105列車 注文過剰
永島の家に着くと時間は18時30分ごろだった。
玄関のインターホンを鳴らして中に入る。
「あら。萌ちゃん家に来るなんて久しぶりね。」
さっき会ったばかりの永島のお母さんだ。名前は永島和。
「こんばんは。」
軽くあいさつして、離れへの道を急ぐ。と言っても鍵はナガシィの部屋にある。ナガシィの部屋によってから離れに行った。その途中で隆則さんともあった。
鍵を開けて、中に入り、明かりをつけた。
(うわ・・・。ナガシィの離れに来るの久しぶり・・・。相変わらずみたいだなぁ・・・。)ふとそんなことを思った。だが、今日ここに来た理由は電車を走らせるためではない。キラキラ展で展示する車両を選びに来たのだ。
「ナガシィ。暇なんだからそういうことしとけよな・・・。」
独り言を言って車両庫のほうに入った。
車両庫の中に入るとその量に圧倒される。いつも見慣れているわけだが、久しぶりに見ると量が異常なことを思い知らされる。
ポケットの中に入れたメモを取り出し、持っていく予定の車両を確認してみた。
(えーと。寝台特急が「あさかぜ」、「はやぶさ」、「みずほ」、「日本海」、「北星」、「はくつる」、「ゆうづる」、「鳥海」、「出羽」以外・・・。と言ってもナガシィが持ってる24系と14系は全部持っていくことになるのかな・・・。)
箱を探して、そうなっているということを確認する。
ナガシィの寝台特急はこういう組成の仕方をしている。緩急車と呼ばれるヘッドマークを掲出できる車両は編成中に2,3両ある。その緩急車すべてに取り付けられているヘッドマークが違うのだ。簡単に言うと「あさかぜ」の編成中で「出雲」とヘッドマークを掲出した車両が存在するとしよう。逆に「出雲」の編成中には「あさかぜ」のヘッドマークを掲出した緩急車が含まれる。
他に「はやぶさ」の編成中に「富士」と「瀬戸」。「富士」の編成中に「はやぶさ」と「瀬戸」。「瀬戸」の編成中に「はやぶさ」もしくは「富士」。結果持っていかないというほうに入っていても、結果的に持っていくことになってしまうのだ。
(どこだ。TOMIX 24系寝台車の銀帯。金帯。)
まずはそれの大本を探す。今探しているセットには電源車というものが含まれている。電源車はその名の通り、電気を供給する車両。これがないと停電状態になった列車が走ることになる。・・・まぁ、模型では関係ないのだが。これを言ってしまったら終わりだ。
(あった。)
目的のものが見つかった。今度はこれを引っ張るための機関車だ。EF66。これを探す。近くの箱に入っていたため、これは問題ない。だが、これが走らなかったら問題がある。他に「さくら」、「出雲」、「瀬戸」、「トワイライトエクスプレス」、「北斗星」、「カシオペア」の牽引機も見つけて、全部テストすることにした。
(まぁ、ナガシィが毎日走らせてるんだろうし・・・。お願い走ってね。)
コントローラーのつまみをまわす。すると電気をキャッチしてライトが光る。今持ってきたものは全部言うことを聞いてくれた。
(で、今度は「ネックス」と「スーパーひたち」と「スーパーあずさ」・・・。・・・。でも「スーパーあずさ」に米印がついてるのは何でだろう・・・。)
これだけ理由は分からなかった。テストをしてみたがふつうに走る。じゃあ、理由はなんだろうか・・・。
今考えても仕方がない。これは放っておくことにした。
(他に1000番台と2000番台。これはもう定番だなぁ・・・。定番プラス邪道も入ってるなぁ。「とびうお・ぎんりん」って・・・。これって確か貨物だよねぇ・・・。)
「とびうお・ぎんりん」が邪道なのか王道なのかは関係ないこと・・・。
それから1時間はかかったと思う。何とか全部の車両のチェックは終えた。
(はぁ・・・。なんか疲れた・・・。)
しばらく天井を見ていた。だが、はっとした。
これを運転する人はいるのは分かる。だが、これの編成が分かる人がいるのだろうか。そこが心配になった。これはうまく編成順に並んでいる。24系の金帯の中に銀帯が混在する形でカニ24形、14号車から順番に「あさかぜ」の編成が組成している。これが分かる人がいるのだろうか。恐らくこの編成を理解できる人は鉄研の中にいない。なら、それもメモしておく必要がある。
まず紙を見つけなければならない。その紙がどこにあるのか。ほぼ当てがない状態で探してみた。
工具が入っているケースの中で一番下に使われていないところがある。そこになぜかものが入っていた。
気になって取り出してみる。
(うわ。ナガシィが喜びそうなアルバム・・・。)
100系の写真がびっしりだ。
結局これの最後のページまでめくっていたら、懐かしい写真も出てきてつい見入ってしまう。これでタイムロス。ナガシィの部屋まで走って、ペンといらないノートと思われるノートを持って離れに戻った。
(えーと。確か「出雲」は・・・。)
自分の2年前の記憶を頼りに、「出雲」の編成を頭の中に浮かべる。ナガシィが持っているほとんどの寝台特急はならべたことがある。それで少し編成を覚えているものがあるのだ。幸い今回は自分が分かっているものしかない。
(・・・。もしかして、ナガシィ私が編成分かってるものだけに絞ったのかなぁ・・・。)
ふとそんな考えが生まれた。だが、今はこれを思っている時ではない。すぐに取り掛かる。
これでまた1時間。
(他に。なんか注意書きが必要なのってあったかなぁ・・・。)
編成の組成で注意が必要なものには全部に注意書きを書いた。寝台特急なら編成順。電車なら組成時にどの方向から並べるか。そういうことだ。
「・・・。」
「萌ちゃん。」
後ろから誰かに呼ばれた。振り向いてみると和さんだ。
「萌ちゃん。もう帰らなくていいの。」
「あっ。いや。ナガシィに頼まれごとしてるから、それが終わるまで帰れません。」
「そうなの。わがまま言ってるんでしょ。大変ね。」
「いえ。私にしてみれば、結構楽しいし。」
「・・・。」
「・・・。」
「萌ちゃん。夕ご飯萌ちゃんの分も作ったんだけど、食べてけば。智君のわがままは夕ご飯が終わってからでもいいんじゃない。」
「・・・。いや、でも・・・。」
「あら、いらないの。萌ちゃんの好きなスパゲティなんだけどなぁ・・・。」
(一枚上手だった・・・。)
これには負けたと思った。夕ご飯をごちそうしてもらい。また仕事に戻った。
(大体。これぐらいなのかなぁ・・・。)
数分経ってからすべて終わった気がした。ついでだと思ってまた車両庫のほうに行っていろんな箱の中を見てみた。
箱の中を開けてみるとそれだけでもいろんな思い出が映し出された。ナガシィはよく電車をクラッシュさせた状態にするのがある意味の趣味に近かった。だから、いろんな車両をクラッシュさせた状態で模型の上に置くことをよくやっていた。まぁ、そのたびに駿兄ちゃんに怒られていたのだが・・・。
(よくそんなことあったなぁ・・・。)
つぶやいて、箱をもとに戻す。
「・・・。」
さて、次は・・・、
「和田山さん。これ。車の中にいるの手伝ってくれませんか。」
「はい。分かりました。」
和田山さんは快く引き受けてくれた。むしろ引き受けてくれないということのほうが少ない。車両ケースを全部運びこんで、作業を完了。
離れに戻って、ナガシィの部屋から持ち出したものを部屋に戻した。
「・・・。」
ちょうどナガシィの机の上にPFPが見つかった。機種の色は青。小学校4年の時にナガシィに譲ったものだ。
「・・・。」
そのあとナガシィの部屋の中を詮索して見た。すると一つのところにPFPのソフトがまとまっていた。電車でGO!シリーズだ。ナガシィと得点で勝負したことがあるが、ほとんど負けっぱなしだった。
(持ってってやろう。ナガシィきっと喜ぶかなぁ・・・。)
と思ったが、前彼が言っていたことを思い出した。すぐにこれを持っていくことはやめ、PFPだけは持っていくことにした。
時間はもう21時38分になっていた。ナガシィの家にこんな時間までいたことは初めてだ。
「萌ちゃん。帰らなくていいの。」
ちょうど帰ろうとした時、ナガシィの部屋に和さんがやってきた。
「今。帰ります。」
「・・・。」
足早に部屋を出て、和さんにさようならと言って別れ、家から出た。
外はもう真っ暗だ。西から吹く風が自分を凍らせる。
「寒い・・・。」
ふと言葉が漏れた。
走って近い家まで帰った。
帰ってみると、
「萌。こんな遅くまでどこに行ってたの。」
紗代母さんが自分をにらんでいる。
「ごめんなさい。ナガシィの頼まれごとやってたら遅くなった。」
正直に答えたが、紗代母さんはにらんだ眼のまま。
「はぁ。もうちょっと早く帰ってきなさい。でないと、今度は家の中に入れないからね。」
「・・・。」
「あっ。和さんから聞いたけど、ご飯はごちそうになったのね。」
「えっ。うん。」
「ならいらないわね。スパゲティ。」
(えっ。)
これは予想外だった。
「か・・・母さん。そういうことは先に言ってよ。」
「明日の朝食べる。」
「うん。」
「早くお風呂入って寝なさい。冬休みだからってお昼まで寝てるとかしてないでよ。」
「大丈夫だって。いつも6時に起きてるし。」
2階にある自分の部屋に行って、寝る準備をしたらすぐにお風呂に入った。
「帰ってきたのか。」
「ええ。」
「智君のうちに行ったら5時までいるのがふつうだったなぁ・・・。今日はやけに遅かったけど、なんかあったのか。」
「なんだ。てっきり聞いてるかと思ってたけど。」
それから事のならわしを紗代から聞いた。
「そうなのかぁ。またお見舞いに行ってあげないといけないなぁ。」
「本人からしてみれば大きなお世話なんじゃないかしら。」
「そうかもしれないけど・・・。」
そのあと私はすぐに布団の中にもぐり、すぐに寝た。もちろん明日のために備えるためだ。
その頃僕は・・・、
病室の天井を見ているだけの状態に飽きてきていた。
「はぁ。なんでこうなるんだよ・・・。」
独り言がふと漏れる。
もうこの時間は病棟の中も静かになっている。今起きているのは僕ぐらいかもしれない。
何も考えない状態になるのがいいのだろう。だが、それをしろというほうが無理。なんか考えてなければ眠くならないというのが実情なのだ。
「・・・。」
天井を見つめながら、ふと考える。
ぽんと思いつくものがない。結局何も考え付かないまま、寝てしまった。
12月23日。
「萌。起きなさい。」
起こされる声で目が覚めた。
「目覚ましの意味がないわよ。」
「・・・。」
「早く。ごはん冷めちゃうよ。」
「・・・。」
着替えて、下に向かう。
食卓に朝食が並んでいたが、昨日聞いたものではなかった。
(いっぱい食わされた・・・。)
と思ったが、今はそんなこと考えている暇ではない。すぐに流し込んで、ナガシィの家に向かった。
今回からの登場人物
永島家の人々
永島和
坂口家の人々
坂口紗代
本文中の「北星」と「北斗星」。お互い寝台特急ですが、一文字あるかないかで人が変わります。
「北星」は上野~盛岡間の寝台特急。
「北斗星」は上野~札幌間の豪華寝台特急です。