。
「北陸です。」
今度は僕が先にアド先生に伝えた。
「四国です。」
箕島がそれに続けた。
「おーい。ちょっと聞いてくれ。今行き先で四国と北陸が出てます。どちらにするか決めてください。」
アド先生が教室の鉄道研究部員に言い放った。
ここで今出ている北陸と四国についてどんな列車があるか紹介しよう。
北陸と四国は新幹線が存在しないことにより特急街道を形成している。北陸本線には名古屋から「L特急しらさぎ」、大阪から「L特急雷鳥」、「特急サンダーバード」、金沢~越後湯沢までは「特急はくたか」、金沢~新潟間の「特急北越」、他にも「寝台特急日本海」と超豪華「寝台特急トワイライトエクスプレス」が走っている。この北陸本線の特急網を縫うようにして普通列車が通っている。本州に残る特急街道だ。また、北陸本線の主要駅などから延びる七尾線や越美北線などの路線も見ることができる。
四国は特急街道と言うより特急列島である。岡山から瀬戸大橋を渡り高知を結ぶ「L特急南風」、同じく岡山から瀬戸大橋を渡り松山に行く「L特急しおかぜ」、この「しおかぜ」と松山~宇多津間で併結する「L特急いしづち」、「南風」と違い瀬戸大橋を渡らない高松~高知間の「L特急しまんと」、松山~宇和島間の「L特急宇和海」、高知~宿毛間の「L特急あしずり」。そして、高松~徳島間の「L特急うずしお」、四国の山地に分け入る「特急剣山」、徳島の海辺を行く「特急むろと」。たくさんの特急があの島に走っている。そして、四国はこれだけではない。本州に渡ることができれば、伯備線の「特急やくも」、また東京からの「寝台特急瀬戸」を見ることができる。
四国はこれほどの車両を見ることができるのだ。四国でもいいだろう。そう思っているというのが本音である。しかし、北陸にはこれに負けない理由がある。それは、ただここに行ったことがないというとてもシンプルな理由である。そして、ここの大地を時速160km/hで駆ける「特急はくたか」に乗りたいというのもある。僕の北陸案を支えているのはこれだけしかないのだ。
数分経った。
「そろそろ。みんな決まったと思うんで、どっちに行きたいか聞きたいと思います。」
アド先生が全員の声を制した。
(どっちになる。四国か・・・。北陸か・・・。)
心の中でどうなるのかというのを思った。
「一人ずつ聞きたいと思います。」
封筒のように茶色い紙を懐から取り出しペンを握った。
「まず、箕島。」
「四国です。」
四国票1。北陸票0。
「永島。」
「当然、北陸。」
「木ノ本君。」
「北陸です。」
「留萌君。」
「四国です。」
四国票2。北陸票2。
「佐久間君。」
「当然、北陸ですよ。」
「醒ヶ井君。」
「四国です。」
「はい3年生は割れました・・・。次2年生。柊木君。」
「北陸です。」
「隼君。」
「北陸。」
四国票3。北陸票5。北陸票が一歩リードする。
「北石君。」
「四国ですね。」
「今日潮ノ谷君は。」
「潮ノ谷は今日病院に行くって言ってました。」
柊木が潮ノ谷不在のことをアド先生に伝えた。
「今聞けるかな。」
「潮ノ谷、携帯持ってませんから、聞くのは無理ですよ。」
「分かりました。今のところ北陸がリードしてます。次1年生。汐留君。」
「四国です。」
四国票5。北陸票5。
「己斐君。」
「北陸です。」
「朝熊君。」
「四国です。」
四国票6。北陸票6。一進一退。どちらも譲らない状態。
「次、中学生。諫早君。」
「北陸です。」
「空河君。」
「四国です。」
「朝風君。」
「北陸です。」
また北陸がリードする。
「次、中学2年生。夢前君。」
「四国です。」
「大嵐君。」
「北陸です。」
「新発田君。」
「四国です。」
四国票9。北陸票9。
(次で決まる。)
「次、中学1年生。青海川君。」
「北陸。」
北陸10票。
「牟岐君。」
「四国です。」
全員に聞き終わった。
入った票は四国10票。北陸10票。同率で並んでいる。ただ、今ここにいない潮ノ谷がどちらに入れるかで局面が一気に変わる。今はどっちに決まっていなくても、いずれどっちかに決まる。
「同率票・・・。」
留萌の言葉が耳の遠くで聞こえたような気がした。
「榛名、北陸なんだ・・・。」
初めて意見が分かれたような口調だった。
「うん。四国は2000系とか8000系とかカッコいいのが多いけど、私は「はくたか」を撮っておきたいし。」
「それは、私も思うけど・・・。」
何かがいつもと違った。
「朝熊って北陸じゃないんだ。」
「北陸は横川からそんなに離れてないしね。「はくたか」だったら5歳の時に見たことあるし、ほかにも「白鳥」(この場合は大阪~青森間の「白鳥」)とか「いなほ」とか。いろんな特急見たよ。」
「へぇ。」
「逆に四国へ入ったことがないんだ。お寺とかいろいろ回りながら、2000系とか見るのもいいかなぁって思って。」
「なるほどねぇ。」
「己斐は四国には行ったことあるの。」
「ないけど、北陸の方が楽しそうな気がして。「はくたか」とか「サンダーバード」とか。ここじゃ見れない車両がいっぱい走ってる。それに「雷鳥」とか「しらさぎ」とかも見たいと思ってね。」
「そりゃそうだな。あっちなら「トワイライトエクスプレス」も見れるしな。」
「それも見れるけど、夜遅くに行けば「急行きたぐに」も見ることができるじゃないか。」
「「きたぐに」。」
「えっ。朝熊「きたぐに」知らないんだ。」
「ごめんね。カマにしか長けてなくて・・・。」
「二人ともすごいなぁ。俺には分かんない列車しかない。」
いつものやり取りが遠くで聞こえる。
「北石はやっぱ2000系目的かな。」
「まぁな。」
「北石って四国の「アンパンマン号」が好きなんだろう。」
「黙れ、隼。」
「2000系にあの塗装は似合わないよ。2000系は原色だったから似合ってたのにさぁ・・・。まぁ、四国も考えたんだろうけど・・・。」
「でも、北石。あすこには8000系とかも走ってるんだぜ。お前8000系には興味ないのかよ。」
「ディーゼルじゃないから興味ないってわけじゃないけど。」
「じゃあ、8000系って好きなうち。」
「好きか嫌いかって言われるとなぁ。」
「そんなことより。北陸には興味ないの。」
「いや、あるよ。「はくたか」とか一度乗ってみたいなぁって思ってるし・・・。僕としては四国でも北陸でもどっちでもいいって感じかな。」
「それは俺も同じだな。まぁ、今年行くのが北陸じゃなくてもいいんだけどなぁ。」
柊木の言葉に共感した。
(そうだ。北陸じゃなくてもいい。でも・・・。)
頭の中がそれだけにいっぱいになった。いや、それ以外考えれなくなったのかもしれない。
「はい。それでは、北陸のプランと四国のプランで考えてきてください。それでどちらかいいプランがあったらそっちにみんなで飛びつこうと思います。」
今日のミーティングはこれで終わった。結局、この日は日程以外決まらなかった。それはそうだろう。ここまで意見が分かれているのだ。
6月18日。岸川学園では奇数週の土曜日にも授業がある。
「潮ノ谷。」
柊木と隼は2年8組の理系クラスに来た。
「何、翼。」
「お前さぁ、臨地研修で行くんだったらどっちがいい。今北陸と四国っていう風になってんだけど・・・。」
「うーん。北陸か、四国か・・・。」
「そう。潮ノ谷だったらどっち。」
「そうだなぁ。僕は・・・。」
(えっ。)
柊木と隼は目を見開いた。そして、次に出る言葉が消えた・・・。
こういう書き方したらいまどっちに票が入ったか分かっちゃうか・・・。やっぱり僕は下手です。文章書くのは下手です。
なお、この後書きに書いている作品の批評は僕の思っている偏見ですので。