137列車 行き先の候補
翌日。6月15日。
「今度は臨地研修だよなぁ。」
柊木が振った。
「確かにそうだな。今年はどこ行こうって考えてるのかなぁ。」
「また寝台特急とか乗れないかなぁ。」
「乗れるわけねぇだろ。大体こっちに行くやつは夜遅いわけだし、今度は「ゆうづる」は走ってねぇし、青森は去年行ったばっかだし。またあんな遠くまで学校が許してくれるとも思えないけどなぁ。」
現実的ことを北石は言った。「ゆうづる」が動けないのは簡単だ。3月11日に起きた東日本大震災で福島第一原発が被災。その放射性物質が飛散して、半径30キロ圏内が警戒区域に入っており、その枠に入る常磐線の被災状況を見ることができないためだ。
「そうだけどねぇ。でも少しは夢があった方がいいんじゃないか。」
「・・・。」
「まぁ、夢があるっていうのは認めるかぁ。ところで、今年はみんなどこかに行きたいって思うところあるのかよ。東北・北海道以外で。」
「修学旅行で韓国か九州でしょ。だったら九州はないなぁ。」
隼が言った。
「じゃあ、四国か。」
「えっ。沖縄とかもいいんじゃない。」
これには全員吹いた。
「バカ。沖縄何かどうやって行くんだよ。」
「えっ。飛行機とか。船とか。」
「あのさぁ、沖縄は「ゆいレール」しかないんだぞ。それもモノレール。そして、行く方法は飛行機か船しかないし、それだけで2万行っちゃうだろ。」
「じゃあ、どこ行くのさ。」
「まぁ、沖縄だけ意外にもなんかあるだろ。城崎とかの山陰。あの場所行くだけでアメリカに行ける場所とか、鳥取とか、信州とか。まだまだいっぱいあるし、被災してないスポットだってあるはずだ。」
「アメリカに行ける場所っていうのは見当がついたけどさぁ、逆に行って何する気っていうのが・・・。」
「そこ考えなきゃダメだろ。」
北石が声を上げた。
「まぁ、臨地研修はまた8月ごろだろうし、少なくとも7月の20日ぐらいまでに中身ができればいいぐらいじゃねぇ。」
そういうことでここを収めた。
一方、
「今度は臨地研修だな。」
佐久間が口を開いた。今ここは部室。文化祭以降高1はここに足を運んで一緒に昼を食べているというのが続いている。
「あっ。そうだな。」
「臨地研修のことできになったんですけど、去年はどこに行ってたんですか。」
朝熊が聞いた。
「去年はハードだったよねぇ。青森県民には騙されるし。」
「何があったんですか。」
「青森県民に騙されたていうのは嘘だけど、ねぶた祭りを重なってホテルに止まれないから、0泊3日だったし。まぁそれでもいいこともあったしね。「カシオペア」とかあっち走ってく寝台特急のほとんど見たし、「はくつる」にも乗ったし。」
「「はくつる」ですかぁ。「カシオペア」もそうですけど、カマなんだったんですか。」
「カマは確か「カシオペア」がアオカマの513で、「北斗星」はアオカマの504で、「ゆうづる」はアカカマの90で、「はくつる」はアカカマの57で、「あけぼの」は・・・あれ。上野なんだったかなぁ。青森で見たのは双頭のアカカマの139だったのは覚えてるけど。」
留萌が首をかしげた。
「確か。EF64の1030号機じゃなかったっけ。」
木ノ本が自信なさげに続けて、携帯を取り出した。写真を見つけたらしく、その時の牽引がEF64-1030号機だったことが裏付けられた。
「あと「なごみ」も見たし。結構いいことづくめだったよねぇ。」
「・・・。」
「ええ。先輩たちいいなぁ。そんなにいっぱい見てるなんて。僕だってそれぐらい見たいって思ったことありますけど、見れないんですよねぇ。まぁ、高崎に深夜にくる「北陸」と「能登」と「ムーンライトえちご」ぐらいは見たことがありますけど。」
「お前だって十分見てるじゃん。」
「今年は行くんだったら東北はないですよねぇ。」
「・・・。そうだな。仕方ないね。」
「でも、東北以外行くところがないわけじゃない。アド先生がよくいう和歌山のほう回ってくるのだっていいわけだし・・・。」
醒ヶ井がそう言うと、
「えー。紀勢線で回ってくるのかぁ。」
ブーイングが起こった。いや、紀伊半島にはそれだけ行きたくないのだろうか。アド先生が言うにはここは人気がないらしい。20年以上の歴史を持っている鉄研部で、18切符で回りおせる一番の近場に行ったことが一度もないらしい。
「まぁ、そこは醒ヶ井の言うとおりだな。」
それからというものみんなでどこに行きたいのかという話になった。僕としては東北に行けないなら、北陸に行きたい。これまで一度も僕が足を踏み入れたことがない場所だ。北海道は「北斗星」と去年行った。四国は小学5年生の時に「しおかぜ」で。九州はおととし。大雑把にいうと僕が足を踏み入れたことがないところは山陰と北陸なのだ。
しばらくすると昼休み終了の鐘が鳴った。その鐘を聞いて、僕たちは部室を出る。
「今年かぁ。さくらはどこに行きたいと思う。」
「行きたいところがいっぱいあるからなぁ。自分としてはここっていうところが思いつけないなぁ。榛名はここに行きたいっていうのが決まってるの。」
「全然。今行きたいってところはないなぁ・・・。」
木ノ本たちがそう言う話をするのが嫌でも聞こえてくる。まだ二人とも行き先が決まっていないみたいだ。じゃあ、ここは提案すればもしかしたら・・・。
その頃箕島は・・・。
「箕島。・・・。箕島。」
「えっ。何。」
「なにじゃないよ。お前週番だろ。黒板。」
クラスメイトが前に4時間目の授業のままになっている黒板を指差した。あわてて、黒板を消す。頭の中で次のことを考えていたからだ。部長は臨地研修が終わるまでやる。自分に最後に残された任務は臨地研修の成功だ。それが終わったら部長は北石に移行する。今自分が考えている臨地研修の行先は四国。まぁ、佐久間がこれに納得しまいというのは目に見えている。納得しないなら来なければいいだけの話。アド先生だってそのつもりでいるはずだ。もうすでに部員として認めないとまで言ったぐらいだ。
「キィィィィィ。」
自分でも聞きたくない音が出た。黒板と自分の爪がすれたのだ。
「箕島君やめてよ。」
どこからともなくブーイングが起きる。まぁ、相手の嫌なことをして遊ぶっていうのがこの4組のつねだ。今はそういう気はなかったけど・・・。まぁ仕方ない。
「箕島。今日はどうしたんだよ。さっきからボーっとしっぱなしだぞ。」
「いや。ちょっと考え事しててさぁ。」
「考え事。もしかして、彼女とかか。お前もとうとうできたんだな。」
「そういう意味じゃないって。聞いてあきれるぞ。」
「じゃあ、何なんだよ。」
「部活動でどっか行くっていう話になってるんだけどどこがいいかなぁって。・・・。俺は四国がいいと思ってるんだけど、特に副部長がそれでいいって言ってくれるかなぁってことがなぁ・・・。」
「副部長がって。何お前と副部長仲悪いのか。」
「おい。仲良かったら俺のホモ疑惑がたつ。」
「・・・。ああ。ワリィ。ふざけて聞いてた。で、四国じゃなかったらどこに行くって思うんだよ。」
(・・・。あいつのことだし、多分・・・。)
「まぁ、おそらく北陸だろうなとは思うけど、まだ本人に聞いてないし・・・。」
「なんだ。じゃあ、聞いちゃえよ。自分だけで迷っても仕方ない問題なんだろ。」
(そうなんだけどなぁ・・・。あいつの場合頑固だからなぁ。前はあれで折れたというは和解した状態にはなったけど、今回はあいつが折れてくれるか・・・。とてもそうは思えないなぁ。)
放課後。僕たちは部室に集まった。箕島と醒ヶ井は補修。だから、1時間待つ必要がある。しかし、アド先生は非常勤で7時間目の授業がないから、今は部室に来てもらっている。
「そうです。北陸なんかどうかなぁって思ってます。」
「北陸ねぇ・・・。」
アド先生は語尾を濁らせた。
「北陸もいいとは思っていますけど、四国とかはどうなの。それか紀伊半島のほうとか。」
「南紀白浜は嫌です。」
「なんでよ。」
「何となくです。」
「何となくってなんだよ・・・。まぁ、今回も紀伊半島のほうには行けそうもないなぁ。」
アド先生はそう独り言を言った。授業終了の鐘が下のバスケット部の練習にかき消されて、ところどころ聞こえてくる。もうしばらくたったら箕島たちもこの部活にやってくる。その時に自分の原案を言えばいい。もちろん北陸に行きたいとだけだ。数分経つと中学生がどやどやと押しかけてくる。そして、醒ヶ井と箕島もやってきた。アド先生は全員を座らせて、
「えーとそれでは今日はミーティングをしたいと思います。これから臨地研修の話になっていきますが、みなさんどこに行きたいかということはありませんか。今候補として、北陸が上がってます。」
「あっ。その。」
箕島が手を挙げた。
「僕は四国に行きたいと思ってます。」
(・・・。部長と副部長が割れたかぁ・・・。)
「他にここに行きたいっていうところはありませんか。」
アド先生はみんなの顔を見回した。どうもそれ以外の場所の候補は出なさそうである。しばらく黙ったまま時間が過ぎていく。
「分かりました。どうもこれ以外には出ないようなので、臨地研修の行先の候補は北陸か四国のどちらかにしたいと思います。皆さん次の部活動までにどちらにするかということを考えてきてください。後今日来てない木ノ本君と諫早君と新発田君にもどちらがいいか話しといてください。」
今日佐久間は顔を出している。認められてもいないのに・・・。完全に無視する気でいるのだろう。僕としてはどうもその考え方が理解できない。
アド先生は部室のほうを出ていくと、それにつられるような形で他のメンツも部室から出ていく。僕も荷物をまとめて、部室を出ようとした時箕島に呼び止められた。
「なんだよ。」
「いや。まさかとは思ったけど、本当にそうだとは思わなかっただけ。」
「俺の考えっていうのは人には読みやすいのかなぁ・・・。」
「・・・。そうかもな。」
お互い数秒黙っている。
「いうことが何もないなら、帰るぞ。」
「永島。もしこれで研修の行先が北陸になったら、俺はそれを成功にちゃんと持ってくからな。」
「・・・。もし四国になっても俺は文句ないよ。」
(えっ。)
箕島は意外そうな顔をした。
「文句言うとでも思った。まぁ、思われても仕方ないかも・・・。四国には一度行ったことがあるから。出来ればもう一度行ってみたいなぁって思っただけだよ。」
「・・・。」
「んじゃあ。そういうことで。」
朝熊たちが待っているといったので、僕は足早に部室を出た。
(あんなこと言ったけど、できれば・・・。「スノーラビット」を・・・。)
(永島はあんなふうに言ったけど・・・。本当は・・・。)
彼幽探偵のほうの先の展開を考えたところ。(ネタバレOK)
結構立った後に対抗できるものが作られます。しかし、すべては計算の内。永島は自分をこの立場に追いやった人物を許さないために実行したことだということが後々わかっていくことになるという展開を考えてみました。物語的に言えばストーリーの最後です。