111列車 特訓スタート
年が明けてはや4日。
「へぇ。智も散々だったなぁ。」
他人事みたいに言っているのは駿兄ちゃんである。
「でも、うらやましいなぁ。好きなやつと一緒にいれてよう。俺はそういうことできないからなぁ・・・。」
「あれ。駿兄ちゃんフラれたの。」
「違うって。休む時が運悪く違うだけでなかなかそういう時間ができないだけ。実際今日もそうだし。」
まぁ、休みがない職業だしそうなるのだろうなぁ・・・。
冬休みの残りは案外ふつうに過ぎていった。そして新学期も始まり醒ヶ井の特訓のほうもスタートした。
「よし。まず。新幹線の形式。0系から始まって、100系、300系、500系、700系、N700系が東海道山陽新幹線で働いている車両。」
指折りで形式を言っていく。醒ヶ井はただそういうのもあるのかという顔で聞いているだけである。
「九州新幹線は800系オンリー。東北・上越・長野・山形・秋田新幹線で動いているのが200系はじめ、400系、E1系、E2系、E3系、E4系。近々動くことになるのがE5系。そして、E3系の置き換えのE6系っていうキモいのだ。」
「・・・。」
「駅名は別にしてこれぐらいは覚えられないとなぁ。」
聞いていた留萌がつぶやいた。
「まぁ、簡単だし、問題ないだろう。新幹線の形式は基本百の位が奇数がこっち。偶数が向こうだからな。それにEって冠してるのは東日本っていう証だし、高校生の頭でこれぐらい区別できないなら単なるバカだな。」
「そうのか・・・。」
「そう言えば、前々から気になってはいたんだけど・・・。」
木ノ本が口を開く。
「新幹線の中で600系っていうのないよねぇ。」
「600系は形式としてはないだけで実際はあるんだよ。」
矛盾したことを言う。
「600系は計画上あったにはあったんだけど、600系って名乗ってないだけ。実際はE1系がその600系だったんだよ。民営化されたから、600系っていう形式がなくなったわけ。」
留萌が説明を加えた。
「と話がそれたな。まぁ、まずはこれぐらい覚えろ。この次は明日に回す。」
「分かった。」
「あと、写真見せられてこれは0系とかって言えるぐらいにしとけよ。」
「・・・。」
「写真だったら私が持ってこようか。多分お父さんが持ってるアルバムの中に東北組は入ってると思うから。」
木ノ本が提案する。
「じゃあ、それ頼む。」
言い終わって、次の5時間目の準備をした。
翌日。
「これは何。」
木ノ本が丸い鼻をした新幹線の写真を見せる。ラインは緑。
「0系じゃなかったっけ。」
「バカにもほどがあるな。永島どうする。これがいつ0系になったんだよ。」
「スカートにスノープロウがついてるだろ。」
「スカート・・・。」
いったいどういう意味が含まれているのかということは大体見当がついた。
「まぁ、スカートって言っても女の子の見たいにめくれるわけじゃないし、めくれてもその中が下着なわけないし。それに新幹線は6枚履きだぞ。」
「結構いらない知識があったような・・・。」
「はいはい。下ネタを想像してない。次。これ。」
「あっ。醒ヶ井これ間違えたら殺すよ。死体って形が残らないくらいに。」
「分かった。永島の好きなやつだろ。100系。」
「はい。リンチ決定。」
木ノ本はそう言って次の写真に問題を移そうとした。
「ちょっと待て。せめて答え教えてからそっち行けよ。」
「だから。分かってないみたいだなぁ。スカートにスノープロウがついてたらこっちじゃないってことはふつうの思考だろ。写真よく見てるのか。」
「違うって。醒ヶ井がよく見る写真は女の子の写真だと思うから。」
「ああ。なるほど。さすが変態は違うわ。」
「こんな性欲ないやつと一緒にするなよ。こいつの場合ふつうの男子高校生と違うって。」
「大丈夫。永島にはちゃんと性欲あるから。」
「木ノ本。それはどういう意味だよ。・・・。つうか次。これなんだ。」
木ノ本は写真を覗き込んで問題がなんなのかを確認する。
「うわぁ。こんな簡単な問題ほかに考えられないなぁ。カモノハシ。」
「ああ。言っちゃダメだって。それが答えにつながるんだから。」
「あっ。ごめん。」
醒ヶ井にはこれは通じなかったようだ。考え込んでいる。僕たちには700系のことはカモノハシで通じてしまう。
なぜカモノハシで通じるのかというと700系の先頭の形状。これを「エアロストリーム」というのだが、その形状は上から見るとどことなくオーストラリアに生息しているカモノハシのくちばしから頭にかけての形状に非常にそっくりだから。なお、700系の「エアロストリーム」がカモノハシをモチーフにしたということはない。
「えーと。何系だっけ。」
「そんなに迷うことか。形式ぐらい簡単なのに。」
「700系・・・。」
「おお。0系以来の正解。じゃあ、次。この緑のキモいのは。」
(キモいの・・・。)
「E5系。」
「正解。次。この車両はなんていうの。」
木ノ本は「あさぎり」の371系の写真を醒ヶ井に見せた。
「えっ。こんなのいたかなぁ・・・。」
醒ヶ井は考え始める。写真を覗き込んでみたが、迷うものでもないということがすぐに分かった。そして、これ見て真剣に悩んでいる人がある意味すごいと感心する。
「ダメだ。分からない。」
醒ヶ井がそうつぶやいたので、
「よし。それでいい。」
と声をかけた。
「まぁ。これまともに答えてたら私たちが発狂してたけどね。これは新幹線じゃないからわからなくて当然よ。」
「・・・。テスト範囲以上の問題出すな。」
と言われてしまった。
次の特訓はJR東海。ここは地元だからという理由でだ。さすがに地元のJRで働いている車両ぐらいは覚えられないとだめだ。
「よし。まずJR東海で動いている車両な。これが383系「しなの」。」
醒ヶ井にその写真を見せる。次に「ひだ」・「南紀」のキハ85系。次は「東海」・「伊那路」・「ふじかわ」・「ムーンライトながら」の373系。次は東海道本線の313系。写真を見てすぐに分かったが、これは5000番台だ。次は311系。次が211系。次は213系。次はキハ11系。次はキハ40形。次はキハ75系。最後はキハ25系だった。
「あれ。今見せてもらった中に同じのが入ってなかった。」
素人の目から見れば同じに見えてふつうの車両がこの中に2つある。
「もしかして、これとこれか。」
僕がまずその一つを醒ヶ井に見せた。取った車両は313系とキハ25系。
「そう。これだよ。同じ・・・じゃないか。」
醒ヶ井はそうすぐに言い換えた。視覚的違いしかない両形式だ。バカでも目さえよければ見分けられる。
「よく見たら、なんか変な感じするな・・・。上のヘッドライトがないだけなのに。」
「少しは進歩したみたいだな。」
「まぁ、これは序の口。次こいつらが見分けられればオーケイだ。」
今度は写真を変えて、211系と213系にした。これも視覚的違いだが、パッと見は同じにしか見えない。どこが違うのかって。外観からすれば、両開きのドアが211系は3枚なのに対して、213系は2枚だというところだ。他に内面的違いもあるがここまでは問わないことにしよう。
醒ヶ井もこれの違いを見つけようと必死になっていたが、分からなかった模様。これの答えを言ってやると確かにとつぶやいていた。その次はさらにハードルを上げた。今度は東海の中で一番親戚の多い313系の中だけで問題を出した。見せた車両は313系3000番台と313系2300番台。これの違いを述べさせることにした。この両形式の一つだけの違いは前パンがついているかついていないかしかない。ああ。しかないと言っては失礼か。ヘッドライトの色も違った。
これも醒ヶ井にはお手上げだった。答えを言ってもこれはへぇそうなのかという感じの答えが返ってきた。
「これ以上難しくしても醒ヶ井の頭がパンクするだけじゃないのか。」
「じゃあ、もっと簡単なやつにしてやるか。木ノ本の得意なやつお願い。」
得意なやつ。木ノ本はそう聞き返してきたが、どれかわかったようで、アルバムを一冊取り出し、
「よし。今度は簡単よ。列車名を応えればいいだけだから。」
「列車名って。形式も答えられない人がそんなの分かるわけ・・・。」
「分からなかったらただのバカだよ。」
「なるほど。そういうことね「はやぶさ」。」
まぁ、ここまで簡単なものもないだろう。もう答えが書いてあるのだから。今木ノ本が見せた写真は寝台特急の写真。これをけん引する機関車には99%ヘッドマークが付けられている。そこに書いてあるひらがな。もしくは漢字さえ読めれば答えられるのだ。
「よし。次。」
「ちょっと待て。さっきから同じのしか出てない気がするけど。」
「うん。同じのしか出てないよ。基本機関車しか変化がないから。だってこういうのだし。」
「・・・。」
「まぁ、ふつうだな。」
(やっぱりお前らのふつうってふつうじゃない。)
この後醒ヶ井に対し寝台特急で問題を出していった。醒ヶ井の場合はヘッドマークさえ見ることができれば列車名をこたえられるぐらいになったので、ふつうの領域に達した。しかし、形式のほうはふるわないままがしばらくの間続いた。
E5系を認めるべきなのに・・・。この中のキャラを作っていると大体好きな電車っていうのが自分の趣味と同じようなものになってしまうんですよねぇ。
そうそう。他の新幹線車両はイースリーとルビをつけているのに、なぜE5はイーファイブとルビをつけないかというとこれまでの新幹線と響き的にどうですかという関係です。