117列車 感じ方と珍風景
それからまた時が流れる。昼ご飯は全員部室に集合して食べている。もちろん1年生がここに加わるととても食べる隙間がないくらい人口密度が高くなる。だから、ここに集まっているのは2年生だけである。3年生はもう毎日来る必要がなくなったので、来ていない。
「永島。東北新幹線のさぁ、E5の名前何になるのかなぁ。」
佐久間が振ってきた。
「さぁ、東北いくんだし「はつかり」とかじゃないの。」
僕はそう答えた。
「東北だったら「みちのく」じゃないのか。」
留萌がそれに続けた。
「「はつかり」・・・。「みちのく」・・・。」
両方の名前を初めて聞く醒ヶ井がつぶやいた。
「はつかり」は上野~青森を結んでいた特急の名前。一方の「みちのく」は存在は知っているが、どこを走っているのかはわからない。解説が薄いことをわびよう。
「「はやて」の名前は引き継がないのか。」
木ノ本が疑問を吹っかけてくる。
「知ってる。「はやて」ってなくなるらしいぜ。東北新幹線は全部E5系になって、秋田新幹線の「こまち」もE6系っていうやつに変わるらしいぜ。」
「うわぁ。そんなキモいのばっかに変わるわけかよ。どうせならE2系残ってほしいんだけどなぁ・・・。E3系にも・・・。」
「両方とも格好いいもんなぁ・・・。にしても、E2系のロングノーズのキモいのはないって。」
こう話している間醒ヶ井はポカンとした顔になって話を聞いているだけだ。当然僕たちがどんな話をしているのかは分かっているのだろうが、少し掘り込まれた話をしているためついてこれていない。
「まぁ、E5系が320km/h運転を始めたら、E2系が邪魔になるからなぁ。」
「なんでだよ。E2系だってそれぐらい出せる設計にはなってるだろ。」
「うん。その設計にはなってるよ。でも、寿命なんじゃないか。」
(寿命かぁ・・・。)
「てことは東北新幹線が全部E5に変わるってことはE4系も東北新幹線からは撤退するってことだよなぁ・・・。そうなると上越で働いてる200系が廃車になって、「こまち」のE3系が廃車になるか、「つばさ」のほうに流れて、E1系がE4系で置き換えられるから、E1系も消えるのか。」
留萌は一人自分で建てた仮説を独り言のように言っていく。
「そうなるだろうなぁ・・・。」
いつもこういうくらい会話ではないのだが・・・。いつもの会話はというと佐久間が冗談を言って、それに留萌と僕がツッコむという感じの会話。周りからは声が大きいだのなんだの言われているかもしれないけど、そんなこと気にするほどではない。分かっている人だけに通じるギャグを話している。
佐久間は自分が持っている携帯を開き、
「おい。E5の名前決定したらしいぜ。」
と言った。その声を聞きつけて、全員で佐久間の携帯を覗き込む。それで名前と決定した理由が記者会見で述べられていた。
「えー、世界一速い新幹線ということで「はやぶさ」と命名いたしました。」
「・・・。」
醒ヶ井と箕島以外の顔が引きつった。
「なめてる。」
木ノ本がつぶやいた。
「なめてるどこじゃないって。センスない。」
「「はやぶさ」って。ふざけるなよ。おい。なんであんなのが「はやぶさ」なんだよ。もうちょっと別なやつにしろよ。それに東北関係ねぇ。」
「確かに。東北関係ねぇ。俺「はつかり」に投票したのに。意味ねぇ。」
それを見終わったら一言いう人は一言言って元の席に戻った。
「なんだよ。「はやぶさ」って。あれ、私は「みちのく」になると思ってたのに。」
「これってさぁ、結局は向こうが決めるから公募しても意味がないんだよなぁ。「こだま」だって10位だったんだぜ。」
確かに。東海道新幹線の「こだま」は一番不人気だった名前(10位のランキング内で)。「ひかり」の対になるものとして「こだま」と名付けられただけである。
(あれが「はやぶさ」で走るのかぁ・・・。)
僕としてはもっと違う名前がいいと思った。せめてでも東北に関係する名前にするのがベストだったのではないだろうか。何と言っても一番理由が気に食わない。ハヤブサは世界一速い鳥。だが、世界一の座はフランスTGVとドイツICE。世界一なら350km/h以上出さないとそうならない。これでは名づけた意味が矛盾している。
帰り。僕は萌にこのことを振ってみた。
「「はやぶさ」っ。あれからしたら想像できないわ。」
文面からして萌にも予想外だったらしい。ありえないことだけど「はやぶさ」とつけるなら東京~鹿児島中央の新幹線につけるべきだろう。これは僕が考えた構想だが、東京を6時00分に発車し、「のぞみ1号」のダイヤで新大阪まで運転。その先は九州新幹線で3月から走り出す予定の「みずほ」の最速で運転するのがベストだろう。もちろん使う車両のことを考えればJR東海とJR九州が激突することになる。
「だよねぇ。俺的には「はつかり」のほうがいい。」
「そう。私的には「はやと」がいい。」
これは考え付いたものだということを直感した。「はやと」もランキングの中では結構いい順位に行っていたはずだ。というか新幹線の名前だ。無い方もおかしいだろう。
「「はやと」・・・。カッコいいけど、あいつにはもったいない。」
「やっぱりそう思う。」
こちらの考えを呼んでいたようだ。話はここで終了。今目の前を走っている貨物列車に目をやった。貨物列車と言っても本物ではない。
「智。入るぞ。」
駿兄ちゃんの声がそとからする。駿兄ちゃんは入ってくると、
「智パソコン貸してくれ。」
と言ってきた。
「いいけど、何に使うの。」
「ちょっと調べもの。KATOから新しく出る模型をちょっとな。」
「駿兄ちゃんまだ買うものあるの。お父さんと同じだね。」
「うるさいなぁ。はまったら抜け出せない一種の覚せい剤と同じだな。」
駿兄ちゃんは冗談を言って、パソコンの前に座った。やることが気になったので、僕もレイアウトの中から出て、駿兄ちゃんのそばに行った。
「おっ。もうE5系の模型化決めてるらしいなぁ・・・。」
そう言った後すぐに「でも、俺の趣味じゃないなぁ。E5系は。」と言っていた。駿兄ちゃんもこれは好きではないらしい。その後もカーソルを動かして新製品を確認していた。
「相変わらず1000番台(223系)のグレードアップは出してもらえないみたいだなぁ・・・。まぁいいか。他はどうかなぁ。」
他の模型会社の新製品ページに行って新製品を確認する。この中には自分がほれたものはなかったみたいで、ありがとうと言って出ていった。
駿兄ちゃんがいったあとに僕は車両このほうに行った。何を出すか決めに来たのだ。何を走らせるかなぁ。しばらく迷って「とびうお・ぎんりん」の箱を手に取った。この8両セットだけでは少しさみしい。増結セットも二つ探して走らせることにした。見つかると今度はそれを牽引するEF66を探す。いつもしまっているところは分かっているのですぐに見つかる。学校のみたいにあっちこっちを探す必要がなくていい。しかし、学校ではいい掘り出し物とかが出てくる機会があるが、こちらにはないことが少しさみしいものでもある。
それからまた数日。もうすぐ3月になろうとしているころだ。こういう時はただただ日が過ぎていくだけになっている。部活動も何もないからだ。一方やることがあってただただ過ぎていかない人もいる。特にいい例は木ノ本だ。
3月に入ると3年生の卒業式。それが終わったら僕たちのほうは学年末テストがある。あることは分かっていてもなかなか勉強できないというのが落ち。というか勉強以内が落ち。こういう時は宿毛を頼るしかない。
「宿毛。ここ教えて。」
「あのなぁ。」
宿毛のほうはあきれている。まぁ、当然だろう。前回のテスト再び1位を奪還してしまったのだ。僕のほうは長浜が1位だと思っていたからだ。
「いいか。ここはこうなるから。」
「うん分かってる。だから次。」
「・・・。もういい。お前には絶対教えない。そのほうがいいだろ。また1位取りたくなきゃそうしろ。」
「・・・。分かったよ。ノート見るだけで理解してみるわ。」
こういうことは自分で解決できないわけではない。普段ノートを見るだけで結構理解はしている。しかし、理解できない場合が多々ある。でも、展は僕たちに見方をしてくれているのだろうか。テストは僕が見据えていたレベルよりもはるかに低い底辺をはい回っている。そのためいつも高得点になってしまうというのが普段のテスト。でも模試は違う。
(えーと。円の方程式が(x-a)2乗+(y-b)2乗=r2乗・・・。)
心の中でつぶやきながらノートに目を通す。隣で長浜と宿毛が同じようにノートに目を通している。こういう光景が10分続いて、テストが始まる。
「・・・。」
テスト問題は僕が思っていたよりレベルが低い。よくあることだ。難なく解いて休む。この間することがない。時折テストの用紙に勉強に全く関係ないことを落書きして決してしばらく繰り返した。
「宿毛。テストどうだった。」
振ってみた。
「ああ。計算ミスさえしていなけりゃ80はいったよ。」
「・・・。」
「永島はどうなんだ。どうせ自信ないとかって言ってまた90とか取るんだろ。」
「多分ないって。90。」
「そうだったらお前殺す。」
「長浜はどうだった。」
「俺。あれさぁ、結構簡単だったから少なくとも85いってなきゃダメだな。」
「・・・。」
「宿毛。また俺たちの点数数えといてくんない。」
「いいよ。」
宿毛がそう言うと長浜は足早に教室を出ていった。僕も宿毛と別れて、長浜を追うように教室から出た。走ってくる列車が2004だ。今日は間に合わなかったので、遠州鉄道のほうに乗ってきた。
助信に来るのは久しぶりである。本線のすぐそばにできている真新しい高架橋が目に入ってくる。駅の輪郭はまだできていない。中が丸見えの状態で、コンクリートむき出しである。ある意味のストリップショーが完成している。僕は遠州鉄道のダイヤはよく知らない。でも計算でどの時間にどの列車が来るかということを推測することはできる。まだ単調だからできることだ。これがJRみたいになったらそうはいかなくなる。今日八幡で朝の1004と1006と入れ替えたのは2003と2004の組み合わせ。上島で入れ替えたのは1005だった。これは関係ない。今日走っているのは1005と2004と1004。あとはシークレットだ。1005が助信を発車したのは7時06分。2004はその12分あとの7時18分。西鹿島まで走ってその折り返しで再び新浜松に戻って来て、ここ助信に戻ってくるまでの時間は1時間8分。7時18分から1時間8分足して、次に何時に来るか計算。テストは今日2時限で終わるので、終了時間が10時35分。計算によりここに2004がくる時間は10時54分。僕が教室を出たのは10時40分ごろ。間に合う。その結果はこの通りだ。
新浜松に向かっていった列車のパンタグラフが菱形であることをさっき確認した。これで1004だということが50パーセント裏付けられる。なぜ100%ではないかというと運用が変わるということが考えられるからだ。当然毎日乗っている萌からの情報だ。上島・八幡で入れ替える列車と朝乗車してくる列車の新浜松側の車両がもし別の車両に変わっている場合、明日乗車する列車は今日と組み合わせをまったく変えないで運用に就く。変わっていなければ昼間に走っている車両の2000形の数を測定。3つ走っていれば明日のるのが2000形であるということは限りなく0になるという。
ホームに上がって、2004が来るのを待つ。2004が来てくれたので、ここの運用は変わっていないことを確認した。乗車すると萌がいつも座っている所定の位置に行った。幸い昼なのですいている。
しばらく乗って外の景色に見入った。途中の上島で入れ替えた車両は2003。運用に就くはずはないはずだけど、すべての実態を知っているわけではないし・・・。次の入れ替え駅積志で入れ替えたのは1002。関係ない。その次浜北で入れ替えたのは1003。関係ない。だが、一つだけ意外な光景を見た。
その光景を見たのは芝本の一つ手前。小林だった。僕はその時何の意味もなく携帯を取り出していた。別に何かやっていたわけではない。ただ手に持っていただけである。列車が小林にホームに滑り込むといるはずがない列車が対岸にいた。
(なんで。)
とふつうの思考が回る。この光景を見ること自体初めてだ。もちろんそれはこれまで遠州鉄道にあまりお世話にならなかったからだが・・・。
あまりにも予想外の光景に思わず席を立つ。車号を確認すると1007。とりあえず2000形ではないから関係ない。その方向幕も見てみた。方向幕は「試運転 TEST RUN」となっていた。この「TEST RUN」は試運転の下に書いてある。中に乗っているのは作業服を着た人。当然だろう。単線の遠州鉄道ではこのように線路を2本備える駅以外で入れ替えを行うことは当然できない。1007は2004の到着を待って出ていった。僕はその光景を携帯のカメラに収めた。
これも萌に振ってみた。
「そうかぁ。今日試運転やってたんだ。」
「ああ。後今日動いてた2000形は2004と2003だけだったよ。」
「あれ。なんで2003動いてるの。動かないはずじゃないっけ。」
「そんなこと知らないって。」
「そうだね。ありがとう。」
「あれって時間的に西鹿島を出た列車が岩水寺について、岩水寺発車した後に発車して、芝本で入れ替えた下りを待って、芝本を通過して、小林で浜北で入れ替えたやつまって、美薗中央公園と浜北を通過して、小松で積志で入れ替えたやつを待って、最低でも西ヶ崎まで行くよねぇ。」
「そうだね。」
萌の反応はちょっと薄かった。僕が試運転を見たということをうらやましく思っているのだろうか。
この後もゆっくりとしたペースですぎていった。そして春休みに入った。その春休みも佐久間たちと大阪に行く予定が入っていた。
E5系の名前「はやぶさ」は僕も最初はなぜそうするのと感じていました。でも、日本には「はやぶさ」で受け入れられたみたいですから、いまさら名前を変えろと反対しても意味ないんですよねぇ。これからも「先輩」たちと一緒にいつまでも走り続けてください。