110列車 ゴール
翌日。12月26日。キラキラ展最終日。何とも早いものである。これまで展示をやってきて、何も支障がなかったといえばウソになる。「カシオペア」を走らせている時に牽引機のスノープラウが引っ掛かって12両編成の「カシオペア」が全車両脱線して外回りを走る「北斗星」の進路をふさいだり、テストをやって走るというはずの車両を持ってきたのだが、ここに来ると走ってくれなかったり、ダイヤ通りに運転できなかったりと、こちらのミスもあるが、電車の都合により遅れるということが多かった。
今日萌は来ない。昨日そう言って帰っていった。代わりと言っては失礼だが、今日は蒲谷が病室に来ている。
「萌の代わりにあたしが来てよかったのかなぁ・・・。」
「そう言うなって。」
僕は今思っていたことが蒲谷の口から出たことに驚いた。
「萌は今日忙しいから・・・。別に僕の見張りなんて必要ないんだけどねぇ・・・。」
「そうか。ナガシィ君の場合何するかわからないって萌言ってたぞ。」
「なぁ、あとであいつ殺すって言っといて。」
「おいおい。恋人殺していいわけないだろ。」
「恋人じゃないって・・・。」
「恋人じゃないならなんなんだよ。」
蒲谷が僕に顔を寄せてくる。
「恋人じゃなかったら・・・。」
何と答えていいか自分でもわからない。恋人以外なんて答えたらいいだろう。友達か・・・。自分ではそれではない気がしている。しかし、黙ったままでいるわけにも行かない。萌が言うには僕が黙っているときは図星であることが多いらしい。今この状況で黙ったままでいるというのはイコール萌を恋人と思っているということの証明になるのだ。
「はいはい。そういうことでいいから。」
そういうことにされてしまった。
「間違ってないからいいじゃん。」
(・・・。間違ってないねぇ・・・。)
しばらく黙ったままになると思った。
「萌がナガシィ君のこと好きな理由は分かる気がするけど、ナガシィ君が萌のこと好きな理由って見当がつかないなぁ。どうして。」
というのが聞こえた。
「えっ。好きな理由。」
「そう。萌からしてみれば、鉄友でしょ。そういうことで親近感がわいてるってことだと思う。だけど、ナガシィ君からしてみればどうなのかなぁってこと。」
「・・・。」
ちょっと考えた。今までそういうことを考えたことがない。鉄道のこともそうなのだが、理由を聞かれるとなぜか答えられなくなる。
「正直言うと自分でもわからない。」
まずそう言って、
「いつの間にか萌のこと好きになってたんだよなぁ・・・。なんでだろう・・・。」
「・・・。」
「きっと雰囲気だよ。萌の持ってる雰囲気にほれたんだ。」
そう言ってこのことは済ませた。
「雰囲気。」
蒲谷のほうが気になるようだ。おうむ返しに言葉が返ってくる。
「そうでなきゃ考えられないっていうのかなぁ。あいつのこと理屈で好きになってるとは思えないんだよ。」
「・・・。」
「そうなんじゃないかなぁ・・・。自分でもよく分かんない。」
と回答した。
16時30分。今日はいつもと違う時間にキラキラ展は終了する。「トワイライトエクスプレス」の「スイート」部屋の抽選のほうは浜松に住んでいる国道さんという人が当選したということをアナウンスで言っていた。
「それでは、車両のほうを片付けてください。」
アド先生はそうみんなに指示を出した。
「あの。さくら先輩。このナガシィ先輩の車両どうするんですか。」
隼は前からずっと気になっていた。この6箱あるケースをいつ取りに来るのだろうか。当の本人は入院している。
「それ。はじまるときに永島の友達が来たじゃん。その人が回収に来るって。」
「あっ。そうなんですか。」
「おい隼。ぼやぼやしてないでこのモジュール外すの手伝ってくれよ。」
柊木に呼ばれて、そちらに向かう。
(そろそろ行くか・・・。)
台車を押して、館内に入る。岸川が展示をしているところに行って、
「榛名いる。」
鉄研部の人にそう聞いた。
「えっ。木ノ本先輩は今日は来てませんけど。」
「あっ。そうなの。」
「おい。永島の車両はここにあるよ。」
車両関連のことを任せた留萌が呼ぶ。そちらに行って、中にいる留萌から車両ケースを受け取り、台車に乗せる。
「永島大丈夫か。」
そう聞いた。
「うん。昨日手術やったし、もう問題ないよ。別な意味でもね。」
「・・・。えっ。どういう意味。」
「なんでもない。こっちの話だから。」
「・・・。」
これ以上は話さなかった。まぁ、別な意味でというのは気になったが、話してくれないなら、こちらから聞く必要もない。恐らくその理由は榛名しか知らないと思った。
「これで最後だよ。」
「ああ。はい。」
萌はその箱を受け取って中身を確認した。漏れがないかの確認である。すべての中身をチェックして、入れ替わってないことを確認。
「ありがとう。じゃあ、これで引き上げるね。」
そう言っていったのでもう戻ってこないのかと思った。だが、すぐに戻ってきて、
「片づけよかったら手伝うけど。」
と言ってきてくれた。ことわろうと思ったが、そうする前にもうすでに片付けに加わっていた。
「おーい。これはどこに持っていけばいいわけ。」
「あっ。それじゃなくて、まずあっちの気の箱のほう運んでってくださいよ。」
「あっ。ごめん。片付けまでは見てないからごめんね。」
「・・・。」
「手伝います。」
「ありがとう。」
部員はおそらく気づいていると思うが、だれであろうと関係ないらしい。よそ者でも部活の仲間という風にふるまっている。
「・・・。」
「次はこれでいいのかなぁ。」
「はい。それもバンのほうです。」
隼は手伝ってくれている人の反対側を持った。
(この人なんだよなぁ。ナガシィ先輩の彼女って。顔つき似てるし・・・。きょうだいみたい・・・。)
バンに運び込み終わると、
「ねぇ、榛名私のこと変な風に言ってない。」
と聞いてきた。
「えっ。言ってないです。」
「・・・本当に。」
顔を寄せた。顔を寄せられる。
「本当に。本当に何も言ってないです。」
「そう。ならいいや。」
「・・・。」
(ナガシィ先輩と違うところもあるんだな・・・。でも、ならいいやで流しちゃうところは同じか・・・。)
坂口は終盤まで片づけを手伝い、終わったところで素早く姿を消した。
「あれ。あの手伝ってくれてた人はどこに行ったの。」
アド先生は気になったので聞いてきた。
それに気づいて全員であたりを見回してみる。彼女の姿はどこにもない。片付けが終わって感謝されるようなことでもないからだろうか。
「・・・。」
「いいんじゃないんですか。感謝されるようなこともないと思ったんじゃないんですか。」
留萌はそういておいたが、アド先生と箕島はそういうわけにもいかないと言っていた。
まぁ、それ以上探しても彼女の姿をとらえることはできなかったから、終わるころには二人とも諦めていた。
翌日。面会時間になるのを見計らい永島がいる病室に行った。
「よーす、永島。」
病室の中をのぞくと萌の姿がある。ここではお互いのことは知らないということだ。萌はアイコンタクトでそう木ノ本に送った。
(・・・分かったよ。)
心の中でつぶやいて、坂口の隣に座る。
「永島。身体大丈夫か。」
「大丈夫だって。気にすんな。」
「気になる人には気になるの。心配かけさせやがって。」
そういうとすぐしまったと思った。彼女の前でこんなことを言ったら勘違いされるだろう。
「ナガシィ。誰よ。もしかして浮気してたわけ。」
「・・・。」
「浮気してないって。部活の人だよ。」
坂口がうまく演技をして、永島をだます。ウソが嫌いと言っている人によくできるなぁと感心する。
打ち合わせをしていたわけではないが、坂口がうまくフォローしてくれたので、永島にはばれてないだろう。永島にこのことがばれるときは坂口の口から説明する日までない。
「元気そうだから、私はこれでいくね。」
というと、
「ああ、分かった。」
そう聞こえたのですぐに病室を出た。
それからすぐに永島の病室に向かう箕島と会ったので、箕島には相変わらずだよと言った。
萌と僕からしてみれば、ここから先は邪魔だけが多かっただろう。来てくれるのには歓迎だが、なかなか二人だけの時間というのができなかった。
「よく人が来てはなせないね。」
萌は人がいなくなった時を見計らってそう話しかけてきた。
「そうだな。まぁ、これまでキラキラ展やってたんだし、仕方ないと思うけどね。そういえばキラキラ展行ったりした。」
「うん。前売り券使わずに中見てきた。」
「どういう裏ワザ使ってきたんだよ。」
「えっ。ナガシィの車両運び込むときにさぁ・・・。あれってすごいよねぇ。鉄道模型って私Nゲージしか見たことなかったから。あんなにいっぱいあるんだなぁって思わなかった。」
「そうか。別にそう思うようなことじゃないと思うけど。」
「知らないからそう思って当然でしょ。」
怒り気味に答えが返ってきた。
それから醒ヶ井が病室に来て、
「なぁ、俺に鉄道のこと教えてほしいんだけど。」
いきなりそう頼まれた。
「醒ヶ井。頭おかしくなったんじゃないか。」
そう言うと萌は声をひそめて、
「この人ってどれくらい知ってるの。」
と聞いてきた。
「じゃあ、醒ヶ井まず聞くけど東海道本線って東京からどこまで。」
「えっ。大阪までだろ。」
と答えが返ってくる。
「なっ。」
「確かに。」
「おい。どうなんだよ。教えてくれないのか。」
「教えるには教えるけど、新学期始まってからな。そして、そのどうしようもない知識をどうにかしてくること。これが条件だ。」
「どうしようもない知識をどうにかできたら、教えてって頼まないつうの。」
そんな感じで退院の日まで過ぎていった。
前回スピード記録について書いたので、今回もスピード記録について書かいたいと思います。
昔フランスとイギリスは蒸気機関車でどちらが速く走れるかということを競っていました。結果はイギリスの勝利だったのですが、その勝因をイギリスはこう語っています。
「フランスにはイギリスほど長い下り坂がないから、勝ったんだ。」
とです。