120列車 入った人は濃い人々
知識の度合いは日進月歩。日々進化を繰り返しています。
部室のドアがいつもの音を立てて開いた。するとそこには去年の大嵐ぐらいの身長の人がいた。
「あの。鉄道研究部ってここだって聞いたんですけど。」
「そうだけど・・・何しに来たわけ。」
木ノ本が聞き返す。
「あっ。お世話になる青海川です。よろしくお願いします。」
「んっ。お世話にってことは・・・。」
全員で顔を見合わせる。すぐにその意味も分かったので、歓迎した。
「青海川なんて言うの。どこどう考えても中学生だよねぇ。」
「中1で名前は謙矢っていいます。」
「謙矢君かぁ・・・。」
「はい。」
「青海川って鉄道とかに興味ある。」
「ああ。283系とか。あのイルカフェイスが好きです。」
(283系って「オーシャンアロー」だったなぁ・・・。)
「他には特にありませんけど・・・。」
青海川は部室の中を見回した。ここは思っていたよりも狭いところだというのがここの印象だった。それにいろいろと床にゴロゴロしていて、一言でいえば汚い。
「あの、ここって片づけたりとかってしないんですか。」
「ああ。片付けてもすぐに散らかるから。」
「意味ないですねぇ。」
それから青海川が興味があるといった「オーシャンアロー」のことについての花が咲いた。そのため留萌とはすぐに仲良く話せる状態になっていた。帰り際に留萌がクラスにもし部活名に入るか困ってる人いたら、鉄研とかどうって言ってみてねと言っていた。まぁ、当の留萌もこれで人が入るなんて思ってないだろう。
翌日。
(さくら先輩部活何に入るか困ってる人に鉄研紹介してみてって言ってたなぁ。と言ってもそういう人いるのかなぁ・・・。)
クラスに14人しかいない人を見回して見てもそういう人がいるようには思えない。ほとんどの女子はソフト部。そうでなかったら吹奏楽部。男子のほうは野球部、サッカー部、陸上部、水泳部。運動部に入っている人がほとんど。このクラスで鉄研部に入った男子は自分ぐらいだった。考えてもそういう人は出てきそうになかった。別に向こうも何かでそう言う人が来ないかなぁということは思ってないだろう。だったら無理に呼ぶ必要もないはずだ。そう思って放課後部室に赴いた。
部室で先輩たちと話していると教室に忘れ物をしたように思えたので、部室を出た。
「あれ。牟岐。どうかしたの。」
教室に戻るとクラスメイトの牟岐茉奈がまだ教室の中にいた。
「あっ。青海川君忘れ物してたよ。机の中に。」
牟岐はそういうと一冊のノートを取り出して、青海川に渡す。
「ああ。ありがとう。ってずっとここで待ってたの。」
「うん。あたし部活動に入る気がないから。まあ、家に帰っても暇なだけなんだけどねぇ。」
すぐにはっとした。
「ねぇ。そういうことなら鉄研部入ってみない。」
「えっ。だって鉄研部は青海川君みたいな人がいっぱいいるんでしょ。」
「確かに。僕みたいな・・・僕以上の人がいるけど、みんな優しいし、面白い人ばっかりだから。それに電車のこと知らなくたっていいって貼ってあるポスターに書いてあるじゃない。ねぇ、行こうよ。」
「・・・。いいよ。誘ってくれてありがとう。」
「・・・。そう。あっ。これありがとう。」
教室を出て、部室のあるところまで走って行こう。全力で部室まで走って行った。
(鉄研部かぁ。あたしじゃあ釣り合う人がいないでしょ。どっか旅行するのが好きなわけでもないし・・・。でも・・・。)
一週あけて4月18日。まだ高校生のほうの部活登録がないという状態が続いた。今年は最悪一人だけの入部かもしれない。僕を含めほぼ全員がそう思い始めた。
「ああ。僕だけとも限らないんじゃないんですか。またガット入ってきたりするかもしれませんよ。」
青海川は励ましてくれているのだが、なかなかそういう気持ちにはなれない。すると部室のドアが開いた。ドアを開けて入ってきたのはシナ先生だった。
「ようやっと高校生のほうもきたぞ。」
シナ先生がそう言った後ドアから真新しい制服に身を包んだ男子が一人入ってきた。今年は北石みたいにどこかで見た顔ではないのでほっとした。
「1年5組の朝熊豪です。よろしくお願いします。出身中学は暁中学で、出身は群馬県の横川です。」
横川と聞いた僕たちの声が揃う。
「はい。中学2年生の時にこちらに引っ越してきて、中3の時に鉄道研究部の存在を知ったんで、入部したいと思ってここ単願できました。」
とここに入った経歴を彼は簡単に語った。僕には経歴なんてどうでもいい。
「よく横軽の廃線跡を歩いたことがあるんで山登りするのが趣味です。」
彼はそう言ったが体格からすればそう見えない。そのあと彼は好きなジャンルは機関車。一番好きなものはEF63と語り、機関車の知識だけなら誰にも負けない自信があるとまで言っていた。
「大丈夫。知りすぎててもこの中で浮いちゃうだけだから。」
木ノ本がそう忠告すると、
「あっ。この中でも個人差はあるんですね。」
と言っていた。
「朝熊。他にあてはある。この鉄研に入ってくれそうな人。」
「えっ。入りそうな人ですか。僕のクラスにはいませんね。」
「そうかぁ・・・。」
朝熊にもあてはいないみたいだ。そして、また日が経つ。もう仮登録まではあと2日しかない。それでも入部はあった。
「汐留寛です。よろしくお願いします。」
クラスは1年4組。この部活でやっていた乗務員に扮することに憧れたらしい。何とも変なところに憧れたものである。
「それは。2年前だったらガンガンやってる人がいたからなぁ・・・。」
「そうですかぁ。でも、旅行するのは好きですし、よろしくお願いします。」
さすがに今いないというのはきいたみたいだったが、すぐに立ち直っていた。そこはどことなく善知鳥先輩に似ていた。同じ日にもう一人入部してきた。今度の人が濃かった。
「己斐健祐です。よろしくお願いします。」
「己斐君って何か詳しいものとかあるの。」
「あっ。じゃあ、その後ろにある時刻表をだれか見てくれませんか。」
僕がそれを指差すと己斐は小さくうなづいて4冊出す。そして、留萌、木ノ本、僕、醒ヶ井に時刻表を渡し、留萌に渡した時刻表は東京~熱海。木ノ本は熱海~米原。僕は米原~岡山。醒ヶ井は岡山~小倉を開いてと言われた。
「それじゃあ、今から僕が東京から小倉まで順番に言ってくんで、これで確認してってください。ああ。あなたのページには乗ってない駅がありますけど、大丈夫ですか。」
「ああ。高槻と神戸の間だったらどういう順番で並んでるかわかるけど、その先は分からないなぁ。」
と答えると青海川が「神戸、兵庫、新長田、鷹取、須磨海浜公園、須磨、塩屋、垂水、舞子、朝霧、明石の順番で並んでます。」と教えてくれた。
「それじゃあ、言ってきますね。東京、新橋、品川、川崎、横浜、戸塚、大船、藤沢・・・。」
彼は5分くらいずっと言い続けた。その間躓くことは一度もなかった。まるで催眠術にかかったように一駅一駅名前を告げていく。こちらは間違っていないか調べていった。しかし、どこの駅にも間違った読み方もなかった。
「新山口、嘉川、本由良、厚東、宇部、小野田、厚狭、埴生、小月、長府、新下関、幡生、下関、門司、小倉。」
「こいつすごい。」
言い終わる成り醒ヶ井がつぶやいた。
「俺もそれぐらいは言えるぞ。」
僕がそう言うと、
「じゃあ、今度は左沢線いきます。時刻表はおそらく630ページぐらいだと思います。」
留萌がそこのページを開くとオーケイですかと聞いてきた。オーケイと留萌が答えると、
「山形、北山形、東金井、羽前山辺、羽前金沢、羽前長崎、南寒河江、寒河江、西寒河江、羽前高松、柴橋、左沢。」
「今回は短かってねぇ。」
「いや。短くてもすごいって。本線はともかく、ローカル線の駅なんてふつう覚えてない。」
「・・・。」
しばらく僕たちは己斐を見つめた。
「見つめないでください。見つめるようなものでもないでしょ。女子の先輩はともかくホモ疑惑がたちますよ。」
「ねぇ、己斐。もしかして、JRの駅全部言えちゃいますパターン。」
「はい。順番怪しい路線もありますけど、東海道・山陽・山陰・紀勢・関西・北陸・信越・東北・羽越・奥羽・室蘭・函館・宗谷・根室・石北・釧網・予讃・土讃・備讃・伯備・鹿児島・日豊・長崎・佐世保とまぁ、いろいろ。これぐらいは言えます。」
「・・・。」
「あと少しぐらいは運用とかもわかりますよ。まぁ簡単なものだけですけど。あまり簡単すぎると覚える楽しみっていうのがないじゃないですか。だから遠州鉄道は5分あれば全部覚えましたけどね。」
「じゃあ、遠江急行はどうなんだよ。」
「遠江急行ですか。確かあれは全部理解するのに10分ぐらいかかりました。」
「へぇ。そうなのかぁ・・・。」
それを聞いたらこれ以上何を言っても同じような答えしか返ってこないだろうと思った。JRだって基本が分かれば簡単なものであるところもある。そこを理解するためには時刻表をめくってある列車が何時何分に来るとその皇族は何分時間を開けてくるか。そしてその皇族は何分開いているか。そして、その規則性が何時まで続いているか。そこを理解すれば何の問題もない。
「すごすぎだぞ君。そういうところの頭は勉強に回せよ。」
「勉強ですか。勉強してるとなかなかそうならないんですよ。特に現代文が。時折どう読んでいいかわからなくなる時があるんですよ。例えば小倉とか。あれって小倉か小倉かはっきりしてほしいですよねぇ。」
僕だってそういうことは言いたいよ・・・。
翌日。4月20日。高校生のほうはこれ以上の入部は見込めないと思った。中学生のほうもこれ以上入部してくる人はいないだろう。
「山科先生。」
職員室のドアのところで呼ぶ声がする。
「どうした。牟岐。」
「これお願いします。」
シナ先生は紙を受け取る。部活登録届だ。今年自分は中学1年生のクラスを持っている。そして、中学は1クラスしかないから、自分が自動的に青海川、牟岐のクラス担任になるのだ。
「なんだ。前は部活に入部する気はないって言ってたのに。どこか入るあてでもできたのか。」
「まぁ。それより先生はやくハンコ押してくださいよ。」
「・・・。」
机の引き出しを開けて、はんこを取り出す。これを顧問と担任というところに押して、預かった。
「鉄研部で大丈夫か。みんな優しいけど、結構知識がないとやってけないぞ。」
「大丈夫です。分からないことは全部謙矢に聞きます。」
「・・・。」
その日の放課後。
「おい。部活動には入らないんじゃなかったのか。」
青海川は怖い顔をして牟岐をにらんだ。
「いいじゃん。入ろうかなぁって思ってあげただけ。」
「・・・。」
「おいおい。そんな怖い顔するなって。またにぎやかになったもんだなぁ・・・。」
箕島が言う。
「にぎやかになったのはいいけどさぁ、これじゃあこの部室狭いなぁ。もう一室借りるとかしたらどう。」
「その借りたもう一室もこんな感じになるんだぞ。」
「あっ。それ言えてる。」
今年は言ってきた新入部員の顔は「それはどういうこと」とか、「なるほど」という感じ。ここでなるほどと思っている1年生はこの鉄研の性格をよく理解したということになるだろう。
「牟岐は何か詳しいものとか、鉄道に興味あったりする。」
「えっ。鉄道のことは全然。それにそういうことって頭に入ってこないんですよ。英語の単語みたいに。なんか数学の数式みたいっていうのかなぁ。なんかすごい頭が痛くなるようなことしか書いてなくて、とても覚えられません。」
「・・・。」
「数式かぁ。鉄道の形式で足し算とかするんじゃないぞ。」
「そんなことしませんよ。」
牟岐がそう否定すると僕たちは理由もなく笑った。いつもの感じ。
「さて、そう笑っても入れらないぞ。校舎中に貼ったポスターをはがしに行かなきゃ。」
箕島が全員を促す。
「私たちも手伝うか。」
「大丈夫。男だけで十分だよ。そんなに人数いらないし、荷物も見張っててくれないとなぁ。」
「分かったよ。」
「よし。男子はついて来い。女子はちょっと留守番頼むね。」
と言って部室を出た。部室を出て、校舎の中に行ったら、
「ちょっと問題があるんだよねぇ。」
とつぶやいた。
「なんだ。問題って。別にそんなことはないはず。」
「・・・。確かに。ないかもな。でも、今回モジュールに取り掛かるのが遅いんだよ。普段は4月の20日にはモジュールに取り組んだだろ。今回もそれぐらいの時に全員そろったからいいけど、だれもモジュールを作ってないじゃん。それプラスクリエイト展とかやってたらさらにつくる時間が減るだろ。」
「ああ。そういうことか。」
これで数年鉄研は持つことが確定したが、今年は何か起きそうだ。
今回からの登場人物
朝熊豪 誕生日 1996年3月1日 血液型 B型 身長 149cm
汐留寛 誕生日 1995年10月14日 血液型 B型 身長 156cm
己斐健祐 誕生日 1995年9月25日 血液型 O型 身長 151cm
青海川謙矢 誕生日 1998年7月31日 血液型 B型 身長 132cm
牟岐茉奈 誕生日 1998年7月16日 血液型 A型 身長 135cm
キャラ紹介です。
朝熊豪。EF63が大好きな少年。
由来はここを走っていた「特急あさま号」に由来します。そのままはどうも嫌だったので、他にこんな漢字も書くんだという勢いで設定しました。
汐留寛。軽度のコスプレイヤー。
由来は新橋付近にあった汐留貨物駅。現在は高層ビルが立ち並んでいて、とてもそんな面影ありません。
己斐健祐。時刻表の駅名をほとんどいえるディープな人。
由来は山陽本線西広島駅。旧駅名が「己斐」です。
青海川謙矢。JR西日本の車両が好きな車両鉄。
由来は京都~新宮間の「特急オーシャンアロー」。苗字と名前に一文字ずつ入ってます。
無理やりと言ったら負け・・・。なんて・・・。
牟岐茉奈。鉄道のことは無知の少女。
由来は四国の牟岐線。当初苗字は阪急電鉄御影駅でしたが、名字の変更を決定しました。