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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:1
12/184

12列車 原則

 翌日。4月27日。

「・・・。永島(ながしま)。今日めちゃくちゃ疲れてるな。」

「いや、そうでもないよ。確かに休日なかったけどさぁ、意外と楽しいから。」

「へぇ。先輩とはもうなじんだの。」

「うーん。なじむというか。部活の先輩「もう鉄研色に染まってきた。」とかって言ってたからなぁ。」

「本当にその順応性には感心するよ。」

あきれたのと関心とが入り混じった顔だ。そういう顔をしているのは宿毛(すくも)である。

「ところで、静岡(しずおか)まで何円かかるか知りたいんだけど。」

僕はこの手のものには詳しくない。というか知らない。

「1280円。」

佐久間(さくま)が口をはさんだ。いいところに助け舟がいたものである。

「1280円かぁ。ありがとう。」

「ていうか、そんなこと聞いてどうすんの。遊びにでも行くの。」

「まぁね。」

「それよりも、もっと安く静岡(しずおか)に行く方法があるぜ。」

佐久間(さくま)がそのあとなんといったかというと、

「それ、法律的にダメだろ。立派な犯罪だぞ。」

これがその言葉に対する宿毛(すくも)の答えだった。何を言ったかというところは想像に任せるとしよう。もちろん、いま言ったことは実行してほしくない。

 その日の放課後。同じように部室に赴いた。部室の前には醒ヶ井(さめがい)がいた。もう一つカバンがあったが誰のものかはわからなかった。しばらくすると、サヤ先輩と箕島(みしま)が来て部室を解放した。

 中に入って、製作途中のモジュールを眺めてみる。この2日でだいぶ進んだものだ。今日はこれの製作をちょっと進めて終了した。

 一方。宗谷学園に入学した(もえ)のほうはというと、今日は友達と街に出ていた。今は帰り列車の中である。ロングシートに肩を並べて、ちょっと前のほうを見てみた。そこは行き止まりになっていて、一人男の子が前を見てはしゃいでいる。

(もえ)、さっきから笑ってるけど、なんかあったのか。」

ずっとニヤニヤしてたのが気になったらしい。

「えっ、なんでもない。ただ、昔のこと思い出してただけ。」

黒崎(くろさき)(もえ)の見ていた方向を見てみる。何を見ていたかはすぐに分かった。

「にしても、電車の前ではしゃいでる子供を見て思い出し笑いするとはなぁ。」

「だって、なんか笑えない。ああいうところ見てると。」

「よくわからんなぁ。少なくともあたしはあれを見ても笑えない。」

「じゃあ、私だけかなぁ。昔の友達みたいだなぁって思うの。」

「へぇ。(もえ)の友達って電車好きなのか。」

(それだから(もえ)は電車に詳しいのか。)

「うん。幼稚園の時からずっと電車のことが好きでさぁ。浜松(はままつ)によく新幹線見に行ったり、家で模型で遊んでたり、インターネットで動画をあさったりとかね。中でも新幹線の100系が一番好きでさぁ、連れてかれたときはダダこねて「帰りたくない。」って言ったり、小学校の修学旅行じゃ自分の座る席に座らずに16号車のドアまで行って東京(とうきょう)に着く直前までそこにいたりとかしてたからね。」

「それ、先生に叱られたよなぁ。」

「うん。でも、怒られた後も100系見たらすぐに復活したりするから。」

「あたし電車のことは全くわかんないけど、その人にとっては特効薬なんだな。だから、ああいう風にしてる人を見ると過去のその人みたいに見えてくるのか。」

「過去のっていう意味じゃないんだけどねぇ。今もそういうところがあるから。」

「その人って成長してるのか。」

「ぜんぜん。大きな子供だよ。でも、そういうところがかわいいんだけどね。」

会話は一呼吸置いたらまた始まった。

「そういえば、宗谷に入学したとき私驚いたわ。世界には同じ顔つきした人が3人いるとかっていうけどさぁ、マジでその人に会うとは思わなかった。」

「誰かと、その人似てるのか。」

「うん、鳥峨家(とりがや)大希(だいき)君だったかなぁ。顔つきもそうだけど、声までそっくりだったんだもん。」

「・・・(もえ)。まさかそれで鳥峨家(とりがや)のこと好きになったとかって言わないよなぁ。」

「いわないよ。・・・なに、(あずさ)鳥峨家(とりがや)君のこと好きなの。」

顔が赤くなった。

「いや、そういう意味じゃないけど・・・。」

「へぇ。」

「な・・・何か疑わしいことでもあるのかよ。」

「ううん。別に。」

といったとき外を対向列車が通り過ぎた。すると頭を抱えて、

「はぁ。ここからだとパンタ見えないからダメだよなぁ。」

「何。パンタとかっていうやつ見ただけで車両の判別つくの。」

「うん。遠江急行(こうきゅう)なら菱形(ひしがた)だったら1000系。シングルアームだったら2000系っていう風に決まってるから。ちょっと複雑っていえば遠州鉄道(えんてつ)のほう。あれは基本1000形は菱形(ひしがた)で2000形はシングルだけど、1000形のうちの1001がシングルアームになってるから。モーターしか違わないから紛らわしいんだよねぇ。」

自分の手で菱形(ひしがた)とくの字を作ってパンタグラフを再現する。

遠州鉄道(えんてつ)って全部同じ車両だろ。あん中にも違いあるのかよ。」

(あずさ)。マニアの前でそう言ったら殺されるよ。全然違うんだから。2000形はVVVFインバーターっていう高い音の出るやつだけど1000形はそんなのじゃないもん。それに乗り心地で言ったら1000形より2000形のほうが上。同じことは遠江急行(こうきゅう)の2000系と1000系にも言えることだから。」

「あたしには、そんなこと言われても何もわからん。」

「とりあえず、聞けば分かるって。どんなバカでも。」

「それってさぁ。もしわからなかったら、(もえ)があたしを馬鹿にする材料になるよなぁ。」

「そのつもりはないから安心して、(あずさ)。」

 この後列車はすぐに駅に停車した。その時になる音に少し耳を傾けていたが、やはり(あずさ)には違いは分からなかった。

「何がどう違うの。あたしには全部同じように聞こえるんだけど。」

「逆にあたしにはなんでみんな同じに聞こえるかわかんない。どういう聴覚してるか・・・ああ、あとこれもあるか。そう思うこと。」

(あずさ)が少し首を傾けた。

遠州鉄道(えんてつ)って結構古い車両も持ってるじゃん。」

「持ってるじゃんって言われてもあたしにはわかんないって言ってるじゃん。」

「あれ。一番モーター音うるさいんだよ。あの中でよく寝れるなぁって思う。」

「へぇ、うるさいんだ。」

「本当にうるさいよ。時折その電車に乗ってくるんだけどさぁ、満員になった状態でも西鹿島(にしかじま)側のところまでモーター音が聞こえてくるくらいだに。」

「いや、だからあたしに・・・。」

「あの中で寝れる神経がおかしいよねぇ。一度精神科医とか耳でも直してくればって思うくらいよ。」

「何。電車の中で寝ちゃダメなの。」

(あずさ)。電車の中で寝て何が面白いの。電車に乗ったら根気でも起きてることでしょ。」

「その考え方あたしには理解できない。」

「えっ、何で。これってふつうのことだと・・・。」

「いや、ふつうじゃない。ふつうじゃない。」

「そうかなぁ。」

「おい、自分。その考え方ふつうじゃないって思ったことないのかよ。」

「ないよ。だって、電車乗ったら携帯(ケータイ)いじらない。音楽聞かない。あんまり人と話さない。寝ない。前ずっと見てるは鉄則じゃないの。」

(どんな五原則だよ。)

 ふと前にまた目を向けてみるとさっきの男の子の姿はなかった。今止まっている小楠(おぐす)で降りたのだろう。ずっと普通(ふつう)に乗っている萌たちにとっては関係のないことだが、ここでは急行(きゅうこう)普通(ふつう)の接続が行われている。ここで終点まで用がない人は急行(きゅうこう)に、途中駅に用がある人は普通(ふつう)に流れてくる。しかし、寝過ごして急行(きゅうこう)に終点の鹿島(かじま)まで連れてかれるといった客はよく見る。自分も4日前にやってしまったことだ。

「そういえば、あたしたち浜松(はままつ)から急行(きゅうこう)に乗ってこなかったけど、何で急行(きゅうこう)じゃダメなんだ。急行(きゅうこう)なら結構早く家につけるじゃん。」

急行(きゅうこう)はダメ。寝過ごすと痛い目に合う。」

「痛い目って。もしかして、自分もやっちゃったのか。」

「うん。やっちゃったよ。目を開けたらなんか知らないところ走ってるなぁって思ってたらさぁ、間もなく終点鹿島(かじま)ですって言ってたんだよ。でも2000系に2連ちゃんで乗れたから結果オーライなんだけどねぇ。」

(転んでもただじゃおきないやつ。)


4月28日。昼休み。

「ねぇ、永島(ながしま)N700系(エヌナナ)の喫煙ルームでバーベキュウとかやっちゃダメかねぇ。」

佐久間(さくま)がネタを振った。思わずふいてしまう内容だ。

「やっちゃダメだろ。」

「でもやっちゃいけないとも書いて無いよねぇ。」

「確かに書いてないけど、そういうことするやつがいないからじゃねぇ。」

「なぁ、永島(ながしま)何。喫煙ルームって。」

木ノ本(きのもと)から質問が出た。ちょっと予想外だ。

「喫煙ルームって、N700系(エヌナナ)についてるやつだよ。そこ専用で喫煙ができるんだ。」

すると頭を抱えて、

「ダメだ。この頃離れすぎてたから私の中の情報が古い。なんかいろいろなのとごっちゃになってる。」

「そのうち思い出すって。今はいわば我慢の時かなぁ。」

 その頃先輩たちはというと、

「行先ってATM(エーティーエム)でいいんじゃない。」

「うーん。なんか思いつかないもんなぁ。じゃあそこにするか。」

ATM(エーティーエム)に行って戻ってくるだけかよ。それだけじゃ能がないな。」

アヤケン先輩が口をはさんだ。

「だから、それだけじゃだめだからKOD(ケイオーディー)まで行って放物線に乗ってグルって帰ってくればいいんだよ。NMD(エヌエムディー)まで。そうすれば時間がそんなにないだろ。」

「それだとまだ時間が余るだろ。大体何時の「ホームライナー」に乗ってくんだよ。って言っても1本しかないけど。」

ナヨロン先輩は時刻表を取り出して、ざっと目を通した。

「ふつうに無理だな。どっかで暇つぶさないと。」

「じゃあ、SMZ(エスエムゼット)のエスパルスドリームプラザとかどう。あそこ正直言ってみたいって思ってたし。」

「果たして、それに1年生が乗るかだな。」

「1年生が乗るか。そるかかぁ。鉄道好きには少々きついところもあるかもな。移動意外。」

「そんなこと言ってたら旅行なんかできないじゃん。」

「確かにそうだけど。」

「まぁ、いまそんな話するのよそうぜ。乗るかどうかは別として、乗らないことはないだろ。初めての旅行なんだし。」

「そうだな。後は俺たちがどう味付けするかだもんな。」

「時間は俺に任せろ。善知鳥(うとう)じゃだめだし、アヤケンじゃこいつの読み方知らないだろ。」

「なんで俺じゃダメなんだよ。」

「サヤは間違えずにこれ読めるのか。」

「うっ。そ・・・それは。」

「だろ。だから俺に任せろ。えーと、全員昼抜きでいいよなぁ。」

「いいわけないだろ。」

 さてさて、いったいどういう旅行になるのだろうか。


今回からの登場人物

黒崎(くろさき)(あずさ)   誕生日 1993年12月12日  血液型 B型 身長 157cm

こんな5原則ふつう守れない。

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