129列車 欠陥住宅
5月23日。今日もふつうに学校があった。この頃じいちゃんの体調が悪くなり、検査入院という形で病院に入院している。昨日は元気な表情を見せていたらしかった。
5月24日。今日からテスト週間。だが、今日の朝じいちゃんの容体は悪化。そのまま一足先に逝ってしまった。人間はいつか死ぬ。そのことを取れば先になんてこともない。
5月25日。その関係で学校を休んだ。5月26日。自分では吹っ切れたつもりではいたが、まだ心の中では吹っ切れていないようだ。5月27日。テスト週間が終了。5月30日からテストが返却されてきた。
「・・・。」
僕としては、今回もそんなに勉強していなかった。
「おい。貴様。ウザいぞ。またそんな点数取りやがって。」
「まだ満点じゃないだけましだって。」
「宿毛。永島。何点。」
長浜もテストをもらって戻ってきた。自分の点数を教える。忌引きが関係して受けられなかった教科は古典講読と政治・経済。どちらも暗記だから追試のほうも問題はないはずだろう。
「そういう長浜は何点なんだよ。」
「今回はちょっとね・・・。もう俺の1位はないって感じだよ。72点。」
「まだわからないぞ。俺だってどれかミスってそうな気がするから。」
「まぁ。どっちかががんばってくれれば俺は関係ないけど。」
「・・・。本当にお前1位嫌いなんだな。」
「だって1位取ったってそんなの俺に関係ねぇもん。今は卒業できれば十分。」
(その次はどうでもいいじゃすまされないけどなぁ・・・。)
テストが帰りきったのは6月1日。今日からまた部活動も再開されるが、その前に僕は追試。追試を受けて、3時間目から授業に復帰する。そしてそのテストは次の日のうちに帰ってきた。
「永島。何点。」
「えーと。古典講読が82点で、政治・経済が85点。」
「てことは・・・。ちょっと待てよ。」
宿毛はそう言ってから点数を書きはじめた。その点数を見てから、
「今回はお前が1位で、長浜が2位で、俺が3位かぁ・・・。そのあとのは坂田だったかなぁ・・・。」
(1位・・・。)
「なんで長浜もっと頑張ってくれなかったんだよ。」
「そう言ってる場合でもないと思うけどなぁ・・・。お前ができるのがいけないんだって。でもなんだよ。追試で長浜以上って。」
「いや、問題みたい時追試でもこんな感じなのかなぁって思った。意外とできるもんだなぁって思ったぐらいだし。問題解き終わったら寝てもいいかなぁって思った。」
(・・・やっぱりこいつウザい。)
放課後。久しぶりの部活動に赴いた。部室ではいつものように箕島が「犬山橋」を作っていた。下は夢前と木ノ本と留萌がいる。それぞれ製作にふけっているのだが、夢前だけはそういう感じでもなかった。箕島は一人部室でため息をついていた。
「どうした。お前がため息って珍しいなぁ。」
「別に。この頃珍しくもなんともないし・・・。お前どう思う。「浜松駅」。」
「えっ。」
「だって。このままじゃあ文化祭までに完成しないだろ。アド先生は文化祭終わってからも長期でもいいからあれを完成させろって言ったらしいけど、それで夢前があれの製作をつづけるかって思えるんだよなぁ。」
(確かに。諫早はもう俺には手を加えないって言ってるんだし、夢前一人であれを進めるってことになってるなぁ。)
「考えられるなぁ。それ。」
「だろ。だから、どうすればいいのかなぁって思ってるんだよなぁ。この際醒ヶ井に頼むっていうのが一番いいかもしれないけど・・・。醒ヶ井部活に来ると思うか。」
「来ないんじゃない。」
「あっさりそう言うなって。」
それからは二人とも黙ってしまった。どうにか醒ヶ井を釣る方法はないものだろうか・・・。
「あっ。エロ本やるから部活来いっていうのどうかなぁ。」
「来るわけねぇだろ。そもそもその取引用のエロ本どうする気だよ。誰かが買うのか。」
「うーん。やっぱそうなるよなぁ・・・。醒ヶ井がエロいってところどうにかして使えないかなぁ。」
(いや、その前に何でエロいってところだけに固着してるんだよ。)
「うーんじゃあ。これでどうかなぁ・・・。」
「もういいよ。あいつさえ引っ張ってこれれば、問題ないから。」
箕島が僕の言葉を遮るようにして、そう言った。
6月2日。
「醒ヶ井。ちょっと今日部活来てくれない。」
昼の弁当の時にそう持ちかけた。
「部活。ああ。今日は無理。」
「何。塾女と遊ぶのか。」
「だから、何でその話になるんだよ。」
「安心しろって。漢字は前も言ったけど熟してないから。ていうか来ないと逆に変なうわさが広がるよ。来たほうが身のためだよ。」
「・・・。」
この取引はうまくいかなかった。ていうか醒ヶ井が塾ということ事態を忘れていた。じゃあ僕からツッコませてもらうが、塾に行っている意味をテストの点数はなしていないと思う。クラス順位はいつも二桁なのだ。一方クラスでトップがどうのこうの言っている僕と宿毛と長浜は塾に行っていない。理由はもちろん行くのが面倒だとかそういう理由。
放課後。
「永島。ちょっと来てくれない。」
木ノ本に呼ばれて下に行った。行ってみるとそこにはプラモの箱が置いてある。
「作ってくれない。お願い。私たちじゃあこっち作る暇がないから。」
「分かったよ。じゃあ、木ノ本上からこうか未知数じゃないほうのセメダインとニッパ持ってきて。」
と言って雇い主をこき使う。これは僕の必殺だ。いい顔はしてなかったけど、木ノ本が上から言われたものを持ってきて、僕に手渡す。そのあと手を差し出してきて、
「依頼料100万円。」
「高い。せめて1円にして。」
「今度は安い。安すぎる。」
まぁいいや。ありがとうをって箱を開けた。あけると中のものはビニールに包まれていてきれいに袋詰めにされていた。確か全部のプラモってそうなっているのかなぁ・・・。今度は木ノ本を走りには使わないで、自分ではさみを取りに行った。部室の中にもはさみはあるのだが、これには目をくれないというほうが賢い。全部切れ味が悪いからだ。切れ味の悪いはさみには用はない。自分のものを出して、下に戻った。
「ピィィっと切ってぇの。」
まずははさみをビニールに入れて、そう言いながらはさみを動かす。一人で盛り上がってもしょうがないのかもしれないけど、自己流。
「あっ。木ノ本。これ超弩級の姉庭建築にするけどいい。」
「えっ。弩級だろうが、超弩級だろうが、形だけあればいいよ。」
「分かった。じゃあ1階から6階まで全部吹き抜けにするな。」
「ちょっと待て。それはさすがにないだろ。せめてそこはフロア作ってやれよ。階段上ってった人の意味がなくなるじゃないか。」
「なくなっていいよ。階段上がってく人は全員自殺志願者なんだから。」
「榛名いいって。好きにつくらせておけば。」
「・・・。」
留萌の好きにつくらせておくという言葉で、そのほうがいいかと思った。木ノ本は東静岡のほうの製作を手伝い始めた。
「はっ。っと取れろよ。バカ。」
久しぶりに鉄研の精神を戻してきた。こういう風にやるのが鉄研流何かやる時。これはビルの土台。この上にいろんなものを作り上げていくのだ。まず一番最初にこれに取り付けるものは自殺志願者が上る6階ぐらいまで続く階段。これを上っていけばこのビルで言う天国に一番近いところから死ねる・・・。まぁ模型の中だけの話だから、現実世界の話ではない。話は変わってしまうが、この模型の中には結構そういうグロテスクな描写が入ったモジュールが多い。去年空河が作ったS字カーブの建物一つに窓から飛び降りる寸前の状態でフィギュアをくっつけた建物を置いているし、恐らくアヤケン先輩が作ったと思われるモジュールの中には殺人現場もある。それの被害者は首が飛んで左足の膝から下がない状態で殺されているとか。ちょうどそこに警察が駆けつけてきて、現場の保存をしているところ。そして、またアヤケン先輩が作ったであろうモジュールの中に線路に飛び込もうか迷っている人。これはアヤケン先輩自身がそう言っていた。物陰から来る電車に飛び込んで死のうなんて考えているんだと言っていた。
階段をくっつけ終ったら今度はビルの側壁をくっつけていく作業。窓のない側壁はいらないバリをとってからくっつければいいだけ。一番最初に取り付ける側壁は階段をこの字状に囲むものだ。これをくっつけ終ると次は中のフロアを構成するパーツの組み込み。これは階段の壁を内側から押さえつける作用をすると思われる。中に入っている必要パーツを全部切り出して、中にはめていく。これも不必要なところは削る。
この後は窓のついた側壁の組み立て。前側になる側壁には小さなベランダともう一方の窓から人が落下しないようにしている柵を取り付ける。しかし、下が開いているから落ちようと思えば落ちれるか・・・。そんなことはどうでもいい。落ちなければ問題ない。この策を窓が少し小さい方に取り付ける。僕の位置から見て左側、右側は小さいもののベランダが付く。とこの1枚を終わらせた頃、時計の時間は6時ちょっと前を指していた。
6月3日。今日も欠陥模型住宅の製作である。醒ヶ井は今日も来なかった。引き続き、今日も欠陥住宅の側壁の組み立て。
「永島。どこまで進んだって。結構進んだな。」
「あれ。昨日見てたんじゃないの。」
「見てないよ。結構バカらしいことはやってるなぁって思ってみてたけど。」
「お前あとで覚えてろ。」
「必殺覚えてません。」
いつものことだしまぁいいかぁ・・・。昨日1枚終わらせたので、だいたいノウハウは分かっている。1枚だけとかいえ、慣れたために今日は少し進行が速かった。右側の側壁を昨日より速いペースで終わらせて、階段の部分の側壁からつながるように取り付けて終了。取り付ける前に一度抜いたフロアのパーツをもう一度中に入れて、今日の作業はここまでだった。
究極の工期短縮策。