112列車 雪の日の撮影
同時刻投稿でタイトル「僕の声を聞いて」を投稿いたしました。MAIN TRAFFIC並びに彼幽探偵をこれからもよろしくお願いします。
新学期が始まって早10日。今日は日曜日で学校は休み。キラキラ展を準備していた時はこういう暇はなかった。土曜日も日曜日も部活ということが多かった。となれば今日は久しぶりの休日でもあると言っていいくらいだろう。
今日は一段と寒い。もしかしたら雪でも降るのではないかというぐらいだ。
カーテンを開けて完全に暗くなった外を見てみる。窓には部屋の中がうつっているだけで外の様子は分からない。顔を窓に押し当て、手で光を遮る。
「・・・。」
すぐに出かける用意をした。時間はいま19時34分。まだ間に合う。カメラを用意して、コートを持った。明日は学校がある。持っていくバックに制服も押し込んで、自分の部屋を出た。
「どうした。榛名。どっかでかけてくるのか。」
お父さんの肇が問いかける。
「うん。ちょっと駅のほうまで行ってくる。ああ、お父さん。明日の朝ごはんはいらないから。」
「・・・。」
と言って家の玄関から出た。
「外は寒いぞ。ちゃんと着てけ。」
というのが聞こえた。そんなに着込んでないように見えただろうか。でも、この服は明日持っているバッグの中に入れる。そのための冬の略装でもあるのだ。
足元を見るとうっすらと積もっているのが見える。滑らないように注意して、歩いて、自転車置き場まで来た。明日の朝どうなっているかなんて知ったことではない。まずは急がないと。
浜松に着いた。あの列車はまだ行っていない。でも急がないと行ってしまう。いつもと違うから、今日はゆっくりこいできた。時間は20時10分になっている。この機会を逃したら、次はない。入場券を買ってすぐに上に駆け上がった。
この時間はまだ人が多い。多いと行ってもホームを埋め尽くすほどではないが。列車がくるとどこからともなく人が集まってきた電車に乗っていく。みんな寒いからホームに上がっていたくないのだろう。だが、こちらはそういうことも言ってはいられない。制服を入れて太ったバッグからカメラを取り出した。
(・・・。「富士」。ロックオン。)
心の中でつぶやいて、東京側にカメラを向ける。列車がくるのは今から4分後。到着は20時18分。1分から30秒の停車を経て、19分に発車する。大体寝台特急は30秒停車がふつうだから、18分30秒に入線して、19分00秒に発車するという感じをとっているだろう。詳しいことはよく知らない。
隣のホームに止まっている列車はその「富士」に追い抜かれる列車。「富士」の発車を待って発車する。それまで列車は18の口を開けて待っているのだ。
しばらくするとホームにその「富士」が入ってくる。ギギギギギギという音を軋ませて停車する。カメラを構えて素早く取らないと発車時刻になる。すぐにドアが閉まって、「富士」を牽引しているEF66-49号機はちょっと自分に挨拶して、発車していった。
(・・・。まさかな・・・。)
と思った。こちらからは何も言っていない。もしかしたら、今「富士」を運転しているのは・・・。なら聞くことはできない。少なくとも豊橋までは変わらないのである。
「富士」が発車するときEF66の次位である「カニ24形」の熱風を受けた。このときは着こんでいるこの服装でも暑かった。だが、それもすぐに終わって、ゆっくりと発車していく。途中の乗務員室扉から顔をのぞかせている車掌の姿もあったが、顔見知りではなかった。
そして、発車していったホームは静かになる。次は21時16分までない。
(今日は結構来てるなぁ・・・。)
今ここにいる人を見て、思う。いつもは自分ひとりか、もう一人ぐらいなのに。今日は今この寒いところに自分を含め3人いる。それだけこの気象に目をつけている人が多いということだ。
しばらく2・3番線にくる電車の方を撮影していた。313系と一緒になって211系が入ってくる。その列車には雪はない。そんなにこびりつくようなところを走っていないからだ。だが、豊橋のほうから来る311系谷313系には顔に雪がついている。集中しているのは貫通幌のところ。連結作業をするには今日は少し大変だろう。
「榛名ちゃん・・・。」
誰かが呼ぶ声がする。その方向を見てみると顔見知りだった。
「佐伯さん。」
「よーす。」
「えっ。これから乗務ですか。」
「ええ。「858M」で静岡まで行ったら「841M」でまたここまで戻ってこなきゃいけないの。」
(列車番号かぁ・・・。)
「あっ榛名ちゃんにこんなこと言っても分からないかなぁ・・・。昔はよく知ってるなぁって思ってたけど。」
「そんなことないです。また、知識蓄えてますから。」
「・・・。そう。知識勝負ならいつでもしてあげるわよ。もちろん暇があればね。」
「いつまでもそんなことしてられません。」
「・・・。変わったね。」
そのあとは少し向こうのことも話したりして、数分楽しんだ。それからは本業に戻るために、アナウンスもやったりしていたが、
「榛名ちゃんもやってみる。」
マイクを差し出されたが、断った。ここに行けばいつでもできるものになるからだ。
20時39分発車時刻1分前。ホームのアナウンスが終わるころに、
「東海道線上り、普通列車、静岡行きです。ドア閉まります。」
というのが聞こえてくる。
「乗降終了。時刻よし。発車。」
と言って313系の中に乗り込む。乗り込んだ後はオープンキャンパスに行った時みたいに乗務員室扉の窓から顔を出して、ホームを見張る。
「それじゃあね。」
佐伯さんが一声かけると列車は動きだした。
313系の尾灯が右に曲がっている線路のかなたに消えていく。そこまで見送って、次のターゲットに目標を移した。
この次も、その次も発車の時に段は得られない。「カニ24形」みたいなのが連結されていないからだ。もちろんその代りはある。だけど、これは小規模だから。さっきみたいなことはない。
(これも見送ったら次は「はやぶさ」かぁ。「はやぶさ」には「カニ」あったよなぁ・・・。)
ふとそんなことも思う。「さくら」から「はやぶさ」までは時間が結構詰まっている。しかし、「はやぶさ」から「あさかぜ」の間はまたひらく。そして、「あさかぜ」から「瀬戸」の間はさらにひらく。この時間をどうやってやり過ごすか・・・。
留萌がいると鉄道の話で花が咲く。でも、だいたい2時ぐらいになると留萌はダウンするから、そんなにいい材料ともいえない。永島はもうすぐ寝る時間だし、萌にも迷惑はかけられない。全員いい持ちネタを持っているのに徹夜になると・・・。
「うーん。」
考える。考えても考えが浮かばない。どうにかしてやり過ごすしかない。
それから「はやぶさ」が来て、「あさかぜ」が来て、「出雲」が来て、「瀬戸」が来て、「銀河」が来て、発車するまでの間に「スーパーレールカーゴ」が来て・・・。
(こっちも大変だなぁ・・・。)
「スーパーレールカーゴ」が行ってしまうと次は上りの「スーパーレールカーゴ」である。その撮影のためにホームを4番線から1番線に移す。「スーパーレールカーゴ」はこちら側で撮影してもいい。豊橋側に行って、その時を待った。
時間はもうすぐ3時になろうとしている。この時間に駅構内のアナウンスはない。駅の近くも静かになった。この時間まで動いている人はそういない。自分も瞼が重くなってきている。これは明日の授業はほとんど爆睡で終わってしまう。
眠るかと思っている矢先に豊橋側が明るくなった。「スーパーレールカーゴ」は新居町付近ですれ違う。そこまでの所要時間は普通で13分。西浜松にも止まらない「スーパーレールカーゴ」なら10分あれば行ってしまうだろう。
(えっ。)
近づいてくる列車に嬉しい気持ちがマックスになる。「スーパーレールカーゴ」なのはわかったが、そのヘッドマークが雪に埋もれている。大体50パーセントぐらいは見えなくなっている。そのあと列車はホームに冷たい風を吹き込みながら通過していった。
「ツメタッ。」
降っている雪が自分のところまで飛んでくる。カメラも少し雪をかぶった。
ホームを見下ろしてみるとこちらもうっすらと積もっているのが見える。列車が走り去っていく時にもうちょっとよく見ておけばよかったなぁということをすぐに後悔した。まぁ、他の貨物があるからいいか。
次のターゲットは「出雲」。場所をここから東京側に移した。東京の方には屋根がない。ということはホームに積もった雪はおそらくそのままになっているはずだ。期待してそっちに行ってみた。屋根が切れているところまで来るとその先に靴の跡がのびていた。自分より前にこの先に行った人がいるようだ。しかし、行ってからそんなに時間はたっていない。こんな時間にいったい誰がここにきているのだろうか。復路の足跡がないから戻ってきていない。
その足跡の先にいた人に驚いた。
「翼。」
「ああ。榛名先輩。こんばんは。」
「こんばんはじゃないよ。何やってるのさ。」
「何って。撮影に決まってるじゃないですか。」
「・・・。」
「ああ。気を付けてくださいよ。僕さっき転んだばっかりですから。」
「翼ほど天然じゃないつうの。」
「・・・。」
雪が積もっているホームに座り込む。座るとお尻が冷たくなる。だが、この体制は足が痛くなる。
「榛名先輩さっきの「レールカーゴ」撮りました。」
「撮ったよ。大体昨日の8時からいるんだから。」
「なん時間ここにいるんですか。僕は「出雲」からですけど。」
「えっ。翼いた。」
「気づかないのは当然ですよ。僕は静岡のほうにいましたから。」
「なるほどね。」
また黙ったまま。何か話すことはと思ってもなにを話せばいいのかと思えてくる。同じ鉄研部員だし、鉄道の話でもいいかと思っても、普段話していることだから気が進まない。迷っているときに前を貨物列車が通過していく。ところどころコンテナが載っていない。そういうところから自分たちが吹き飛びそうくらいの風と雪が自分たちに襲ってくる。
「今のEF200でしたね。」
「えっ。よく見てなかったけど。」
「・・・。ならいいです。」
何回黙ったままになれば気が済むだろう。このままいるのも少しはいいかもしれない。
「こうやって雪が積もったのって初めてですよね。」
「初めてじゃないと思ったけど。確か、幼稚園の時にも一回あった。」
「そうでしたっけ。」
柊木は急に寒さを覚えたみたいで、肩が震える。
「そろそろ来ますね。」
「そうだな。」
「榛名先輩ってここに何回も来てるんでしょ。だったらここに来た時のサイクルでもできてるんじゃないんですか。」
「・・・。さぁね。」
曇っている空を見上げた。
しばらくたって上りの「出雲」が入線する。この後「瀬戸」が来て「あさかぜ」が来る。
「「出雲」。雪べったりですね。」
「・・・こんなになったEF65見るの初めてだ。」
EF65には雪がこびりついて、車体の鉄という感じがその凍り付いているというのを引き立てている。とても冷たそうだ。
「払ってやりたいですね。こいつにも僕たちみたいにコートがあればいいのに・・・。」
「・・・。」
(さくらも同じようなこと言ってたなぁ・・・。)
そんなことを思う。
浜松に来た「出雲」はしばらくそこに体を休めていた。と言ってもすぐに発車していく定め。今この列車に乗っている人は何をしているだろうか。私たちと同じ徹夜をしているだろうか。それともみんなみたいに寝静まっているだろうか。考えを巡らせる。
「フフィィィィィィィ。」
古臭いブレーキ音がする。
「ポッ。」
「カシオペア」の時みたいな長声は厳禁だ。小さい声を上げて、「出雲」を牽引するEF65-1111号機が動き出す。引っ張られていく客車はおとなしく動いていくEF65についていく。まだまだゆっくりのテンポでカタン、カタンと音がする。その24系も凍り付いていることを確認した。その中で一つだけ凍り付いていないのは「カニ」である。
「クシュン。」
「大丈夫か。翼。」
と言って柊木にのっている雪を下ろす。髪の毛が多少白に染まっていたのが地の色を取り戻していく。
「ありがとうございます。」
しばらく間があって、
「なんで明日学校なんでしょうね。雪が降ったら次の日は休みなんてシステムできませんかねぇ。」
「そんなこと言ったら北海道の人たちはほとんど休みになるじゃないか。まぁ、うらやましいけどね。いっぱい雪降るんだし。向こうはいいよなぁ。いろんな意味で。」
「・・・。北石が言ってましたけど、北海道は1日3回はシカが線路内に飛び込んだとかってことがあるらしいですよ。ひどい時にはクマですから。」
「へぇ。あっちも大変だな。」
そのあと「瀬戸」を見送り、「あさかぜ」を見送った。「あさかぜ」がくるころには雪はやんで、元の暗い夜に戻った。今日はどの車両もこたつに入った猫と同じだった。
今回からの登場人物
木ノ本家の人々
木ノ本肇
東海旅客鉄道浜松運輸区所属
佐伯凉子
もし今の時代寝台特急が走っていたらこうなるのではないかということを考えて作ってみました。
2011年1月16日は浜松でも積雪したほど。浜松では20年ぶりのことだったそうです。