121列車 無謀の取りかかり
4月21日。1年生のほうはまだ仮決定だが、これ以上どこかに行くということもないようなメンツが入ってきた。これはこれでほっとした。
「うーん。あの駅って上野さんが作ったんですよねぇ。」
夢前が聞いてきた。あの駅というのは上野先輩作「上野駅13番線」のことである。この駅は幅45センチ。長さ74.4センチの大きい規模で作られており、4面6線を備える。3面5線はすのこの中に入るように作られているが、残り1線の行き止まりホームは内側に飛び出すように設置しなければならないという形状になっている。このうち飛び出すホームを1番線。内側から見ていちばん奥にあるホームにかけて、6番線まで付番した場合1番線と6番線が終端式ホームになっていて、どちらも「綾瀬車両区」が配置される左側からしか入線できないようになっている。
「それがどうがしたのか。」
「だって、あのモジュールもうボロボロじゃないですか。ここはいっそ新しいのを作ってあれを置き換えたらどうですかってことですよ。」
確かに。駅自体は別にして手作りで作ったであろう建物がボロボロになっているのだ。
「でも、別にあれでも不自由はしてないだろ。」
「不自由はしてませんけど、見せる方としてどうなんだろうって思うってことですよ。」
夢前の言いたいことは僕にはよく分からなかった。僕はあのままでも別にいいのではないかと思っているから、あれを今更作り替える必要もないと思う。
「ねぇ、アド先生どう思いますか。」
夢前はアド先生に提案していた。アド先生のほうもあれを作り替える必要はないと言っていた。本人からしてみればもう大きい駅はいらないということだろう。大きい駅は上野先輩が「綾瀬車両区」を意識して作った「上野駅13番線」とアヤケン先輩が作った温泉駅ぐらいだろう。そうそうこれには「綾温泉」っていうタイトルがついていた。両方とも規模はすのこ4枚。モジュールとしても大きい規模を持っている。これ以上大きいものとなると、アド先生が言うには文化祭などの大きな展示でしか使えず、とても効率が悪くなってしまうとのことだった。
「頼みますよ。どうしても僕は「浜松駅」を作りたいんです。」
「・・・。」
「お願いします。必ずいい物作って見せますから。」
夢前はしきりにアド先生に頼んでいる。
「中学生全員で作れば文化祭までに必ず完成すると思います。そして、絶対今ある「上野駅」より使いやすいものにします。だから、お願いします。この通りです。」
「はぁ・・・。夢前君。今言ったな。よし。夢前君のやる気を信じてみるか。」
「ありがとうございます。」
夢前は勇んで帰っていった。よっぽど浜松駅をモチーフにしたものを作りたかったのだろう。
翌日。夢前は早速大嵐に提案してみた。
「あのなぁ。浜松駅ってお前規模分かって言ってるのか。」
「当然だよ。何度も足運んで2500番とか撮ってるんだから。」
「そこはどうでもいいって。ホームの幅はどうでもいいとして、長さは400メートルぐらいあるよなぁ・・・。そもそも、俺はそういうものを作るっていう方じゃないから。諫早さんとかあたった方がいいと思うぜ。」
「あれ。新発田はないのか。」
「まず新発田が作りたいっていうと思うか。見てみる限り新発田相当不器用だぞ。」
「私がどうかした。」
見てみると新発田はすぐそこに来ていた。すかさずいまの話聞いてたと聞き返す。
「聞いてたけど、夢前君また問題起こすつもりだったの。」
「そんなつもりねぇよ。」
「まぁ、少なくとも僕は参加しないよ。」
「何に。」
「ああ。こいつが浜松駅作りたいって言いだしてさぁ。作るの手伝ってほしいんだと。」
「私はまずないよ。不器用だし、もの壊しちゃうと思うから。」
二人からは手伝ってくれそうになかった。これ以上この二人を丸め込むかということを考えるより、諫早さんを頼ったほうが賢いと思った。隣の中学3年生のクラスのほうに行って、諫早を呼ぶ。
「浜松駅ねぇ。」
「諫早さんだったら作るの手伝ってくれるんじゃないかって言われて。」
「手伝うのはいいけど、すのこの中に入りきらないだろ。だったら自分で構図まとめてこいよ。話はそのあと。」
これで一人は確保した。でも一人ではまだ人手が足りない。空河と朝風にも話しておくように諫早に言った。そして、家に帰るとすぐに浜松駅の構想を練った。出来るだけ本物の浜松駅に近づけたい。その一心でどうするか決めていった。
(これって本当に考えてるのかなぁ・・・。)
諫早はその構図を見るとため息が出た。忠実すぎてすのこに入りきっていない。まぁあんなに大きなものを単純に150分の1にしようとするという方もすごい。
(えーと。ホームだけで有効長が14両。1両がだいたい140mだから1960m。機関車を含めるとして2メートルぐらいは必要ってことか・・・。ホームだけで2メートルだろ。2メートルって行ったらすのこ3枚分。これだけで3枚も使うのかぁ・・・。残りは単純にポイントでまとめるのかと思ったら、6両分はいりきるための待避線を静岡方面と豊橋方面で。プラスダブルクロッシングを使う・・・。こんなの作ったらポイントの一番デカい6番が176m。それが少なくとも1線につき2本。これで352m。そして6両分の待避線が2本。これで12両分の有効長が必要だから1680m。おさまらねぇよ。)
「どう思いますか。」
「うーん。まず、これじゃあすのこが8枚ぐらいないと収まりきらない。どもまでも忠実に再現したいなら学校のじゃなくて家で作ればいい。これじゃあデカすぎる。」
「じゃあ、逆にこれからどこを削れっていうんですか。」
「まずホームは必要ってことでこれはいい。だけど両側にある待避線。これはいらない。」
「必要です。ここで入れ替え作業やって次の仕業に列車は就くんですよ。そこまでやりたいんです。」
「そこまでやりたいなら、家でやれ。家で。これはまずない。それとダブルクロッシング。これも必要ない。これを使ったら電気的に複雑になるだろ。」
「大丈夫ですよ。結線は普段やっているときと同じでしょ。それなら問題はないはずです。」
「・・・。」
授業のチャイムが鳴って夢前は自分の教室のほうに戻った。
「どうした。疲れてるぞ。」
「そりゃ疲れるって。夢前のやつ浜松駅作るのはいいけど、全部を忠実にしてきやがった。あんなの俺も相当時間かけなきゃ作れない。」
「バカだな。」
「おい。諫早、空河。話してもいいけどこっちに集中しろ。」
放課後。夢前は思い悩んだ。どう考えても諫早さんとは利害が合わない。どうしても対立してしまう。諫早さんは製作・改造にかけては今の鉄研で一番だ。そういうことを知っていてもなかなか諫早さんの言うことは僕は聞けそうもない。だったら自分でやってしまおう。もう誰の手も借りることはないと悟った。
4月23日。今日からモジュール製作に入る。何とか例年通りぐらいの時期にモジュールの製作に移行することができた。
「箕島さん。今下で自殺研究部って練習してますか。」
「えっ。今日ダイビング部はやってないと思ったけど。」
「ありがとうございます。」
夢前は木の板を6枚ぐらい持って部室を出ていった。
「あいつ何やるつもりだ。ここにあるもの全部持ちだしてく気かなぁ・・・。」
「浜松駅作るんだって。」
(なるほどねぇ・・・。諫早に手伝ってもらったほうがいいかもな。)
「と話変わるけど、永島プラモ作ったことある。」
「えっ。ないけど。」
「ああ。ないならいいや。」
箕島は今アド先生が岐阜まで行って買ってきた犬山橋をモチーフにした橋梁のあるのモジュールを作っている。犬山橋は名古屋鉄道と道路が並走する併用軌道で現在は使われていない。僕はこれが岐阜県犬山にあるということ以外知らない。
ドアが開いて北石が顔を出した。
「夢前が下で何かやりはじめましたけど、何やってるんですか。あんなにたくさん木の板出して。」
「北石。手伝ってやれって。あいつ一人じゃあ大変なこと始めたから。」
「大体想像つきますけどねぇ・・・。でもぼくじゃあすぐにキレちゃいそうな気がしますからパスします。」
「ある意味賢い選択だなぁ・・・。」
そのあと来る2年生のほうも夢前が何を始めているかは大体想像がついていたらしい。2年生のほうはまた別な仕事があるので、そっちのほうにまわっていた。だから今年2年生は誰もモジュールを作っていない。新作は完成するかわからない夢前の「浜松駅」と箕島と朝熊の合作の「犬山橋」。これが今年の新作モジュールだ。2年生が荷物を置いていくとこの中は狭くなる。僕がどこかへ行こうとすると、
「永島先輩。これってこんな感じでいいですか。」
朝熊が聞いてきて、どうにも僕はほかのところへは行かせてくれないみたいだ。
「うーんそんな感じでいいと思うよ。後はこれをグレーに塗っちゃえばいいはず。」
僕はそう言ってから部室を出た。
したたではいつものようにバスケット部が練習している。僕たちはステージの上でやっている。夢前はちょうど真ん中あたりにいた。ちょうどアド先生の姿も見えた。
「だからこれにはこれぐらいのことが必要なんですよ。」
夢前はどうもわかってくれないということをこうするから大丈夫見たなことを熱演しているのだろう。そんな声が聞こえてきた。
「いくら必要って言っても限度っていうものがあります。これは大きすぎて本当に文化祭とかそういうときにしか使えないよ。それにこの上に線路を引くってことはこれはほかのところに持ち運べないってことだからね。」
「だから、それはこの下に橋桁とかおいてどこにでも運べるようにするって言ってるじゃん。」
アド先生と夢前の論戦はどうあっても平行線状態だ。このまま話していても決着はつきそうにない。まぁアド先生のほうが有利なのはよく分かる。
どうやら決着がついたみたいでアド先生は上の様子を見に行った。
「永島さん。これってどういう配置にしたらいいと思いますか。」
と聞かれた。見に行ってみるとどういう状況になっているのかはすぐに分かる。結構複雑なのだ。
「浜松駅かぁ。確かにこうなってるところあるな。」
「でしょ。これ全部再現してみたいんですよ。まぁ、もう豊橋のほうの待避線はどうでもよくなりましたけど。」
「・・・。」
「これどう配置すれば本物みたいにきれいにまとまりますかねぇ。」
家にある駅を思い浮かべてみる。家にある駅は複々線の4面6線。きれいな形になってはいるがうちはTOMIXだからKATOとは根本が違うだろう。だが、まずは配置してみないと分からない。その配置を見ると広がりすぎている。だったらここの広がらせているところに浸かっている直線線路を違う長さに変えればいいだけの話。
「124m使ってみたらどうだ。」
と提案してみた。だが、124mを使うと今度は狭まりすぎて2・3番線の線路が一本の状態になってしまう。浜松駅は2・3番線は二つの線路を挟んでいる。だからこれでもダメ。なら次は186mのレールだ。これだとすぐに収まってくれた。
「ありがとうございます。これはいいですけど、これじゃあ待避線分が足らないなぁ・・・。」
「待避線って。何両はいるようにしたいんだよ。」
「最低4両。でも大体こっちには静岡編成が対比するから211系分も合わせて、6両は入るようになってないと。」
(6両かぁ・・・。)
「まぁ、まずはそれで全部組んでみたらいいんじゃないか。」
僕はそう言って元の部室に戻った。戻った時間はちょうど昼にしていい時間になっていたので、僕はそのままでいた。夢前は近くの牛丼屋まで行って牛丼を食べてきたようだった。また作業が再開される。僕はバスケット部がいなくなったので、下に下りてしばらくバスケットをして遊んだ。
「永島。何一人でシュート練習してるんだ。」
そっちに気を取られたので、僕はよくボールのほうを見ていなかった。声がした方向には木ノ本がいる。
「おい。外してるってダサいぞ。」
「うるさい。・・・。バスケットやってたわけじゃないから。」
ゴールに当たって跳ね返ってきたボールを拾って、片付ける。
「オース。夢前。何作ってるの。」
「木ノ本先輩がよくいく浜松駅です。」
「よく。よくはいかないけどねぇ・・・。」
木ノ本はそういうと上に上って行った。
夢前はそのあと僕に言われた通りどうなるのかという線路配置を調べて行った。どこをどう考えても6枚の内に入りきらないものになるだろう。そんなモジュール作ってどうするというのだろうか。使うということしか彼は考えていないはずだ。1番線を作れるぐらいの線路しか持ってきていなかった。でも、今はそれぐらいでも大丈夫だろう。配置していった線路は結果を出してくれた。
「くそっ。入りきらない。」
彼はそうつぶやいていた。線路を見てみれば、確かに6枚目を飛び出している。これではほかのモジュールにつなぐなどできるはずがない。これではダメなのだ。
「真ん中にすぼめようとするから入りきらなくなるんじゃないか。」
「・・・。」
「1番線のほうがお客様の方向になるんだろ。なら、これは1番線のほうに全部の線路を集中させちゃってもいいんじゃないかなぁ。そこぐらいは妥協しても俺はいいと思うけど。」
「妥協・・・妥協しちゃダメなんだ。」
夢前は小声でそうつぶやいた。僕は何か夢前が言ったのではないかということしか分からなかった。
自殺を推奨する学校はありません。なおこの中での呼び名はこのストーリー中のみ。ダイビング部のことをこのまま表現されたらこちらとしても困ります。絶対こんなこと言わないでね。
一昨日ユニーク累計1000突破。