126列車 寄り道いろいろ
昨日新作発表いたしました。「列島縦断新幹線乗りつくしの旅」です。よろしくお願いします。
蒸気機関車の前に集合し終わると、
「それじゃあ、今からマリン熱海っていうところに行きます。」
シナ先生が一言言って、先頭に立った。さっき僕たちが歩いてきた方向にまず歩いていく。そのあとわき道らしきわき道をぬけていく。ちょうど階段のそこで鉄研部全員で写真撮影。その階段を下っていくと工事用の壁がしてあるところがある。そこはさっき海岸に歩いていくときに見た建物の跡らしきところ。そこの逆方向にまた階段がのびている。折りきって、下の道路に出る。ここからまた海岸沿いに歩いていくとそこはあった。
マリン熱海はプールと温泉の設備がある。ここまで来てプールに入りたいとも思わなかったから僕は温泉のほうに行った。
「ふぅ。」
身体を洗って湯船につかると僕はそう言った。さっきからほとんど立ちっぱなしだったからだ。ここで湯腰は足の痛みも治まるだろう。
「・・・。やっぱりこう見ると潮ノ谷が女子にしか見えなくない。」
柊木がつぶやく。
「えっ。し、潮ノ谷さん。」
青海川は信じられないという声を上げる。
「何。どうしたの。」
「女子にしか見えません。一瞬男湯に女子が入ってるって思っちゃったじゃないですか。」
「やっぱり初めてのやつはそう思うって。」
「翼。」
「はぁ、もう心臓止まるかと思いました。」
「そこまでか。」
その頃・・・、
「榛名先輩、さくら先輩あれ水風呂ですよ。」
「・・・ねぇ、結香。なんでそう水風呂なわけ。」
「えっ。なんでって聞かれるとよく分からないですけど・・・。多分水風呂が好きなんだと思います。あっ。茉奈ちゃんはいる。水風呂。」
「えっ。水風呂っ。冷たくないですか。」
「おーい。うろうろしてないで、こっちはいれば。温かいよ。」
促されて、隼も湯船に浸かる。
「こうやってお風呂にみんなでつかるのは久しぶりですねぇ。」
新発田が口を開いた。
「ああ。去年の旅行かぁ。あの時はホテルが取れなかったんだよねぇ。」
「絢乃先輩が言ってましたけど、あの時もしホテルが取れてたら、13時間電車に乗ってたって。」
(13時間・・・。)
「まだ乗り換えがあってましだよなぁ。でも2429D(根室本線滝川発~釧路行き 普通)には勝てないか。いや、勝っちゃうかな。」
「あとで己斐君に聞いてみれば。もっと長い列車も教えてくれるかも。」
と言い合っていた。
風呂から出て、着替えて、中の飲食コーナーに行ってしばらく暇つぶし。
「ねぇ、己斐。日本で一番長い2429Dって何時間かかる。」
「2429Dですか。確かあれは8時間2分かかります。」
「やっぱり13時間に勝てるやつなんてそうそういないって。」
「ありますよ。今はありませんけど、門司と福知山を結んでた824レは18時間29分ですから。」
「18時間29分。」
その言葉にはさすがにひきつった。同じ車両の中に18時間も根詰めているのである。さすがにそれは僕だって嫌だ。これはある意味マニアの関心を引くだろう。何と言ってもこの時間がハンパではない。今となってはそんなに時間をかけて、何の意味があると聞かれるかもしれないが、時間をかけて行くことに意味を持たせることだって移動するときの醍醐味だ。
「その醍醐味の度を越えてるな。それに「カシオペア」みたいなのじゃないんだよ。」
「ああ。はい。824レはオハ35とかそういうのですから。」
「・・・。」
言葉を失った。
時間をつぶし終わったので、近くのバス停まで歩く。帰りはバスで帰ろうということになったのだ。バスで駅の近くまで来て、バスを降りる。駅に向かうと16時15分。発車まではまだ結構ある。E231系が前から退くと隣に伊豆急の「リゾート21」が止まっているのが見えた。それを撮りに行ったが、僕にとっては骨折り損だった。そこにいたのは「リゾート21」ではなく「アルファリゾート21」だったからだ。アルファが付くかつかないかの違いは大きい。「カクカクシカジカ」から「マルマルシカジカ」に変わってしまうのだ。
16時28分。列車が入線してくる。夢前曰く島田行きの列車は211系であることが多い。確かにその列車も211系だった。それも2編成とも211系ということだった。ある意味嫌な組み合わせ・・・。これに途中の東静岡まで揺られた。なぜ途中で降りたかというと留萌と木ノ本が作っている東静岡の取材も兼ねてである。
東静岡は東海道本線の中でも新米駅舎の内。階段を上がって、橋上駅舎の自由通路に行ってみると浜松のアクトタワーを同じ動く歩道がある。
「永島さん。ムーンウォーク。」
柊木は動く歩道が動くのとは逆に足を動かしているだけである。すかさずムーンウォークじゃねぇというツッコミが飛んだ。
なんでこんなことができるかって聞かれたら、人がいないからとしか言いようがない。今ここの動く歩道は僕たちの貸切状態だった。それから木ノ本たちの取材にも同行。そこでもみんなで集合写真を撮った。
それからまたホームに戻って、
「えっ。帰りは「ホームライナー」つかいたい。」
木ノ本は箕島に頼んで、手を合わせている。
「使うのはいいけど・・・。」
箕島はそのあと全員に意見を聞きたいということだろうということで僕が変わった。
「おーい。ちょっと静岡から「ホームライナー」つかいたいっていう意見があるんだけど、みんな「ホームライナー」に310円銭取られたいかぁ。」
「えっ。「ホームライナー」銭取られるの。」
柊木はあくまで反対という反応。
「「ホームライナー」って373系だよねぇ。」
「おーい。隼。「ホームライナー」に乗れるからって、クモハに乗れるとは限らないぜ。」
「ここは373に銭取られてもいいでしょ。」
「青海川。「ホームライナー」って。」
「「ホームライナー」ってここら辺走ってる駅をヘーイって飛ばすやつだけど。」
牟岐の質問に答える。ヘーイは裏声。
「おーい。で結局どっちがいいんだ。「ホームライナー」に銭取られるか。取られないか。」
「取られていいです。最後ぐらい飛ばしたいし。」
新発田がこういうとそのあと立て続けにそれでいいという回答。結局予定通りにならないというのはいまでもあるらしい。
取材を終えて、いちばん最初に東静岡に来る列車は18時25分発の列車。これも前は211系だった。だが、後ろは313系。2両となると2300番台か・・・。それに乗車して、次の静岡で下車。静岡でシナ先生が一人一人から310円を徴収。ライナー券を買って、直前までは自分がもち、あとで全員に配るという方式を取った。
3番線には今島田行きの普通が止まっている。
「永島さん。3番線停車中の列車は18時42分発。東海道本線下り普通列車。島田行きです。発車まであと5分少々ございます。発車までしばらくお待ちください。」
何を言いだすかと思えば。夢前は自分の携帯をマイク代わりに使って、自分の口元に添え、そう言った。
「おいおい。」
僕はそう言ったけど、やりたい気になったのは変わりない。
「この列車は普通島田行きです。途中安倍川、用宗、焼津の順に終点島田まで各駅に止まってまいります。間もなくドアが閉まります。・・・。ドア閉まります。」
発車前にこう言ってやった。これを言い終わっても列車の発車時刻にはまだちょっと長かったようだ。全員の目に分かるのは何時何分まで。秒まで分かっているのは乗務員だけだ。もしこの列車が18時42分45秒発だった場合アナウンスは15秒ぐらいから始めるぐらいが目安だと僕の感覚では思っている。
「おめぇらなぁ。」
醒ヶ井はそう言ってたけど、僕たちなりにはいい暇つぶしになる。もうすでに4番線に停車している18時50分発普通浜松行きにも同じことをしていた。次の4番線の来るのは当駅どまり・・・。
「これって373系じゃないんですか。」
「ヨツメウオ。」
「ああ。なるほど。」
留萌にはこの言い方はすぐに理解できたみたいだ。だが、木ノ本にはこの言い方はちょっと難しかったかもしれない。
「ヨツメウオって。確かにそうですけど。」
大嵐にもわかっているみたいだ。
「みんな何。納得しちゃってるけど、ヨツメウオって何。」
「だから、373系のことだって。あんたのデジカメの中にも入ってたでしょ。」
「なんだ。373系は今日撮ってないけど。」
「・・・。現物が来た時にどうなってるか納得するって。」
4番線が開いて7分後373系が4番線に入線してきた。
「なっ。ヨツメウオだろ。」
(ヘッドライトが下に二つ。上に二つ。このことを言っていたのかぁ。)
「納得。これでヨツメウオね。でもそういう発想はなかったわ。」
「へへ。他にも留萌がよくいう313系の2500番と211系の5000番は溺愛とか。」
「確かに仲良く手つないでるけど。そういういいかたないんじゃない。」
「うーん。じゃあ幼馴染か。」
「いや、幼馴染っていうのもどこか違う気がするけど。」
「幼馴染は違うって。まず、二人とも同じ年に生まれてないし。もっと言ったら211系はお姉ちゃんってところじゃない。それともお兄ちゃんか。」
これからこんな話になっていった。もし電車を擬人化して、その先の家系図を作ったらどうなるか。
「そこは211系のほうがお兄ちゃんだろ。」
「じゃあ、313系の2500番は妹ってところかぁ・・・。」
(完全に方向性が違うような・・・。)
「ふじかわ」が4番線から去った後、3番線に373系が入線する。そこでシナ先生からライナー券が配られた。指定された号車は6号車だった。
「よかったな。6号車はモハだぜ。」
「よってこないでよ。変態。」
「・・・。お前俺の隣だな。」
「ウソ。もう帰りまで嫌だよ。こんな変態と。」
「変態扱いしすぎ。」
「どうかしたのか。前まですっごく仲良かったのに。」
昼間同じように行動していた僕に木ノ本が聞いてくる。
「ああ。今日ちょっとね。詳しいことはあいつから聞いたら。」
「・・・。」
373系に乗車したら、またもしりとり対決。2時間も持ったくらいだ。1時間くらいじゃあ終わるはずがない。結局浜松に着くまで続けていた。
翌日。5月5日。
「昨日「アルファリゾート21」見たよ。」
写真を添付して、萌に送った。返信は、
「ナガシィの趣味ってこっちだったっけ。」
「違うよ。俺が好きなのは「アルファ」じゃない「リゾート21」。」
「だよねぇ。これナガシィの趣味じゃないもんね。」
(俺の趣味。趣味ってなんだ・・・。)
これはまぁ、何に興味を持っているかという意味の趣味だろう。今日もいつものように模型部屋にこもった。
この小説は全ての鉄道マニアはこうだということを言っているわけではありませんよ。あくまでもほんの一部に過ぎません。