136列車 認める 認めない
翌日12日はふつうの日曜日で休み。13日は月曜日だが、11日分の振り替えで休み。次に学校があるのは14日だ。今日は文化祭の片づけを行う。大体文化祭の片づけは2度に分けて行われるのだ。去年はホールの職員昇降口の隣にある倉庫が借りられ、ハイエースに乗りきらない分をそこに置いた。今回そこは借りられなかったものの、準備の時と同様、ホールの北側に並べて置いておくことになっていた。別にホールを使う当てが今日はなかったから、別に迷惑にはなっていないだろう。
放課後部室に赴いてみる。部室の中には柊木、隼、北石、汐留、己斐がすでにいた。朝熊は今日死んでいて、潮ノ谷は用事でこれないということだった。他の人はまぁ、これから来るだろう。
「今日は片づけですよねぇ。」
汐留が確認するように聞いてきた。
「そうだけど。どうかしたのか。」
「いえ、なんでもありません。ただ、そうじゃなかったら困ったなぁという意味で・・・。」
しばらくすると3年生も顔をそろえてきた。木ノ本、留萌、箕島、佐久間。中学生のほうもだんだん集まってくる。大嵐、新発田、青海川、牟岐。中3が集まっていないけど・・・。中3はこのところ出席率が悪い。
「それでは皆さん手伝ってください。」
部室のドアが開いて、アド先生が部室の中に入ってくるとそう言った。そう言ったらすぐに来た道を戻っていく、これからバンを借りてくるのかもしれない。僕たちはその間にホールに行って、ホールからモジュールを運び出すのだ。
「おい。佐久間。運びに行くぞ。」
「ああ。鍵は俺があとで閉めてくから安心して。」
箕島は簡単にはこの言葉は信じなかった。なんせ前手伝っていなかった人である。そう言って逃げる可能性は高い。
「鍵は俺が閉める。だから、お前も運ぶの手伝ってくれ。」
「ちゃんと俺が閉めるって言ってるだろ。だから、さっさと行けよ。別に誰も盗りに来たりとかしねぇよ。」
(盗りに来ないのはそうかもしれないけど・・・。)
「お前が運ぶのさえ手伝ってくれればいいんだ。」
「いいから早く行けって。お前だってやらなきゃいけないんだろ。」
佐久間は立ち上がって箕島を突き飛ばした。ドアのところまで突き飛ばしていって、ドアを開けたら箕島を抛り出した。
(クソッ。)
立ち上がると佐久間のことはどうでもよくなった。これならもう引き上げる必要なんてない。活動意欲さえなくなっているのだから。
途中スリッパに履き替えて、ホールのほうに向かった。ホールの入り口の前には先に行った人たちバンが来るのを待っている。そのうち数人は入口の外で待っている。
「佐久間どうしたんだ。」
僕はそう話しかけた。
「ダメだよ。何と言っても来てくれそうもなかった。」
「そうかぁ・・・。」
「ナガシィ先輩来ましたよ。」
柊木はそう言って外から中に戻ってくる。
「よし。運ぶかぁ。どうせ一番最初は「上野駅」からだから・・・。柊木、北石。その気の箱運んでって。おい。他のやつらもやれ。」
外に行っていた人も戻ってきて、運び作業に加わる。僕はそのまま運び作業には加わらずに、
「おい。二人とも本当に休むのが好きだな。」
新発田と牟岐の間に割って入った。
「手伝ってくれないかなぁ・・・。ずっと先輩たちに任せておくっていうのもどうよ。」
「だって今は大きいものしかないじゃないですか。女の子の力じゃ持ち上がりません。」
「いいから手伝えって。二人なら持ちあがるだろ。」
「持ちあがらないものは持ちあがらないんですよ。あれ重すぎなんだもん。」
「・・・。なぁ、隼。頼んだ。」
「えっ。頼むって何をですか。」
僕はあとのことは隼に任せて、作業に加わった。
「永島さん。新発田はあんなふうに言っても動きませんよ。」
手伝いに行った時僕の隣にいた大嵐がそう話しかけてきた。
「じゃあ、どうすればいいんだよ。」
「簡単に言えば・・・おい。サナブキ。運ぶの手伝ってくんない。それとも運ぶと壊しちゃうのか。不器用だから。」
「あたしはそこまで不器用じゃないってば。」
(よし。一人上がり。)
「コムギコ。お前はパン工場にでも行って、パンにでもなりたいとかって考えてるのか。」
「考えてませんよ。」
大嵐が冷かすと二人ともこちらにやってく手運ぶのを手伝ってくれる。先に運び終わっている気の箱はないから、どんどん白いケースを運んで行こうとするのだ。
「ねっ。言ったとおりでしょ。」
「あとでお前どうなっても知らないぞ。」
「大丈夫ですよ。制裁受けるのは僕じゃないんですから。」
大嵐の目つきが一瞬変わる。恐らくクラスメイトの内の一人なのだろう。文化祭の時にでもそう言って、新発田がその人に怒ったことを知っている。そして大嵐は同じクラスメイトだからそれを知っていて当然。自然と矛先はそっちのほうに向くということをよんでいるのだろうか・・・。
「でも、牟岐のほうは知らないぞ。」
「ああ。牟岐のほうはいま思いつきで言っただけですから。そっちは・・・。まぁ、大丈夫ですよ。・・・きっと。」
「響先輩。」
牟岐の声がしたかと思うと、次の瞬間に大嵐の顔の前にモジュールを抜いた白いケースが飛んできた。いや、牟岐が振り回したというほうが正しい。
「この野郎。てめぇやったな。」
「ベーダ。紗奈先輩が「冷かしが続くのが嫌だから」、言うこと聞いたんですってさっき言ってました。」
「・・・。」
「危なーい。」
今度は新発田の声だ。恐らく今手に持っているのはさっき牟岐が振り回した白いケースだろう。それをそう言いながら、大嵐の後ろから振り下ろす。いい具合に大嵐に直撃したのだ。
「この野郎・・・。ぶっ叩くことねぇだろ。」
「いいじゃん。これで貸し借りはなしよ。」
「貸し借りってなぁ・・・。」
「ふざけてるな。お前ら。ちゃんと仕事しろ。」
北石のその一声で、収まった。この段階では収まってもまたあとで火が付くことになるかぁ。それからは正直になのかどうか知らないが、別に何の文句も言わずにホールの外への運び出しを手伝ってくれた。バンがいっぱいになって汐留がまず寮に行く。そこまですんだら、しばらくやることがない。その間にもまたさっきの延長戦をやっていた。
ハイエースが戻ってくると、延長戦どころではない。積み込みを手伝って、または混んでいく。今度は己斐が寮に行った。またハイエースが戻ってきて、モジュールと車両を寮に運ぶ。積み込みが終了したら、今度はのこった人全員で寮に行く。寮でまた運び込みをやるためだ。当然のことながら、ハイエースが先に寮についていて、汐留と己斐がモジュールを運び上げていた。それに加わって僕たちも運ぶのを手伝う。
「佐久間君はどうした。手伝ってくれないのか。」
アド先生モジュールを寮の中に運び込んでいる僕にそう聞いてきた。
「さぁ。」
「佐久間君は部室に携帯いじりに来てるだけじゃないだろうなぁ。」
携帯が私たちの中に入ってきてから、今や暇な時もいじらないというほうが珍しいだろう。だったら、いま何をやっているか。そう考えるのが自然ということになってしまう。僕はこれにもあいまいな回答をした。
こちらから上に運ぶものがなくなってしばらく上から降りてくる人を待つ。向こうの輸送力過剰なのか今玄関にはモジュールも車両のケースもない。2階へ上がる階段がある方からスリッパをする音がして、柊木が顔を出した。
「もう終わりですか。」
と聞いてきた。僕はそれに終わりだよと答えてから外に出る。上に上がっていった人たちも戻ってきて、はいているスリッパを寮の玄関のわきにある下駄箱において、自分の靴に履き替えて出てくる。そしたら、思い思いに部室に戻るだけである。部室まではゆっくり歩いてもアド先生に先を越されることはない。車は学校の前を通っている大通りに出る。そこには中央分離帯があって、ここから出る車は必然的に左折せざるを得ない。車を運転して、寮から出ていちばん最初に左折できるところがある。そこを左折するといったん丘から降りてしまう。下のバイパスに出る前に一方通行の脇道が左にあって、そこに入って北に向かい、そこの最初の交差点で再び左折。今度は丘に上がって、上に出てくる。ただしこの道も上まで完全に上ることはできない。今度は右折して、学校の北側の道から一本奥に入る。そして、学校前の大通りに出て、学校の門に入ってこなければならない。大回りなのだ。もちろん人はこんなの無視していい。
部室に戻ってくると案の定だった。佐久間は携帯をいじっているだけで終わっていたのかもしれない。ずっとこの部室にいたというのは確かだ。僕たちは佐久間と話すこともなく自分の荷物が置いてあるところに行って、座っていた。もちろんアド先生もその場所に現れた。
「佐久間君。どうして片付けのほうを手伝ってくれなかったか理由を聞こうじゃないか。」
アド先生は部室に入ってきて、さっそくそう切り出した。近くにある椅子を自分のところに引き寄せて、腰掛ける。
「俺今忙しいから。」
佐久間からは一言そう言っただけであった。
「忙しいからって、僕には君はそんなに忙しそうには見えないんです。それが理由かもしれないという風には受け止めますけど、今の君のその態度からしてみるとその理由は答えになってないんじゃないかなぁ。」
アド先生の言うとおりだ。忙しいというのはある意味の理由かもしれない。だが、今の状況から言ってその理由は適切ではない。佐久間を見るみんなの顔もいつもに増して険しくなっていく。
「俺忙しいって。」
「分かった。忙しいは分かったよ。じゃあ、どうして忙しいんだね。」
「そんなこと聞く必要なんかないでしょ。」
「いや、聞く必要ないってねぇ・・・。僕は一応この鉄道研究部の顧問なんです。なんで今日はだれだれは休むのかっていう具体的理由を知るっていう権利が僕にはあるんですよ。今の君の忙しいっていう理由は聞きました。じゃあ、具体的になんで忙しいのかってことを教えてくれないかなぁ。」
佐久間が次の言葉を返すまでの時間が少しあった。
「聞く必要ないって言っただろ。」
(こんなやつに言うことなんて何もない・・・。)
「分かった。じゃあ、その理由も聞かないことにしよう。・・・。でも佐久間君。君はさぁ、みんなが働いてるのに、一人だけ休んで自分は手伝わなくてもいいって思ってるのかね。」
(手伝わなくていいなんていったらぶっ飛ばす・・・。今度こそ。)
佐久間からは何も言うことがないらしい。そのまま黙っていた。
「そうは思ってほしくないんだよねぇ。君には君のやり方ってものがあることも認めますが、物事には順序ってあるんですよ。前のカラオケの件だってそうですけど、普段部活動に来てないのに、部活動を中止して、みんなでそっちに行こうじゃないかっていうのはどうなんですか。それはもう考え方としておかしいでしょとしか言えないんです。だから、僕の方だって君たちがしっかり片づけをやってくれれば、今日はお疲れ様でしたっていう気になれるんだけどね、一人でもサボってたりするとそういう気っていうのはなくなっちゃうじゃないですか。」
佐久間はまだ黙ったままだ。いつまでだんまりを続ける気だろう。アド先生は黙ったままの佐久間に対しなにかいい方策はないのかと思ったのか、
「ちょっと、佐久間君以外は今日はお疲れ様でした。どうぞ帰ってください。」
「・・・。」
その声を聞いて大嵐、新発田、牟岐がまず部室から出て行った。
「柊木、北石、隼。俺たちも行こう。」
僕はそう言ってこの場から去ろうとした。特に今この場所に北石がいるということがまずいだろう。この部室で暴れてくれてもこっちが困る。
「あっ。永島先輩。ちょっと待ってください。僕も一緒に。」
「ああ。分かった。」
一緒に変えるという朝熊を少し待った。そして、部室から僕が出た時だった。
「分かった。もういいです。佐久間君。君はこれから部室のほうは出入り禁止とします。もう鉄研部員としては認めません。」
アド先生の声が耳を貫いた。
帰り道、
「佐久間って何考えてるんだろうなぁ。」
北石がつぶやいた。もはや先輩でも何でもないみたいだ。
「おい。さすがに呼び捨ては・・・。」
「今日さぁ、俺あいつのことまた先輩だなんて思いたくねぇって思った。」
北石はいつでも牙をむけそうな声で淡々続けた。
「・・・。」
「なぁ、柊木。隼。お前らは思いたいのかよ。あいつが先輩って。」
その問いに柊木も隼も答えなかった。
展開どうしようかなぁ・・・。このまま落ちていくのか、引き上げられるのか・・・。