130列車 最終雇用
6月4日。今日は土曜日の第一週。今日は授業日。その授業が終わると部活だ。部活は13時から。だからそこまでの間は休んでいていい。今日は何とか醒ヶ井を引き連れてくることができた。
「で、俺に何しろっていうんだ。」
理由を知らない醒ヶ井はそう聞いてきた。
「行ってみればわかるよ。」
僕はそうとだけ答えた。部室に醒ヶ井を連れてきたが、部室にはまだだれもいない。その証拠に鍵がかかっている。
「誰かが鍵取りにいかないといけないパターンじゃん。」
「よし。醒ヶ井行って来い。」
「はっ。ふざけるなよ。お前そう言って一度も鍵取りに行ったことないじゃないかよ。」
「あれ。そうだっけ。」
「おい。二人とも漫才はそこまで。」
という声がした下を見てみると木ノ本の顔がある。
「今日も箕島は来るから。授業終るまでここの部室で待ってろだって。理由はそのあと説明するって言ってたよ。」
木ノ本はそう言いながら、僕に鍵をパスした。僕はそのカギを受け取って、部室のドアノブに鍵を差し込み、部室を解放した。部室を解放するとどこからともなく人がわいてきた。今日は珍しく汐留も部室に来ていた。
「永島先輩。ちょっと昨日いいもの見てきちゃいましたよ。」
朝熊はそういうと僕にカメラを渡し、そして、昨日取ってきたであろう写真を僕に見せた。中に入っていたのはここら辺を走っている鉄道車両の写真。中には遠江急行のものや遠州鉄道のものまで含まれている。
「遠州鉄道ってまだあの湘南電車走ってるんですね。」
湘南電車というのは遠州鉄道の30系のことだろう。デザインがよく似ているから湘南電車と言ってもおかしくはないかぁ・・・。朝熊は感心しているみたいに言っていたが、
「いや、珍しくないって。遠州鉄道のほうはこれが朝のラッシュに平日限定で・・・。」
「いえ。朝のラッシュだったら珍しくないじゃないですか。問題は時間ですよ。時間。これは昨日の15時54分に助信で撮ったものですよ。」
その言葉に僕は一瞬驚いた。そういえば僕は萌からこのことだけは聞いたことがなかった。まさか僕に秘密でこれに何度か乗っているのではないだろうか・・・。腹が立って、ちょっとメールを送ってみた。
「萌。遠鉄で平日の15時54分限定で30系が走ってるって本当の話。」
「走ってるよ。せっかくナガシィに聞かれないようにしてたのに。昨日どっかで私のこと見たの。」
やっぱり僕には知られないようにしていたようだった。
「見てないけど、後輩が教えてくれた。ていうかなんで教えてくれなかったのさ。」
「そっちはほぼ毎日遠江急行のほう使ってるんだから、その帰りとかで見たことあるかなぁと思って言わなかっただけ。確かもう10回くらい乗ったかなぁ。レアだよ。」
「貴様。」
そのあとは萌からメールを来ることもなかった。
箕島を待つこと90分。ようやっと醒ヶ井の雇い主の箕島が現れた。
「箕島。俺にやってほしいことってなんだ。こいつらに聞いても教えてくれなかったんだけど。」
「ああ。やってほしいことっていうのはその後ろのもののことだよ。」
箕島はそう言って後ろにあるほとんど進んでいない「浜松駅」を指差した。
「・・・。まさかこれを作れっていうんじゃないんだろうなぁ。」
「分かってるじゃん。そうだよ。それを作ってほしいんだよ。」
「分かってるじゃんじゃないだろ。お前ら分かってるよなぁ。文化祭まであと一週間しかないってこと。」
「分かってるよ。だけど、それは文化祭までに完成しなくてもいい。長い目で見て、最悪今年のキラキラ展の時に完成すればぐらいの気持ちでやってくれればいい。」
「・・・。それでいいって言っても俺は夏あたりから受験勉強とか・・・。」
「夏って遅いなぁ・・・。まぁいいや。その合間を縫ってでもいいから。」
醒ヶ井は後ろにある「浜松駅」を見つめた。
「頼む。お前しか頼めないんだ。だからお願いだよ。」
「永島のほうはどうなんだよ。こいつ今年はモジュール作ってるのか。」
「いや、こいつは作ってない。」
「じゃあ、こいつでも・・・。」
「永島にこんなにデカいの一週間ぐらいで完成できると思うか。今この段階で文化祭までに完成するっていう超急ピッチで完成できるとしたらお前しかいない。だから、頼むよ。」
醒ヶ井はもう一度後ろの「浜松駅」を見つめる。確かに。こんなに大きいものは永島では無理だというのが最初に浮かんだ考え。これを作れるとしたら僕しかいないということで僕に頼んできたのかもしれないけど、僕は何と言っても浜松駅に関する情報が何一つない。
「はぁ・・・。分かったよ。作るのはいいけど、この中で一番浜松駅に詳しいやついるか。」
醒ヶ井が今度は聞いてくる。
「えっ。駅に一番詳しいやつ。」
「ああ。作るのはいいけど、これは実際あるものを作るんだろ。だったらできるだけ忠実なほうがいいだろ。だからそういうやついるかって。」
「そこまで忠実に再現してる暇がないだろ。これでも結構削ったほうだ。最悪文化祭の時は線路だけでもあればいいんだ。建物はそのあとでもいい。」
(線路だけでもかぁ・・・。)
「線路だけなら夢前がかき集めたそれでいいと思う。」
僕が口をはさんだ。
「・・・。線路はもう大丈夫なんだな。でも、だからって建物がいらないわけじゃない。その前に道路だって必要になる。やっぱり詳しい奴がいたほうがいい。」
僕たちは全員で顔を見合わせた。今ここにいる1年生はともかく、僕たちの中で一番詳しい人・・・。
「榛名じゃないのか。」
留萌がそう言った。
「木ノ本。」
「えっ。うん。だって、ほぼ寝台特急撮影しに行く時とか徹夜で撮影しに行ってるじゃん。だったらあの近くがどうなっているのかってことぐらいは知ってるんじゃない。」
「知らないわけじゃないけど、だいたいあれはどっち側を作りたいのさ。バスターミナルていうかメイワンがある方。それとも送迎レーンのある南口のほう。」
「夢前が言うにはメイワンのある方。」
僕がもう一度口を開く。
「そっち側かぁ・・・。大体どうなってるのかっていうのは分かってるけどさぁ・・・。」
「けどなんだよ。」
「あたしも詳しいことは分かんないんだよ。あすこは撮影の時にいってるだけだし。」
「それだけでも十分だよ。道がどうなってるのかっていう詳しいところは今日俺が今から見に言って確認する。木ノ本は概略だけ書いてくれればいいよ。」
醒ヶ井はそういうと自分の荷物を持って立ち上がった。
「箕島。今日からじゃなくて悪いけど、明日から取り組むことにする。何とか完成させてやるよ。」
「あっ。一つ言い忘れてた。」
箕島は思い出したように言ってつづけた。
「あのモジュールあのままだと運ぶことができないんだ。」
「どういう意味だよ。」
「なんて言ったらいいのかなぁ。まぁ、あのまま線路とか組み立てるのはいいんだけどその下の土台がないから運びづらいっていうこと。だからその土台も必要になる。まぁあれを土台に使って、その上に発泡かなんかで高架線にするなら話は別だけど・・・。」
「なんだ。そういうことかぁ。それだったら、道路がある方をそれで使えばいい。」
醒ヶ井はそう言ってから部室のドアのほうに歩いて行って、
「じゃあ、木ノ本。概略のほうだけでも頼むぜ。」
そう言って部室から出て行った。
「なんかちょっとムカついた。」
木ノ本は一言そう言ってから、
「エロガイのやつさぁ、報酬にパンツ見せてとかって言ってきたらぶっ飛ばしたいんだけど。」
「ハハ。構わずぶっ飛ばせばいいんじゃない。」
「さすがにあいつもそこまでバカじゃないだろ。」
僕も席を立って木ノ本からの承りものを完成させることにした。
翌日6月5日。
「はぁ。昨日だけで歩きつかれたかも。」
と言って醒ヶ井が部室に入ってきた。
「下で自殺研究部活動やってなかったよなぁ。」
醒ヶ井はそういうと下に「浜松駅」を持っていった。
「あっ。エロガイちょっと待って。」
木ノ本は醒ヶ井を追って部室を出た。
「・・・。」
「そう言えば、永島。あの姉庭欠陥住宅のほうだけどできた。」
「ああ。出来たよ。・・・ほれ。」
「サンキュー。報酬にパンツは見せては言うなよ。まぁお前だったら言わないと思うけど。」
「言うかよ。」
と言ってからなんて言おうかなぁということを考えてみた。まぁ、言ったこと全部がかなうなんてことは思ってないが、
「そうだ。あるんだったらでいいけど223系の1000番台の写真ちょうだい。」
「・・・写真かぁ。写真だったら私じゃなくて、榛名だと思うけど。」
「分かってるよ。」
木ノ本が戻ってきてからそのことを言った。1000番台の写真はあるみたいで、その写真をもらった。当然僕がそれは1000番台かどうかを確認して、もらった。写真をもらうのは久しぶりかもしれない。これはあのアルバムの中にしまっておくことにした。
その間。醒ヶ井は自分に課せられた任務と言っては大げさかもしれないが、それを進めていった。これを完成させることが第一。木ノ本に書いてもらった概略のおかげで、道路の配置は簡単に終了。後はこれの線路のところを組み立て、必要な大きさに切り落とし、その下に発泡を入れて、他のモジュールと同じ高さに引き上げれば完了だ。だが、なかなかそれが分からない。夢前の線路の選び方が分からないのだ。
「永島。ちょっと手伝ってほしいんだけど。」
醒ヶ井が上に来て、僕を呼びに来た。下に行って、夢前がやろうとしていた線路配置を醒ヶ井に教える。
「大体線路がどうなってるのかは分かったけどさぁ、これって他のモジュールより飛び出る格好になるっていうのは確かだよなぁ。」
醒ヶ井が当たり前のことを言った。
「ああ。アド先生がここまでならカーブを内側に持ってこれるって言ってたけどなぁ。」
「6枚の内でそれをやれかぁ。出来ないことはないと思うけど、ちょっと削ったほうがいいかなぁ。」
醒ヶ井はそうつぶやいた。
「削る。」
「ああ。なんて言ったって6枚だぞ。俺でも大きすぎるだろって思う。だったらこれを4枚ぐらいにできないかってことなんだけど。」
「それは無理だな。」
「どうして。」
「ホームの有効長だけで考えたら上の先輩が作った上野駅は内側の有効長は15両以上だけど、外側の有効長は13両じゃないか。それを外内両方で「サンライズエクスプレス」が入るようにするとなると外側が13両っていうのがダメになる。だから、4枚じゃあ無理っていうのが断言できる。」
「じゃあ、最低5枚ってことかぁ。」
「広げることは両方とも1枚の3分の2ぐらいではできるっていうことは「上野駅」が証明してるから・・・。でもこの広げ方はやってないかぁ。」
この広げ方というのは左右対称に線路が広がっていくという構造。反対側はこれでは入りきらなくなったので、「上野駅」と同じようなまとめ方をしている。
「この際両方とも同じまとめ方にしちゃってよくない。俺はもうそれでいいと思う。」
「・・・。分かったよ。じゃあちょっと線路配置の方、俺がもう一度考えるわ。」
僕はそういうとそこら辺に散らばっている線路を手にとって、配置をやり直した。結果「浜松駅」の規模は本物なら静岡側にある引込線を省略。さらに5枚の中で納められる設計に作り替えた。
醒ヶ井イコール製作の最終兵器。