132列車 連鎖反応
翌日6月7日。醒ヶ井は今日も授業中爆睡していた。
「昨日からずっと爆睡だけどさぁ、なんかやってるわけ。」
木ノ本がそう持ちかけた。
「なんかやってるわけって。俺が「浜松駅」作ってるの知らないわけがないだろ。それやってるんだよ。」
「あれって結構完成に近づいてるじゃん。」
「まだ完成したわけじゃないんだと。昨日言ってたけど完成のめどは無し。あの先があるんだから、こいつが思うところまでとことん作ればいいだろ。」
僕が説明を加えた。
「まぁ、完成のめどが立ってないっていうのは今から言うと少しウソになるかなぁ・・・。まだ完全じゃないけど、完成しそうな予感はしてきた。」
「予感じゃダメだろ。」
「ああ。ダメだな。」
そうつぶやいたら、醒ヶ井は何も言わなくなった。次の授業は生物。醒ヶ井は教科書を出したら机にのめった。これが今日この頃の醒ヶ井の様子だった。
「完成まじかって感じだよなぁ。」
箕島ができてきている「浜松駅」を見て言う。今は部室。放課後。
「醒ヶ井。この頃寝る間も惜しんでこれに費やしてるなら、ここの時点で文化祭でも俺はいいと思うけど。」
「バカ。まだこれは完成じゃない。どうにかしてこいつは文化祭までに完成させる。だから、こいつの展示は完成するまで待っとけ。」
「待っとけって言っても時間がない。今日はこれを作る人は運び法に来てくれなくていい。今日の内にバンの中に詰め込んで、明日には必要なものをホームに運び込む。木曜日には展示場の入り口に近い方を構築して、金曜日には完成に持ってかないとダメなんだから。待ててあと2日だ。」
(2日かぁ・・・。)
醒ヶ井は眠そうな目で作りかけの「浜松駅」に目をやった。メイワンと遠鉄百貨店はもうすでに配置してある。問題はこれを夢前が見てどういうかだが・・・。今はそんなこと気にしても仕方がないだろう。そんなことを考えていると部室のドアが開いた。
「諫早。」
「手を上げろ。」
諫早はそういうとモデルガンを片手に、
「ズダダダダダダダダダダダダダダダ。グオッ。グヘッ。グハッ。」
鈍い声がしたと思ったら後ろで木ノ本が怒った表情で立っていた。
「部活にもまともに来ないで何やってるのよ。」
「木ノ本さん。たたくことないじゃないですか。・・・。まぁいいや。で今日は何するんですか。」
「今日はモジュール運び。来てくれたんだから、当然手伝ってくれるよねぇ。」
「手伝いはしますけど、なんですか。その、醒ヶ井さんの後ろにあるクソッタレな建物は。」
(おい。)
「えっ。・・・。「浜松駅」だけど。」
「へぇ、このクソッタレこうなったんだ・・・。」
諫早はしばらく「浜松駅」に目をやっていた。感心しているのか感心していないのかはわからないが。諫早は別に何も言わなかった。それから空河と朝風と大嵐が部室のほうまでやってきた。
「うわっ。スゲェ。メイワンができてる。」
「これって醒ヶ井さんが作ったんですか。相変わらず手先だけは器用ですね。」
「醒ヶ井さんすごいんだかすごくないんだかわかんねぇ・・・。」
3人ともすごく醒ヶ井のをバカにしていることには間違いなかった。それからまたしばらく待っているとアド先生が下から上がってきた。
「みなさん。モジュール作ってる人は製作をつづけてください。それ以外の人はモジュール運びのほうお願いします。」
そう言って、アド先生は階段を下りて行った。僕たちもそれに続いて、部室は醒ヶ井と中学生を残して、全員モジュール運びのほうに専念することになった。
岸川寮に着くともうすでに木の箱が玄関のところに下りていた。
「あっ。ナガシィ先輩たち遅いじゃないですか。」
ちょうど白いケースを運んで下に来ていたのは隼だった。
「先輩たちがなかなか来ないから、北石がバーンって爆発するところだったんですよ。」
「お前なぁ。」
そう言って北石が後ろから姿を現した。現れざま、北石は持っていた白いケースから片手を離して、隼の頭に軽くあてる。
「イターイ。」
「いたいわけねぇだろ。お前は大げさすぎるの。・・・。爆発しそうだったはウソですから安心してくださいよ。アド先生が言うには白いケースとかまぁいろいろ下に運んできてくださいとのことです。」
北石は説明して、持ってきていた白いケースを玄関の邪魔にならないところに置いて上に戻った。僕たちも上に行って運ぶことに加わる。モジュール運びに加わる前にいつもの学習室のほうを覗いてみた。学習室には佐久間と夢前の姿もあった。高校のカバンが5つ。中学のカバンが1つ。それぞれ、2年生と佐久間。そして夢前のものだ。
「おい。二人とも運ぶの手伝ってください。」
北石がそう言ってまた元の仕事に戻っていく。僕たちもそちらに加わった。さすがに加わった人数が加わった人数だった。どんどん積まれているモジュールがはけていく。逆に輸送力過剰になって玄関は半分ぐらいがすぐにモジュールに埋まってしまった。そうなったので一度輸送打ち切り。下に運んだ量の半分ぐらいを積んだところでバンがいっぱいになったので、また戻ってくるまでは仕事がない。その間僕たちは学習室のほうにいた。仕事がない間はここレゆっくりしていていい。だから、みんな携帯とかを開いて、それぞれのことにふけっているのだ。
「永島先輩。来ましたよ。」
朝熊がそう言った。確かにバンがこちらに来るのが見える。
「よし、行くか。」
僕はみんなにそう声をかけて、部屋を出た。一足先に汐留と朝熊が部屋を出ており、僕の後ろの続く形で部屋を出てきた。僕が学習室から出て2・3段ぐらいになっている階段のところまで来た時だった。
「いい加減にしろ。」
北石の声が響いた。何かと思いまた部屋まで戻ってくる。すると北石のこぶしを佐久間が受け止めているのが見えた。
「佐久間。やめろっ。」
箕島が声を上げた。次の瞬間に北石の身体が腹の部分からくの字に折れる。佐久間はさらに追撃を加えるのか。北石の頭を右手でつかんだ。
「早く仕事しろよ。2年生の分際で先輩たちに命令してんじゃねぇよ。」
佐久間はそう言って北石の頭から手を放した。北石のほうはまだ不満があるらしい。まだ佐久間に対して睨みつけたままだった。そして、ゆっくりと右腕を上げる。
「北石。お前もいい加減にしろ。」
潮ノ谷が北石の右腕を抑える。
「離せよ。こいつ1から叩き直してやる。」
「今はそういう場合じゃないだろ。叩き直すんだったらこの後にしろよ。今はするな。」
「潮ノ谷の言うとおりだよ。早く仕事しに行けよ。」
「クッ。」
「柊木。あいつの左腕も抑えて、こっち連れてこい。あいつと佐久間は合わせないほうがいい。」
箕島がそう指示を出して、何とか北石を抑え込んで、こちらに連れてきた。その間も北石はやりきれないという感情がつのっていたらしく、もがいて、佐久間に向かっていこうとしていた。佐久間の姿をこちらから見えないところまで連れてきて、
「北石。気持ちは分からないでもないけど、やめろっ。」
「なんでですか。箕島先輩もそう思ってるならやったっていいでしょ。」
「落ち着け。ここは潮ノ谷の言うとおりだ。そうしろ。あいつのことはもういいんだ。」
「もういい・・・。」
「ああ。もういい。忘れろっていうほうが無理だけど、忘れろ。」
「・・・。箕島先輩にももうあいつを抑える力がないってことですか。」
北石は小さい声でつぶやいた。
「・・・。悪いけど、俺にそういう力がない。永島にもだ。」
しばらく北石は黙ったままでいた。
「そうですか。僕は先輩たちを甘く見すぎてました。」
「そう言われても仕方ないだろうなぁ・・・。」
箕島はそういうと北石の肩から手を離した。北石はゆっくり立ち上がって、朝熊たちがやっている仕事のほうに合流した。僕たちもだんだんとそっちのほうに合流して、モジュールを運ぶ。2回目もバンがいっぱいになってまた学習室のほうに戻ってきた。その時にはその部屋に佐久間と夢前の姿がなかった。3度目。これでバンに荷物が乗りきって僕たちは校舎のほうに戻った。校舎のほうでは中学生たちが運んだモジュールをホールの中に運び込んでいるとのことだった。僕たちがホールの出入り口に着くと、中で休んでいた諫早たちが外に出てきた。
「永島さん。また宮原の6000番は必要ですか。」
「・・・。ああ。持ってきてくれ。」
北石は近くの花壇の縁においているコンクリの上に腰を下ろした。
「正斗さん。」
呼ばれた方向を見てみると新発田の顔があった。
「いろんなところ汚れてますけど、大丈夫ですか。払いますか。」
「ああ・・・。じゃあ、頼むよ。」
しばらく待っているとモジュールを積んだバンがこちらにやってきた。それを見て座っていた人たちも立ち上がる。
「あっ。正斗さんまだ払いきれてませんよ。」
新発田のそういう声がして、僕たちはそっちに目線が言った。北石が少し恥ずかしそうな表情をしたので、僕はすぐに目をそらした。
バンが僕たちの前に止まる。止まったことを確認して、僕たちがバンに寄った。アド先生が車から降りて、荷物がたくさん乗った荷台のドアを開ける。そこから白いケースを次々と運び出した。これも大人数でやったためにすぐに終わった。そのあと僕たちはというと部室のほうに戻った。ここまでやって今日は終了だ。だから、変えるための準備だ。部室にやってくるとそこには夢前の姿があった。
「なんで。なんでこれをこんな風にしたわけ。」
「なんでじゃないだろ。お前らがなかなかこれを完成させようとしないから俺がやるって話になったんだ。やってやっただけでも感謝しろ。」
「そこには感謝するよ。でもなんで。なんで引込線をなくしたんですか。」
「引込線。必要だったのか。」
「北石。お前は早く帰れ。」
「あ。はい。お疲れ様です。」
「お疲れ。」
先に帰れの指示は箕島からだった。確かに、またここに北石がいるとなるとさっきと同じ状況になりかねないのは見え見えだった。北石が階段を下りきったようで、階段にスリッパをたたきつける甲高い音がしなくなる。隼は少し背をかがめて、北石がステージの向こうに行って、いつも靴を置いているほうに消えたことを確認した。
「はぁ。俺の代わりに怒ったっていうのが・・・。」
箕島はため息をついてから、部室のドアを開けた。ドアが開くとこのドアは甲高い音を出す。そのために部室の中にいる人の目線がドアに集中するのだ。
「あっ。箕島さん。なんでこれこういう風にしたんですか。」
「さっきも言ってたんじゃないのか。醒ヶ井が。お前がなかなか作ろうとしないから俺たちが進めただけの話だよ。」
「諫早さん作ったんじゃないんですか。」
「なんだ。聞かなかったのか。俺は言ったぞ。その「浜松駅」には俺は手を出さないって。」
すると誰かが僕をつついた。
「あの。永島さん。私たち先に帰っていいですか。」
新発田と牟岐だった。
「帰るのはいいけど。まだ荷物が部室の中だろ。」
「ちょっと取ってもらえませんか。新発田さんのはすぐ近くのストラップいっぱいので、あたしのは新発田さんの隣にありますから。」
牟岐が声をひそめて言う。確かに中にはドアすぐのところに置いてある椅子の上にストラップがいっぱいついたバッグが一つ。その下にもう一つ中学生のバッグがある。僕はできるだけ手を伸ばして、二つを取って、二人に渡した。
「ナガシィ先輩。あたしのバッグも・・・。」
「便乗するなよ。」
「あっ。ナガシィ先輩真に受けるとは思ってませんでした。やさしいんですね。」
(いや。そういうこと言われても・・・。)
「冗談ですから。自分のバッグぐらい自分で取ります。」
「・・・。」
「なんでそう先輩たちは僕が指示してないのにこういうことを勝手にするんですか。」
「・・・。」
「勝手はそっちだろ。作るって言っておきながら作んないってどういうことだよ。」
「・・・。でも、これを作るのに一番権利があるのは僕なのに。なんで。なんで僕を通さないんだよ。」
「権利も何もないだろ。」
「そうだよ。作ってもないのにえらそうなこと言うなよ。誰が手案したかなんてそんなことはどうでもいい。」
「・・・。も・・・もういいですよ。」
夢前はそういうと部室から出て行った。
「箕島さんはあいつのことどう思いますか。やっぱり佐久間さんと同じようにどうしようもないですか。」
諫早がそう聞いた。
「どうしようもないとは思ってないけど、わがまますぎるんだよなぁ・・・。」
(わがまますぎるかぁ・・・。)
鉄研部の中はますます険悪になる一方だった。
サブタイトルをどういう風にしようかなぁってよく迷います。これも「誘爆」にするか「爆発 爆発」にするか迷いました。