134列車 問題 反抗期
その頃、
(はぁ、今日は思いっきりミスった。このあと来るのが1001だったっていうのを忘れてた・・・。ナガシィがいなくてよかった・・・。)
もしここにいたらバカにされる。普段バカにしてるから、その見返りが怖いのだ。
その時間が来て、新浜松側からも西鹿島側からも電車が現れた。到着はほぼ同時。1001が西鹿島行き。1003が新浜松行きだった。この次が1003ならここでもう12分待つことはない。ドアが開いて、車内に乗り込んだ。
「坂口さんじゃないか。」
という声がした。その方向を見てみると鳥峨家だった。私は鳥峨家とは釣り合わないと思っているから、別に問題はない。もちろんこっちからしてみればの話だが・・・。
「よーす。鳥峨家君座らないの。」
「開いてる席って座ってもつまらないと思ってるから。。」
(・・・。同じこと考えてる。まさか・・・。)
「ねぇ、鳥峨家君って鉄道とか興味持ってるわけ。」
「ああ。持ってるけど、お前ほどじゃないぞ。言っとくけどな。」
(それはどういう意味だ。)
黒崎も同じ列車に乗り合わせた。萌がいるのが見えたのだが、その時には萌えはすでに車内に取り込まれていった後だった。だから、自分の電車の中に乗り込んでから落ち合おうと思った。そっちの車両のほうに歩いていこうとすると目を見張った。
(ウソ・・・。まさか・・・。いや、でも・・・。)
自分ではこういう思考が回ってしまった。萌はそういうことは思っていないと言っていた。だが、鳥峨家のほうは坂口のことをどう思ってるかなんて一度も聞いたことがない。まさか鳥峨家は自分のことより、萌のことが好きなのだろうか。どんどん悪い方向に考えが広まってしまう。話したことがないだけにそこが一番怖かった。
(鳥峨家・・・。クッ。)
うつむくしかやることがないように思えた。近くの開いていた席に腰を掛ける。出来るだけ遠くに腰掛けた。
「鳥峨家無さすぎだって。」
「やっぱりそうなるよなぁ。まぁ新幹線の区別はつくのさ。でも0系と200系がどうしても同じように見えちまうんだよなぁ。違うけど。」
「分かる気がする。私も昔は区別つかなかったもん。」
「その知識でか。」
「うん。ていうか。私の知識は友達からのだし。私も電車のこと詳しくなったのは小学校4年生ぐらいだから。」
小学校4年生というのは本格的に詳しくなった時である。それまでの間に100系新幹線は覚えることができた。そして、ナガシィが好きな車両は大体わかるようになっていた。だが、ナガシィが好きじゃない車両やそれほど興味がない車両のことはまだ覚えていなかった。それを一気に覚え出したのがこの時だった。
「へぇ。お前はその頃からねぇ。今この年になっても何もわからない俺が本当のバカとしか言いようがないな。」
「なんで勉強できるじゃん。」
「勉強なんてどうでもいいよ。ていうか、俺が勉強できるのはある人を振り向かせたいからだし。」
「ある人。」
おうむ返しに聞くと鳥峨家はあわてた。
「ああ。なんでもない・・・。本当にこっちだけの話だから。」
「もしかして、彼女とか。」
「か・・・彼女だけど・・・。」
と言ったら鳥峨家は目をそらしてしまった。よっぽど言いたくないのだろう。黒崎梓って。そこまで好きならいっちゃえばいいのにと思うが、自分が黒崎に喋ってしまうと考えているのだろうか。私はそこまでする噺家ではない。その気もないのだけど、近くにいる人を考えると広まる速度がハンパじゃないということを知っているからだろうか。
「へぇ。彼女かぁ。実を言うと私も彼氏がいるんだけどさぁ・・・。」
(何言ってるの私。)
「その人のこと振り向かせたいとは思ってないけど、その人と一緒にいたいってことを思ってるんだ。」
(まぁ、彼氏なんだし、それがふつうだよなぁ・・・。)
「だけど、私もバカでさぁ、別な高校に行っちゃったんだよねぇ。その人今岸川で鉄研やってるんだ。」
「なんで同じ高校いかなかったんだよ。」
「本当は行きたかったんだけど、どう切り出していいかわからなくてさぁ。それに進路の話になると一方的に決めつけてくるっていうか。まぁ、それは私が悪いんだけど。そのせいもあって言えなかったんだよ。」
「・・・。」
「でも、今度会ったら正直に言うつもり。自分がどうしたかったかってことも。これからどうしたいのかってことも。そうすれば、許してくれるかなぁ、なんて。」
その先はこんな話ではなかった。電車の話を持ちかけても、あまり知識のない鳥峨家に振るのでは結構違う。しまいには「その人に俺のこと絶対言うなよ。恐らく笑われるだけだから。」と言っていた。
芝本につくといつものように別れた。今日は鳥峨家が先に消えていった。そのあと自分も消えようかと思った時、誰かが物陰に隠れるような気がした。誰なのかと思ってそっちのほうに歩いていく。すると、その人と入れ替わるようになってしまった。
「梓。」
誰なのかすぐに分かって、話しかけたが、黒崎はそのまま走って家のある方向に消えて行ってしまった。
(梓。どうしたんだろう・・・。)
家に帰ってもそのことが引っ掛かった。ふつう黒崎はあんなことはしない。鳥峨家君がいたからあんなふうになっているだけなのかもしれなかったが、あの時鳥峨家はその場にいなかった。じゃあ、どうしたものだろうか。
「ねぇ。この頃梓変わったことあった。」
ここは薗田に聞くのがいいと思って、薗田にメールしてみた。
「別にないけど、どうかしたの。」
「なんかいつもの梓らしくなかったっていうか。」
そのあとちょっと時間がたってから薗田からメールが来た。
「ちょっと勘に任せて言うから、間違ってたらごめんね。恐らく今日の原因を作ったのは鳥峨家と萌だよ。一緒に話してたんでしょ。だから、梓勘違いしたんじゃないのかなぁ。本当は鳥峨家は萌のことが好きなんじゃないかって。」
「そんなことないって。現に私は鳥峨家のことは好きじゃないし。」
「別に萌が鳥峨家のこと好きか嫌いかなんていいよ。ていうか読解力あるんですか。鳥峨家が萌のこと好きって書いたぞ。ちゃんと。」
「ってそれがもし本当ならヤバいじゃん。」
「よし。そこはあたしがどうにかするから安心して。だから、その間はボイスレコーダーで録音しとくから。」
「しなくていいから。」
そのあとどういう策略を思いついたか知らないけど、
翌日。6月10日。今日の黒崎には変わった表情はなかった。
「ねぇ、昨日のことどうしたのさ。」
小声で薗田に聞いてみた。すると薗田はクスクス笑って、
「昨日。鳥峨家に梓のケーバン教えてやったのよ。そのあとじかに鳥峨家から電話させたのよ。今日あってくれないかって。」
「会ってくれないかって。あれあった後なのにそういうことしないんじゃないの。」
「この際仕方ないじゃん。まぁ、鳥峨家の口から「お前が好きだ」は聞けなかったけど、梓にはちゃんと通じたんだと思うよ。「俺は浮気なんてしねぇ」ってことがさぁ。」
「あのねぇ・・・。」
昨日何があったのか。それは黒崎だけが知っていた。もちろんこのことを萌が知るのは当分先になると思う。それか知ることはないと思う。
時間は10時。この時間から部活動の展示のほうに僕たちは貸し出されることになる。僕たちは凹の周回のほうをどうにかしなければならなかった。
「くそっ。いったいどこがダメなんだよ。」
問題がないはずなのにいうことを聞かない機関車にだんだん腹が立ってきた。
「どうした。永島。」
顔を上げると宿毛の顔があった。なんでここにいるのだろう。
「お前なんでここにいるんだよ。」
「ちょっとな。こっちに用があったから。まだクラス展のほうの準備は済んでないからすぐに戻るけど。」
「だったらすぐ戻れって。こっちはそれどころじゃないんだから。」
「走らないのか。」
「ああ。そうだよ。」
「モーターでもいかれてるんじゃないのか。前そんなこと言ってたじゃん。」
「そんなに単純な問題じゃないんだよ。」
というと宿毛は他人事みたいに言ってクラス展の準備のほうに戻っていった。そんな他人事で済ませれる問題だったら、当の昔に解決している。それが今このときになっても解決していないということは、何かあるはずだ。この周回の電車を走らせまいとしているなにかが・・・。
「どう永島君。まだこっちのほうは走らないの。」
今度はアド先生だ。
「あ。はい。どこかがダメとしか思えないんですよねぇ。配線は全部間違ってないし、電気は両方ともちゃんと言ってるんですけど・・・。」
「それってコントローラーに負荷がかかってるってことだよなぁ・・・。」
アド先生はそう言ってからこちらの凹の周回のほうにはまっているフィーダーのほうを調べ始めた。すると原因が分かったらしい。
「永島君。分かったよ。ちょっとこのフィーダー抜いたからもう一度試してくれないか。」
(フィーダーを抜いた。まぁ、線路に電気は行くんだし問題ないかぁ。)
騙されたと思ってコントローラーのつまみをまわす。するとこれまで言うことを聞いてきれなかったEF510とEF81が言うことを聞いてくれたのだ。両方とも別の方向に動く。これで解決した。
「これで電機関連のほうは解決しましたけど。いったい何が原因だったんですか。」
この後僕はこのことをっか無い方がよかったと後悔した。
「それがねぇ、このフィーダーがはまってた向きが違ったんですよ。それで電気が流れたときに負荷がかかって電車を動かせなかったんです。」
(うわっ。俺はそんな単純な問題に頭を悩ませてたよかよ。)
それを思うと体の力が一気に抜けた。これまで迷ってきた理由がそんなもので解決してしまうとは・・・。
「アド先生。これまでの労力全部返してください。」
そう言ってやった。
勘違いからってよくある話。
ちょっとした構想が一作あるのですが、仮タイトル「非常識の糸口」で世界三大不要長物開発物語を書こうかなと思ってます。これと同じような発想で書いたものがあるのでそれが原作になるのですが、昔の人を僕は知らないので、そこに実在していなかった人の名前でやろうかなんてすごく邪道な考えを持っていつか作ろうと思ってます。