128列車 勉強会
5月も中旬に入る5月11日。今日から宗谷学園はテスト期間中になる。
「はぁ。またテストかぁ。夏紀。数Ⅱ教えてよ。」
「はいはい。」
ため息をついて起き上がる。
「どうした。永島君となんかあったのか。」
「別にないけどさぁ。なんかこのごろテストで赤点取らないかっていうことを本気で心配しだした。」
「おーい。遅いぞ。」
「それにこのごろ模試が立て続けにあったじゃない。あれって4回受けて、成績が右上がりじゃないと推薦しないって十勝さん言ってたじゃん。」
「まぁ、そんな自信はないって。それにまず萌じゃあ推薦取れないでしょ。」
「うう。そういうこと言わないでよ・・・。本気で推薦取りたいって思ってるんだから。」
それを聞くと端岡は顔を寄せてきて、
「何。熱でもあるんじゃないのか。」
「私は勉強しちゃいけないわけ。」
「しちゃいけないってわけじゃないけど、萌がそこまで本気になったことなかったじゃん。やっぱり表では関係してないけど、裏では関係してるんでしょ。」
ここは黙った。まぁ、黙っても端岡には話しても大丈夫かぁ。黒崎の秘密だって誰にも話していないことだし・・・。
「確かに関係してるけどさぁ・・・。絶対に綾と安希には話さないでよ。」
「分かってるよ。」
「・・・。ナガシィさぁ、高校卒業したら絶対に大阪に行くと思う。それに私もついてこうかなぁって思う。私の目標だし。」
(目標ねぇ・・・。)
「ていうか絶対大阪いくって。決めつけちゃっていいのかよ。」
「私は決めつけていいと思ってる。ナガシィ単純だから。それに、もうそこの学校しか眼中にないと思うし。・・・。前11月にオープンキャンパス行ってみたけどさぁ、いまさら私が行こうとしているところが厳しい世界なんだって思い知らされた。自分も今このままじゃいけないと思って、少しでもナガシィの上に行くことを自分でも考えてみた。でも、それを考える前に私には赤点が一つあるわけだし、そんなこと言ってられないじゃん。だから、学力を少しでも上げたいなぁって。」
「・・・。」
「だから、テストの時だけでいいから協力してくれないかなぁ。このままじゃあ卒業できないよぉ。」
「・・・。テストの時だけじゃあ、学力の底上げにはならないけどなぁ。いつも通りでいいのかなぁ。教えるって言っても。」
「うん。それでいいから。お願いだよ。」
「教えてやるから、まずは座ったら。立ったままじゃあ勉強できないでしょ。」
一言ありがとうと言ってから端岡の前の席の人の椅子を借りて、端岡に対面するように座る。そして、数学のノートを広げた。それからというものテスト前まで毎日端岡にしごいてもらう毎日が続くことになる。だが・・・、
「ねぇ。ここってどうすればこうなるんだったっけ。」
「えっ。ってここは昨日教えたところでしょ。」
「いや。忘れちゃって。」
「忘れたって。なんで電車のことはポンポン頭に入るのに勉強のことははいんないのよ。」
「いや。実際勉強のことがポンポン入ってくる人なんていないって。それより教えて。何とか赤点回避しないといけないから。」
「・・・。だから、よく聞け。ここはこれをこうするからこうなるの。」
「えっ。そこからどうやってこうなったわけよ。」
「いや、今はそういうこと追求しなくていいから。後でちゃんと教えなおすから。まずは先に進めさせろ。・・・。で、ここがこうなったことを利用して、ここに持っていくの。」
端岡は坂口のほうを見てみたが、
「おい。頭死んでるぞ。」
「よく理解できないんだもん。」
「理解できないじゃないだろ。これから嫌でも理解することが増えるんじゃないのか。」
端岡の言うとおりだ。その先もこんな調子でだんだん勉強のほうを進めて行ってもらった。毎日学校が閉まるくらいまでやっていたため、よく注意されることが日課状態になっていた。
翌日。5月13日。
「萌。萌。起きなさい。いつもの電車に遅れるわよ。」
遠いところからそんな声がしているのだと思っていた。目を開けるとムスとした表情の紗代母さんの顔があった。すぐに目が覚めて、時計を見てみる。時間は6時20分。あと30分ぐらい時間はあるけど、出かけるまでにやることを済ませるまでの間が16分しかない。
「ヤバッ。」
ふと声が出て、布団から出る。自分の部屋を出て階段を下りて、用意してあるトーストを口の中にほぼ無理やり状態で押し込んで、部屋に戻って制服に着替えて、自転車のところまで直行。ここまでにかかった時間は14分。ぎりぎりだった。やることを済ませる時間が2分早かったから、自転車はいつの模様に飛ばしていく必要がない。ゆっくり走って行ったら途中で時間がないことに気付いて、結局飛ばす羽目になってしまった。駐輪場に着いた時には駅に駅近くの踏切が鳴りだしていたころ。自転車の鍵を外して、ホーム近くの踏切に向かう間に電車に抜かれた。
(1001と2004。よし。)
来た電車がなんなのかチェックを怠らないのが基本だ。遮断機が上がると走って中に滑り込み、読み取り機にカードを当てて、走って一番近くにあるドアから車内に駆け込み乗車した。
「今日は来ないのかと思ったよ。」
息を整えている間に黒崎のそういう声がした。
「今日思いっきり寝坊した。・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ。間に合ったぁぁ、はぁ。」
「萌の場合朝は完全に強いと思ってたけど、萌でも寝坊することあるんだ・・・。」
「・・・。」
「でもさぁ、この寝坊ってなんかわけありっぽくない。」
薗田がそう言ったときドキッとした。まさかとは思ったけど、そんなことはないはずだ。勉強していることはばれていても、その理由までは薗田は知らないはずだからだ。だが、勘をもってすると分かってなくても当ててしまうのだろうか・・・。
「わけって。あたしは萌がこれからのテストで赤点取りたくないからっていう理由で勉強やってるってことは知ってるけど。」
うまく黒崎がフォローしてくれた。もしここで話そうものなら黒崎の秘密も暴露してやろうと思っていたが、それをする理由はなさそうだ。
学校に着くまでの間途中の駅から乗り込んでくるほとんどの学生が勉強道具を広げるか、携帯を手に取るか、小説を手に取るか、音楽を聞くか、寝るかのどれかに一つ。このうち携帯と勉強と音楽は鉄道に乗ってまですることではないと思う。まして、寝るというのもどうだろう。それだけ今の学生は寝る時間が遅いということだろうか。今から夜行性を身に着けても何の得もないと思う。だから、電車の中は何もすることがなくても寝もしない。何もしないを貫き通している。暇でも暇じゃないからだ。何と言ってもオープンキャンパスに行ってきてからというもの朝の列車と2000形に乗った時にやる車掌の真似が自分の日課になっている。時折同乗する人と話して忘れることのほうが多いけど・・・。
学校についたら、端岡と勉強。数学は黒崎も苦手な教科。黒崎も交えることになった。
「はぁ、またやり方忘れた。」
(忘れること多いなぁ・・・。)
「電車のこといっぱい知識持ってて、そんなに覚えられないものかなぁ・・・。」
「いや、萌言ってたんだけど、電車のことは案外覚えやすいんだって。分かると簡単ってよく言うだろ。その分かると簡単の内にどうしても入ってくれないんだよ。」
(・・・。なるほどねぇ・・・。んっ。待てよ。)
「ねぇ、萌。その電車のことどうやって覚えたか覚えてるなら、その覚え方のほうが理解しやすいんじゃない。」
「それができたらこんな苦労しないよ。」
すぐに嘆きの言葉が戻ってきた。
「萌って電車の知識は全部聞いて覚えたわけ。勉強じゃあ、逆効果だよ。」
「・・・。逆に意識が遠のいちゃうのか。」
その後も勉強会は続けられたのだが、自分が覚えたものが二人に比べはるかに少ない。そのままテスト期間中になってしまった。
(はぁ。よりによって最後が数学なんてね・・・。)
落ち込んだ。はっきり痛いものが最初のほうがよかった。まぁ、それの出来が悪すぎて、そのあとに響いてくれるというのも嫌なのだが・・・。
「夏紀。ここどうだったっけ。」
もうこれを聞けるのは最後だと思って、端岡に聞いてみた。
テストが開始されると自分が思っていたよりもハードルが低かったことに半分安心した。それで半分くらいは解いたと思う。自分も結構上を見すぎていたのかもしれない。
(夏紀に教わっといて、よかった・・・。)
テストが一回り終るとそのまま寝た。
背中をつつかれた。顔を上げてみると隣にクラスメイトの顔がある。自分の下敷きになっている答案を回収しているようだ。それが終わったら起き上がって、教室の外に出している自分の荷物を回収した。
「はぁ。萌どうだった。」
黒崎が聞いてきた。
「あっ。半分くらいは解いて、もう赤点無いやぁって思ったから寝た。」
「寝れるって平和だよなぁ。あたしなんか計算ミスしてないかって心配で寝れなかったよ。」
「梓って心配性なの。」
「いや、ここで赤点取っちゃったら、元も子もないだろ。大学とか行けなくなるっていう可能性だって否定できないんだからさぁ。」
黒崎の言葉をその通りと受け止めた。
テストが返ってきはじめる。自分でも数学の点数はどれぐらいなものかというのが気になっていた。半分ぐらい解いたから40点ぐらいいっているだろう。という気持ちでいっぱいだった。答案が帰ってきて、点数をちらっと見てみた。
(35かぁ・・・。微妙・・・。)
自分の席に着く前に点数が書かれている右端を織り込んだ。これなら点数はそう簡単にみられることはない。ナガシィには自分の点数を教えていたけど、他の男子にはそういうことはしていなかった。
「萌どうだった。あれだけ自信あって。」
端岡が聞いてきた。自信があったとか行っていなかったけど、爆睡してたから自信があったと思われたのだろう。だが、この点数は教えてくれた端岡に申し訳ないと思って言えないと思っていた。黙っていると端岡は机の上に置いてあった答案の点数を見て、
「おいおい。教えてもらってこの点数かよ。それもほとんど計算ミスで落としてるじゃん。爆睡する前に見直ししたほうがよかったんじゃないか。」
「いや、でも感謝してるよ。」
端岡はそのあと自分の席のほうに歩いていった。
「あっ。なんでここまで燃えたのかバラしちゃってもいいかなぁ。」
「えっ。それはダメ。ねぇ。絶対にバラさないでよ。」
これを言った瞬間磯部と薗田に感づかれたと思った。
鉄道を遊戯王ZEXALのナンバーズカードっぽくしてみた(笑)。