133列車 休みたい準備
6月8日。放課後。
「醒ヶ井。まだできそうにないか。」
「ちょっとしつこいぞ。まだできないって言ってるだろ。」
「確認のためだって。」
「今日はなんだったっけ。」
その確認が済んでから、僕は箕島に今日やることを聞いた。
「今日は確か、机運びだったと思う。それと並行して、1つ目の周回の完成だったはずだ。」
「じゃあ、今日も腕が疲れるってことだな。」
「・・・。そうだな。」
「みなさん。はい。手伝ってください。」
アド先生が来たので、醒ヶ井を残して、僕たちは部室から出た。昨日ごたごたがあったものの北石も来ている。それほど意欲があるということと取っていいだろう。逆に昨日のことですねているのかどうか知らないが、佐久間と夢前は今日来ていない。
「えーと、永島君。南棟の1階の一番東の部屋にたくさん学習机が置いてあるんですけど、それを運んできてくれませんかねぇ。1年生と中学生もつれて。2年生のほうはこちらでモジュールのほうの組み立てをやりますので。」
「分かりました。」
そう返事をしてから、
「えーと、中学生と1年生はこっち来て手伝ってくれないかなぁ。」
と声をかけた。
南棟の1階一番東。ここは今年度使われていない。その代りに大量に学習机が収納されている。今年の1年生はいつもより少し少ない。それで余った机がここに収納されているのだ。行ってみると鍵がかかっている。アド先生のところに鍵を取りに戻ったが、鍵を持っていなかった。部屋の前まで行って、汐留をパシリに使って鍵を持ってこさせた。鍵を開けてみると学習机が2段になって収納されていた。そして手前には使っていない教卓とあとは机兼椅子みたいなものが置いてある。今ここを見る限り、教卓は運び出すときに邪魔にはならない。邪魔になるのは机兼椅子のこっちのほうだろう。
「まずこの変な机のクソッタレをどかしたほうがいいでしょ。」
諫早が言う。
「出さなくてもいいか・・・。どかすだけで行けるかなぁ。」
部屋に入って一番近いところは教卓に邪魔をされている。それの隣のところはちょうどあいている。そこにある学習机に手をかけてこちらに引っ張ってみた。十分行ける。このまま上に持ち上げてしまえば、諫早曰くクソッタレには当たらずに済む。
「新発田。牟岐。お前らは机1つずつでいいから、男衆は机2つずつな。で、まず牟岐。これホールまで持ってって。」
牟岐に上に乗っかっていた机を一つ渡す。次に新発田に下の机を渡し、僕はその隣にある机を持ち上げてホールまで持っていく。ホールに到着するとこれだけで疲れたのか新発田も牟岐も床に腰を下ろしていた。
「おい。休んでるなよ。」
「だって鉄研ってこんな重労働するとは思ってなかったんです。」
牟岐が言い訳を言った。
「まぁ、牟岐はいいとして、何で新発田まで休んでるんだよ。」
「いいじゃないですか。少しぐらい休んでも。」
「少しぐらいって。その少しぐらいをどんどん延長して、働かない気だろ。」
(ドキッ。)
「そ・・・そんなこと思ってませんよ。」
「じゃあ、何なんだ。今のドキみたいな反応は。」
「気のせいですって。」
(気のせいって言ってる時点でそうするつもりだったんだろうが・・・。はぁ。ある意味疲れる。)
「ほら、立って。行くぞ。」
というと新発田は右手を。牟岐は右手を差し出したのだが、すぐに左手に変えた。しょうがないなぁと思いつつも二人の手を握って引っ張り上げる。もちろん萌相手にこれをやったことはない。女の子の手を握ること自体僕にはあまりなかった。1回はあったけど・・・。
「永島さん休んでるなんでずるいじゃないですか。」
汐留がそう言うと、
「そうだ。そうだ。」
新発田と牟岐は声を合わせて僕をいじってきた。ムカッと来て、
「お前らが休んでたからだろうが。」
二人の背中を押してやった。二人を見張る感じで、元の部屋に戻ってきて、二人に1つずつ机を渡す。僕も机を持ちだして、戻ってみると案の定。
「休むの好きだなぁ。」
僕はそう言った時萌がいたらどうしただろうかということを想像してみた。恐らく萌がいたら、いろんなやり方で二人をいじって遊んでいるだろう。最初に思ったイメージがそれだった。新発田だったらかけている眼鏡を外して、それを返そうとせずだろうが、牟岐はどうするだろう。僕と同じでくすぐるに走るだろうか。もう一度二人を立たせて、また部屋に戻って机を渡す。また来てみると今度は休んでいなかったが、その次は休んでいた。エンドレス。
「えーと、これで1、2、3、・・・。永島君。あと5往復ぐらいしてくれないかなぁ。」
「5往復だと。行くぞ。」
「5往復もしたくないです。」
「早くやれば5往復やらずに済むぞ。」
「なんか嘘くさいです。」
「俺いうな。」
そのあとまた部屋に戻り、机を運びを3回ぐらい繰り返したところでアド先生からストップがかかった。これで終了のようだ。
「永島君。今度はあの階段の下にある長机を運んできてくれないかなぁ。」
アド先生はホールの隣にある昇降口に上がっていく階段のほうを指差した。ここの階段の下は倉庫になっていて、長机と工程で使うらしきものと一輪車が入っている。
「えっ。腕折れる。」
「何。腕折れちゃうって言ってるんだよ。これまで何回も運んでたのに折れたことなんかないじゃないか。」
(チッ。ばれたか。)
「えっ。でも折れちゃうんじゃないんですか。そろそろ限界が来て、ポキッて。永島先輩の腕女の子みたいに細いですから。」
「コラ。女の子みたいには余計。・・・行くぞ。」
「えっ。あたしたちは。」
「腕折れると思うから来なくていいよ。こっちの方手伝ってて。」
「それは先輩じゃないんですか。」
「いつまで言ってる。うるさい。」
僕のキャラはいつの間にこんなにいじられるキャラになったのだろうか。元を言えば萌が原因だと思う。しかし、新発田たちは萌の存在は知らない・・・。断言してしまうとまずいかぁ。キラキラ展の時にあっているはずだ。だが、そういうキャラには見えなかったはずだ。なら僕の子供っぽいキャラがそうさせているのだろうか。そんなことはどうでもいい。そこまでくると今度は鍵が開いている。用務員の人が鍵を開けてくれたのだ。ドアを開けて、中似た手に置かれている長机を一つ持ちだす。僕が中から出てくるのと入れ替わりに大嵐が中に入る。
「青海川。手伝って。」
その声に反応して青海川が中に入って行く。これがまた重いのだ。さっきの2段積みの学習机も中が身体とはいえ二つになると思かった。その机を支えていた手と机と接触していた腕の部分が少し痛む。早く済ませれば、それだけ痛むが少なくて済むのだが・・・。人数が多いから2往復だけで済んだ。
この2往復が終わると次は机を配置することである。この長机は今回ホームの中央付近に設置するモジュールの土台に使う。学習机のほうは瀬戸学の人たちの展示と凹の周回になる方で使う。もうすでに凹の周回のほうはほぼ完成の状態になっていた。僕たちも長机の輸送が終わったからそちらのほうに加わる。
「永島。そっちの周回で「上野駅」使うだろ。」
「えっ。うん。」
「じゃあ、「綾温泉」は使わなくていいよなぁ。」
「・・・。そっちは醒ヶ井が作ってる「浜松駅」を使うんだろ。」
「ああ。線路だけはもう完成してるからあれでいくつもり。」
「だったら。「綾温泉」はこっちで使う。「上野駅」の反対側に設置しちゃうって感じで。」
「あっ。そう。・・・。木ノ本たちが作った「東静岡」のほうはどうするんだよ。お前のほうに入れるとなると駅が3つ。そのうち大きなものが2つだぜ。」
「こっちは大きなのだけでいいって。」
「待てよ。それをするってなるとS字が足りなくなるなぁ。」
「S字だったら問題ないと思う。「浜松駅」はあの配置と枚数上S字がいらない駅になってる。だから、「浜松駅」分のS字を考える必要はない。」
「なるほど。じゃあ、必要なのは「中部天竜」と「綾温泉」と「上野駅」だけかぁ。」
「ちょうど6枚で足りてるじゃん。」
S字カーブのモジュールのことはこれで解決した。後は凹の周回のモジュールの組成である。僕は「中部天竜」と「東静岡」はこちらの周回に入れる気はない。だから、JR東海の駅は全部「綾瀬車両区」が配置される方に回すつもりだった。残っているモジュールも多いが、ここは南側を「青木海岸」にするのがうってつけだろう。
「「青木海岸」っていうこれを一番南のほうに運んでって。」
己斐にそう指示を出した。
「新発田。牟岐。後これとこれとこれも運んでって。一つずつでいいから。」
「永島さん。壊しちゃってもいいんですか。」
「バカ。壊したらダメだろ。」
残った「青木海岸」を運ばせる。その次はどれにしようか。向こうを海で統一するというのはいい案だろう。山と山が続いているのだ。なら「青木海岸」の隣は「松風荘」でいいだろう。「松風荘」のモジュールを自分で運んで、次をどうするか決める。コーナーから曲がってきた列車は10枚ぐらい配置されているモジュールの真ん中あたりに「綾温泉」がある。その隣はS字と田舎っぽい風景というか、都会とは少しかけ離れて閑散としている感じ。逆に「綾温泉」の北側は少しばかりにぎわった感じがするモジュールとS字を配置した。
あとはさらに配置を進めていくだけ。後は何の問題もないだろう。配置が進んで、今日はこの凹の周回が完成したところで終了した。配線はまた次の日の話となったが、フィーダー線路はもうすでに組み込んである。
翌日6月9日。放課後。
「はぁ・・・。やっとできたーっ。」
醒ヶ井が大きな声を上げて、伸びをする。その前には建物を配置し終わった「浜松駅」の姿がある。
「やっちゃってくれたな。」
「なんだよ。その言い方は。完成しちゃいけないみたいな言い方だな。」
「よし。醒ヶ井早速運ぼう。これを駅にするところに置いて。」
「ああ。これでようやっと徹夜しなくて済む。」
僕たちは醒ヶ井の作り終えた「浜松駅」をすぐにホールのほうに運んだ。
「うわっ。醒ヶ井先輩ってやっぱりスゲェ。あんな短時間でここまで作っちゃうんだもんなぁ。」
諫早は驚きのあまり声を上げた。自分だって蹴った製作である。それを本当に一人で作り上げてしまったのだ。しかし、そのあと全員が口を合わせて言うのは、エロガイはすごいのかすごくないのかわからないということ。
「おい。そんなことはいいから、こっちのほうをやっちゃうぞ。」
箕島が指示を出して、全員の意識がそちらに向いた。これからはこちらの周回の構築。だが、僕たちのほうはこれ以外にもやることがある。凹の周回のほうの配線だ。
「えーと。1年生と中1はこっち来て。」
僕はそう指示を出した。あっちのほうは3・2年生と中3・2で間に合う。
「配線のほう教えるな。」
「これって覚えないといけないんですか。」
牟岐がそう聞いてきた。
「覚えられるなら覚えちゃったほうがいいけど、気を付けることは一つだけだよ。外内どっちかの配線を間違わなければいいだけ。間違ったららアーッてなるだけだけどなぁ。」
「そのアーッて何なんですか。変に裏声なんか出して。」
「気にするな。気にする前にやれ。」
そのあと朝熊たちはそのことに気を付けて配線を行った。
「永島さん。配線完了です。」
「了解。じゃあ、外内両方に機関車出して、走るかどうか確認して。それで走らなかったら配線が悪いか、車両が悪いかのどっちかだ。」
僕はそう言って朝熊にEF510を青海川にEF81を手渡した。それからしばらく経って、
「永島先輩。EF510(こいつ)もEF81(こいつ)も言うこと聞いてくれません。」
朝熊がそう言った。おかしい。僕はちゃんと走る機関車を渡したはずだ。1年生の時の文化祭からあった展示すべてでEF510は走ってきている。ここにきて調子が狂ったのか。EF81のほうはキラキラ展の展示の際、試験走行の時に走ったことを確認している。だから、走るはずだ。
(おかしいなぁ。)
中に入って、家線のほうに接続したというほうのコントローラーをいじってみた。するとあることに気付いた。電源を示す緑色のライトがつまみをまわすごとに暗くなっていっているのだ。そして、出力を0にするとまた電源ランプはついた。何度やっても同じことの繰り返してある。
(なんでだ。なんで・・・。)
家の模型を10年以上いじってきたが、こうなったことは一度もない。いったい何が起こっているのだろうか。
「朝熊。これとは別のコントローラー持ってきて。」
朝熊に指示を出して、違うコントローラーを持ってこさせる。だが、これでも結果は同じだった。コントローラーは悪くない。じゃあ、何がわるいのか。車両も悪くないとは断言できないが、これまでの展示で走ってきている。走るはずだから、車両のほうに問題はないはずだ。だとすると配線か。そのあと配線のほうも調べてみたが、別に悪いところはない。どこか外内が混ざって結線されているのではないかとにらんだが、そのにらみも外れてしまった。
休みながら準備するってどうだろうか・・・。
少し前にこれの1レを漫画にしてみました。結構それらしくなりました。まぁ、これを言ってしまったらどんな小説でもそういう風にできるんですがねぇ・・・。しかし、僕には漫画家ほど絵心があるとも言えませんし、キャラクターのほうもどうするか思いつかないので、1レでやめてしまいました。