131列車 急ピッチ
醒ヶ井が「浜松駅を作り始めた。僕が線路配置を決定して、その先は何かつかんだらしい。僕たちが口出すようなことでもないため、そのまま放っている。醒ヶ井は何度も部室まで来て、必要なものを持って下に下りる。それを何度か繰り返した。
「おはよう。あれ。醒ヶ井君なにしてるの。」
アド先生が来た。
「何って。「浜松駅」作ってるんですよ。」
「それは別に文化祭に間に合わせなくてもいいんだけどねぇ。」
「誰がやるって言いだしたかは知らないけど、これも作れるとしたら僕しかいないとかって・・・。そこは大げさかもしれませんけど、そう言われたんで。」
アド先生はその隣を歩いて行って、
「あっ。醒ヶ井君。それそのままだと・・・。」
「運べないからどうにかしろってことですよねぇ。それはちゃんと聞いてますから大丈夫です。発泡スチロールでこの線路を上げて、その下に何か板でも入れればいいんですよねぇ。」
アド先生が言おうとしたことを先に言う。
「そうです。で、それをするときに道路の配置とか決まっていたほうが・・・。」
「昨日取材に行ってどんな感じかは見てきました。問題ありません。」
(・・・。そこまで進んでるなら安心かなぁ。)
アド先生は部室に上がってきた。
「おはようございます。」
全員その声で出迎える。
「夢前君が作ろうとしてるの、醒ヶ井君が作ってるけど、いいのかい。」
「ああ。夢前が作ろうとしないから、醒ヶ井に頼んだんですけど・・・。」
箕島がそうした理由を言う。
「醒ヶ井君は作り方は分かってるから問題はないと思うんだけどねぇ。」
アド先生が独り言を言った。アド先生の言うことは当たっている。醒ヶ井の腕はすごいものだった。難しい構図を手掛けたのだ。特にアド先生が驚いていたのは、最初のモジュール作品(2年生の時)が工事現場の建設と中を作り上げてしまったことだった。ストラクチャーを切り刻み、その上にネットを張る。それも現場風に。ストラクチャーを切り刻むぐらいはだれでもできる。問題はその先だった。
お昼までの間に箕島は「犬山橋」のほうを完成かせてしまった。そして、僕たちは下に言って「浜松駅」の進行状況を見に行ってみた。
「えっ。」
最初に上がった言葉はそれだった。
「醒ヶ井もうここまで作ったのか。」
「ああ。のこぎりで切るのが面倒だったけど、一個やっちゃうと後は速いなぁ。」
醒ヶ井はそんなことを言っていた。どこまで進んでいるかというと線路配置が既に完了していて、もうすでにバラストのほうもまき終っている。線路が5本入ったということを確認してあるようで、その幅に切ってあった。高架橋の壁には高架橋の側壁を切り落として使ってある。そして、本物ならおそらく豊橋側と思われる1枚目は発泡スチロールで高架にしてあるのだ。もちろんアド先生が出した条件すべてクリアしている。
「お前化け物だな。」
「化け物ってなんだよ。化け物って。」
「いや、ふつうこんなデカいのここまでやれる人いないって。」
「そういうもんなのかなぁ・・・。でもこの1枚目だって完成なわけじゃない。高架橋にした発泡はまだ全部むき出し。これをなんかで隠して、前のほうには建物を置かないと。それに、建物は全部作らなきゃいけないんだろ。市販してないんだから。」
確かにその通りだ。この状態ではまだ見栄えが悪いのは確か。高架橋の下に置いてある発泡は乱雑に配置されているだけ。これは隠さないといけない。そして、お客様側になる方はまだ何も置かれていない。もちろんここに置くべきは建物とかどうろ。そして、ここに置かなければならない建物はすべて売ってないのだ。醒ヶ井の言うとおり作るしかない。
「で、問題はその建物をどこまで作るか・・・。」
「えっ。」
「そこ迷うところなのか。」
留萌が聞き返した。
「あのさぁ、これの幅が2メートルぐらいあったら迷うことないかもしれないな。でもこれの大きさは45センチ。この中で道路と建物を配置するってなるとどうしても、建物の大きさに制約があることになる。建物全体を作ることができないだろ。」
「確かに。これの幅はなさすぎる。家にもこれ以上の大きさのものがあるけど、それだって幅は1メートル化2メートルぐらいはある。」
「永島。それはあんたの家にあるレイアウトが大きすぎるだけだと思う。」
「うーん・・・。建物全体を無理やりこの中に押し込めちゃうっていうのはどうだ。」
箕島が提案する。
「いわいる。縮尺を無視しろってことか。」
「そう。そういうこと。」
「それも考えてみたけどさぁ・・・。」
「でもどっかで妥協しないとできないわけだろ。だったらここで妥協したほうがいいんじゃないか。」
「・・・。」
醒ヶ井はしばらく考えてから、
「結局そうしないとだめか・・・。やっぱり無理やり押し込めるしかないかぁ。」
とつぶやいていた。
「醒ヶ井。休憩しないのか。」
「してる暇がないだろ。大体。これがあと1週間無い状態で完成できるって言ったのどこのどいつだよ。」
「・・・。」
「大丈夫。これの俺の昼ご飯は晩ご飯にする。」
醒ヶ井はそう言って、また作業に取り掛かった。
「あっ。箕島。」
その声に箕島が足を止める。
「部室の鍵だけどさぁ、文化祭が終わるまで俺があずかっていい。」
「預かってもいいけど、どうするつもりだよ。」
「どうするも何もないけど、今この状態だと、俺がこれから進めて、5枚高架にして、その発泡を隠すぐらいのことまではできると思うけど、おそらくその先は無理だ。建物のほうは俺が早い段階で部室に来て作るかしないと間に合わない。もしそれでも間に合わないなら家で作る。そのためには部室の道具を少し持って帰らないとできない。家には工具とかがないんだ。」
「なるほどねぇ。でも、鍵なくしたらそれどころじゃないぞ。」
「分かってるって。なくさないように制服の中に入れとく。」
「・・・。じゃあ、帰りの時に渡すから、その時でいいか。」
「ああ。ありがとう。」
また作業に取り掛かった。
今度醒ヶ井が作っている「浜松駅」を見たのは16時30分だった。その時には「浜松駅」は残っていた4枚とも全部高架になっていた。本物そのままの高架駅になっていたのだ。それも今度は土台の発泡スチロールすべて見えないように加工してあった。パッと見る限り紙のようなもので隠している。
「おい。これで文句あったらぶっ飛ばすぞ。」
「文句ない。後はこれで車両が通れるか確認すれば・・・。」
「おい。それはただ単にお前が遊びたいだけだろ。」
「ハハハハ。ばれた・・・。」
「バレバレだよ。」
「まぁまぁ、よし。今日の作業はここまでだな。片付けよう。」
箕島は僕たちを促して、僕たちは片づけに取り掛かった。体育館のステージの上にはこれのおがくずがたくさん落ちていた。それを全部かき集めるとちょっとしたボタ山ができた。もちろん山という程の高さはない。おがくずに交じってプラスチックとか、発泡とか、そのクズも交じっている。きれいなゴミの山ではなかった。
「おーい。そこのデカいゴミこれで吸い取るよ。」
木ノ本が上から掃除機を持ってきていた。掃除機を起動させて、おがくずの山に突進する。もちろん一度では吸い取れない量だ。何回か往復しながらゴミを処理した。
「よし。これでオーケイだろ。」
木ノ本が掃除機のスイッチを切った。掃除機を持ち上げてみると吸い取り口のあたりにまだたくさんゴミが残っている。
「おい。この掃除機ゴミを吐き出してるぞ。」
「掃除機。ゴミを吐き出すんじゃない。全部吸え。吸うんだ。」
もう一度掃除機のスイッチを入れて、ゴミをとる。またスイッチを切ると同じことが起きた。この掃除機は人間で言う中学生と同じだ。反抗期の真っ只中のようだ。何度やっても結果が同じというわけではなかった。何度もやっているうちにはきだすごみの量は少しずつではあるが減っていった。しかし、完全には吸いっとってくれない。
「ねぇ、箕島。この掃除機いい加減ボコしていいか。」
「ボコすのはよしとけって。お前の手が痛くなるだけだぜ。」
「そうそう。後はほうきでどうにかするから大丈夫だよ。」
掃除機に変わって古典的なほうきとちりとりで残りのゴミを処理した。あとはバスケット部が体育館のフローリングをきれいにしていると思われるモップを使って残ったゴミを再度かき集めて、ほうきとちりとりで片づける。それが終わったら全員部室に戻って、自分たちの荷物を持って部室を出た。今日来ていたのは2年生全員と朝熊、己斐。中学生は来ないということが多くなった。
「醒ヶ井。これ部室の鍵。ちゃんと閉めてけよ。」
箕島はそう声をかけて部室からステージに下りるために階段を下りていった。
(・・・。あのモジュール建物は本当に家でやらないと終わらなくなってきたなぁ。今日あすこまで進んだのは進歩かもしれないけど、あの先は家でやらない限り間に合わないだろうなぁ。ちょっとこの中にあるものを使って家で作ってみるかぁ。メイワンと遠鉄百貨店。)
目的のものを探し始める。それもなかなか見つからない。何とか見つけて、家に持って帰った。
家に着くと早速メイワンのほうに取りかかった。もちろんこれもどうなっているのかは調べてきてあるから、携帯で撮った写真を見ればいい。建物の輪郭を作る前にどこに中の補強をするか決めて、部室から持ってきた道具を使ってその通りに設計してみる。全部を忠実ではきりがないので、昼に決めた縮尺無視をして何とか押し込むことにした。だから、撮ってきた写真が100パーセント参考になるわけではなかった。
翌日。6月6日。昨日作ったメイワンをそこにおいてみた。寝たのは今日の3時だった。
「醒ヶ井。ちょっと起きて。」
(昨日なんかやってたんだな。)
僕はそう思って醒ヶ井のほうを見ていた。いつもは寝るような奴じゃないけど、今日は珍しく寝ている。逆に今日はほとんどの時間寝ている木ノ本が起きている。今日は関係が逆転しているようだ。
「醒ヶ井。今日爆睡してたけど、何やってたんだ。」
「決まってんじゃん・・・。昨日家に帰ってメイワン作ってた。」
醒ヶ井が顔を上げた。目の下にクマができている。
「お疲れ・・・。」
醒ヶ井が言うには文化祭までに完成するめどはまだ立っていないらしい。
突貫工事には沿線住民の理解と協力が必要ですよ・・・。