124列車 進まない 進めない
4月29日から5月1日にかけて、その間にも部活動がある。前決めた歓迎旅行の行先も新入生には熱海以外伝わっていない。ぎりぎりまで黙っておくつもりだが、一つだけ伝わったのはそれに必要な金額2600円と310円。後は行くと決めたところの入館料くらいだった。この金額で行けないという人はいなかった。
「永島さん。浜松駅のモジュール取ってくれませんか。」
夢前が僕に言う。このごろ部活には来ているけど、やることがないから部室にある鉄道ジャーナルか鉄道ファンを見ているだけ。こういうことは快く引き受けた。浜松駅を下に運んでから、机を4つ出してその上に浜松駅を順番に並べていく。
「アド先生こんなの買ってきたのかよ。」
夢前の口調が荒くなる。こんなのとはアド先生が買ってきたホームのことだろう。
「アド先生に頼んだらあっちじゃなくてこっちかよ。はぁ。浜松駅には黄色い線があるっていうのに・・・。」
今はどこの駅にもあってふつうだ。駅によって白か黄色の差異はあるが、その線より外は危険ということを示す線だ。KATOから出ているホームにはそれがあるものと無いものとがある。アド先生が買ってきたのはない方。夢前が欲しかったのは点字ブロック付きのほうだったようだ。それに腹を立てているみたいだ。しばらく夢前は作業のために出してきた椅子に座ってそのホームを見つめていた。
「永島さん。上からコントローラーとフィーダー取ってきてくれませんか。」
「ああ。いいよ。」
僕はそれで部室に向かっていった。戻ってくるとそこには浜松駅の線形にできるだけ似せている浜松駅があった。
「あっ。永島さん。今日なんか車両持ってきてますか。」
「持ってきてないけど・・・。」
「そうですかぁ・・・。」
「使いたかったのか。使うなら別に部室にあるやつでもいいんじゃないか。」
「いや、部室にあるものってゴミじゃないですか。モーターがいかれてて。」
ここは夢前の言うとおりだろう。部室にあるものはたいてい走らないという事例が多いものばかり。逆に走るというほうが珍しい。
「じゃあ、明日なんか持ってくるか。」
「お願いします。」
翌日4月30日。
「夢前。今日は持ってきたぞ。223系1000番台。」
「えっ。2000番台じゃないんですか。」
「いや。気に入ってるだけ。」
僕はそう言って夢前のその箱を見せた。この箱にはKATOとしか表紙に書いてない。なぜって、この箱は単品の車両をまとめておいとくための車両ケースだからだ。もちろんそれ以外にもこういう使い道だってある。
夢前は上から浜松駅のモジュールを持ってくると昨日並べたように線路を並べた。そしてホームが入るところにホームを置く。僕はそれが済むのを待って1000番台を箱から出した。
「やっぱり1000番台のほうがカッコいいですね。」
夢前がそう言う。
「・・・。まぁ俺もこれはカッコいいと思うよ。2000番台ってヘッドライトの下にテールライトがあるからなんか不恰好っていう風に思うんだよなぁ。俺が思うに仕様とかすべて変えるっていうことでもあのテールライトの位置はそのままにしといたほうがよかったと思う。」
「それ僕も思います。」
話している間に僕は12両編成の車両を並べ終わった。さすがに12両になると・・・。浜松駅ではありえない光景だが、12両編成の車両はホームの80%ぐらいの長さがある。あと2両分の収容能力しかないホームにはとても長いお客さんだ。
「ナゲェなぁ。」
夢前はそうつぶやいた。僕はこのホームを見つめているとこれはこんなに長いということを思う。家にはこれよりさらに上がいる。旅客列車ではないが一番上は26両。次が15両。12両はまだまだした。長編成が多いうちにはふつうぐらいの長さの列車だが、ここに持ってくると長いということを思い知らされる。それも今更。
「よしちょっと走らせよう。」
夢前はそうつぶやいて、一方にフィーダーを差し込んだ。そして、フィーダーレールからのびているフィーダー線をコントローラーのコネクタに接続。コントローラーのコードをコンセントに接続。コントローラーにパイロットランプというものが点灯する。ディレクションを前進に入れてつまみをまわす。
「永島さんの223系って全部室内灯入ってるんですね。」
白色に染まった223系の窓を見て言う。
「ああ。でもそれだけじゃないぜ。先頭は全部LEDになってるから。結構改造加えてある。」
「あっ本当だ。」
223系の顔を覗き込む。確かに光方が違うというのが感じ取れること。外側のヘッドライトはきれいな白。内側のフォッグランプはきれいに黄色に点灯している。相当メンテナンスしてある証拠だ。
メンテナンスしているのは僕ではないが。今日は姫路行きを持って来たけど、これも駿兄ちゃんのもの。駿兄ちゃんは名古屋の専門学校に行く前に持っている模型の一部を僕にくれると言ってくれた。これもそのうちの一つである。しかし、その時僕はメンテナンスすることができなかった。だから、メンテナンスをしているのは父さんか駿兄ちゃんのどちらか。今でもこれは駿兄ちゃんがメンテナンスしている。
223系はゆっくりと走りだした。モーターが入っているのは後ろよりの6号車と9号車。前より4両にはモーターが入っていない。ホームから滑り出して、223系の8両目ぐらいがホームからできると1号車がつかえた。だからまた戻ってくる。今度は7号車がホームからできると12号車がつかえる。
「長すぎてそんなに面白くねぇ。」
「じゃあ。減らすかぁ。」
僕はそう言って後ろより8両を4両化。ここで一個必要なくなったモーター車を2号車の位置にして、2号車のモハをモーター車に置き換える。これで8両。その8両を4連に分割。分割した4両を3番線のほうに移した。フィーダーのほうかもう一つコントローラーを持ってきて、同じように結線した。
4両になった223系でまた遊ぶ。ここで4両というのはざら。豊橋と浜松の間は4両編成の311系が主力で活躍している。もちろんここで223系の4両を拝めることなどあるわけがないが・・・。
「4両の223系っていうのもある意味悲しいですよねぇ。」
「そうだな。それにこれ両方とも姫路行きなんだよなぁ。」
「なるほどありえないってことですね。でも223系だったら結構広く使われてるし、姫路以西からの仕業だってあるんじゃないんですか。」
「確かにあるけどそれって上郡から来る新快速だし、姫路終点じゃないし。」
「そうなんですか。」
「そうなんだよ。」
そんな話をしていると後ろから声がした。
「何二人で遊んでるんですか。やることはちゃんとやってくださいよ。」
北石だった。北石は浜松駅の中を覗き込んで、
「223系でしたっけ。」
と問いてきた。北石はディーゼルのほうが詳しい。
「そうだよ。」
北石にあまり遊ぶのも控えてくださいよと言われてからも僕たちはこれであそんだ。結局これぐらいしかすることがなかった。夢前は今日も浜松駅を進めず、ただ遊びに来ただけだった。今日この223系も駅だけで何十回も往復した。
翌日。5月1日。
箕島からこんなメールが来た。
「5月4日。新入生歓迎旅行の具体的工程について。浜松駅改札口集合8時20分。普通熱海行き8時38分発に乗車。熱海到着11時08分。その後熱海市内散策。13時ごろ。熱海駅前に集合。徒歩でマリン熱海に移動。 普通島田行き16時38分発に乗車。静岡到着17時59分。乗り換え。普通浜松行き18時31分発に乗車。浜松到着19時44分。 持っていくもの 携帯用時刻表・時計(ある人)・雨具 必要経費 2600円とマリン熱海の入館料700円。」
新入生歓迎旅行の工程らしい。まぁこの通りに行くということはおそらくないということは分かりきっている。これは旅行に行っていなくてもうすうす感じることだ。
「よーす萌。また熱海に行ってくるよ。」
「ナガシィずるい。なんでそんなにいろんなところ行けるの。」
「前自分の大阪いってたじゃないか。」
「あれはオープンキャンパスで仕方なかったの。それとも何。オープンキャンパスも家で聞けっていうの。」
「そうは言ってないって。まぁそのほうがいいけど。」
「あのねぇ・・・。また珍しいの撮ったら送ってきてよ。」
「珍しいのって。もうほとんど送ったと思うけどなぁ。」
(・・・。)
「じゃあ、JR東日本かJR東海が変な運用することに期待して。」
「変な期待。」
こんな感じでメールもした。
5月2日。
「あれ。今日は部室で昼食べないのか。」
留萌が僕たちのほうによってきた。
「だって部室でああいうことがあったんだぜ。なんか行きづらくない。」
「分からないわけじゃないわ。」
留萌はそういうと床に腰を下ろした。
「箕島からのメール見ただろ。今回「ホームライナー」つかわないんだね。」
木ノ本がつぶやいた。
「おいおい。「ホームライナー」つかってどうするんだよ。別に今回はそんなに早くいく必要もないってことだろ。前の臨地みたいに。」
「それは分かるけどさぁ、なんか嫌じゃない。」
「嫌って何がだよ。」
「だって普通に乗ってくんでしょ。今回。全部普通だよ。いやじゃない。」
「それ言ってたら終わんないだろ。」
「やっぱりそうなりますかぁ・・・。」
「いや。ふつうそうなるって。」
「・・・。」
「まぁ、あの通りに行かないっていうのはもう見えてるだろ。だったらゆっくり行くのもいいんじゃないか。」
僕はそう言ってここを終わらせた。それから箕島が合流した。理由はやっぱり僕たちと同じ。それから箕島も混ぜて他愛のない話。その後もそれですぎていった。
5月4日。
5月3日はいつものように模型部屋でつぶした。自分の部屋に戻ってきてから、僕は今日の支度をした。そして、こうしていま向かおうとしている。使ったのは遠江急行じゃなくて、遠州鉄道。ライバルの会社にそんなことをしていいのかという感じではあるが半分関係ない。鉄道事業では遠江急行のほうがもうかっている。・・・。関係ない話・・・。乗った車両は2002。2000形に最初に乗ったということは帰りはどこどうあがいても1000形である確率が高い。そして、今日2002が走るのは確定だ。
「やっぱり先輩もこの列車ですか。」
ホームであった北石が話しかけてくる。
「ああ。ぎりぎりがこいつだからな。」
「先輩よく2000形と1000形選んで乗ってるって柊木から聞きましたけど、その割には朝は選んでないみたいじゃないですか。あっち。」
「あっちは選べるかって。こっちだって運用知らなきゃ選べない。それに朝乗ってく列車が決まってないから選びようがないじゃん。」
「あっ。それはそうですね。JRじゃないんですから。」
北石はそうつぶやくと僕とはあまり話さなくなって、携帯をいじり始めた。北石でもメールする人はと思ったが、やっていたのはメールではなくゲームだった。携帯でゲームかぁ・・・。僕は携帯でゲームしたことはない。まず、必要がないから。芝本にはちょっと遅れて、1003が来た。浜北で1002。積志で2001。上島で1005。八幡で1007と入れ替えた。今全般検査に入っている車両は1001。フェイントがなくて結構だ。
新浜松についてすぐに改札口のほうに向かう。ここで列車が発車していくのを見ているというのもいいが、あいにくそんな暇はない。
「そう言えば。「さくら」ってこの時間でしたよねぇ。」
北石がつぶやいた。
「そうだな。「さくら」。もう発車しちゃったな。」
時計は8時09分。この一分前だ。ちょうど浜松駅の1番線が見えるところからその方向を見ても目的のものがいないのは分かっている。分かっているのだが、本能的に向いてしまうのだ。
「これって僕たちの一種の癖ですかねぇ。」
「癖なんじゃないの。」
改札口のほうに急いだ。今日はゴールデンウィークの真っただ中。ふつうならいま浜松はお祭りでにぎわっていて、遠州鉄道の遠江急行も列車の大増発を行っているはずだ。だが、開催されない祭りに対しそんなことをする必要はない。だから遠州鉄道も今日は2両編成のままだった。
改札口前につくとほとんどの人がそこに集まっていた。集まっていない人は木ノ本、留萌、柊木、隼、朝熊、己斐、大嵐、青海川、牟岐。結構集まっていないが、これは一つの仮説の上に集まっていないのだろう。それは簡単な話。だが、それで説明できない人が入っているのはなんでだろう。
「「さくら」撮りに行ったんですよねぇ。」
「お前も早く来れば「さくら」撮れたのに。」
潮ノ谷が北石にそう話しかけていた。
「うるさいなぁ。別にとらなくても家に写真はありますよ。一度乗ったことがあるから。」
「お前ウザい。」
こんな会話をしている間に木ノ本たちが戻ってきた。木ノ本は入場券で入っていた。また徹夜でもしたのだろう。他のメンツは大体今日つかう休日乗り放題きっぷで中に入っていた。そうそう。牟岐がいなかったのは朝ご飯をまだ食べていなかったからだった。
287系。素で見るとかわいいのでは・・・。