104列車 助け合い
気づけば、天井がさっきよりも低い位置に来ていた。まだ痛むお腹を押さえて、あたりを見回してみる。
「永島。」
声をかけられてその方向を見てみた。そこには僕を心配そうにのぞきこむ箕島の顔があった。
「よかった。お前何も言わないからどうしたのかと思った・・・。」
すかさずそういう声が聞こえてきた。
「ここ。どこだ。」
「病院の中だよ。」
「えっ。どうして。」
「お前がぶっ倒れたから、救急車呼んで搬送してもらったわけ。医者の話によれば盲腸だってよ。一週間は休まなきゃいけない。」
「ヤダよ。」
「・・・。」
「できれば、休みたくない。」
「いつまでそんなこと言ってるんだよ。休めって言っているときは休め。」
カチンと来たのだろう。だが、僕は正直休みたくはない。このキラキラ展のかけてきたといえばかけてきたのだ。それをこんなことで棒に振りたくはない。
「・・・。」
「分かったか。」
「・・・分かったけど・・・。」
「分かりたくないか。それぐらいがお前らしいよ。」
箕島の言葉が僕の言う言葉を遮る。
「展示は・・・。展示のほうはどうなってる。」
話題を変えて、僕が気になったことを話してみる。
「とりあえず、準備は進めてもらってる。柊木たちにな。」
「えっ。じゃあ、2年生とかは。全員ここにきてるの。」
「全員は来てないよ。安曇川先生と俺と留萌と木ノ本だけ。醒ヶ井と佐久間は向こうにいるけど。」
「そう・・・。」
病室の扉が開く。
「永島君。大丈夫か。」
その声でシナ先生が飛び込んできた。
「安曇川先生から聞いてびっくりしたよ。」
「盲腸だそうです。今回のキラキラ展のほうは永島だけは・・・。」
箕島がシナ先生に説明する。
「・・・。」
「そうだな。こうなるとキラキラ展のほうも・・・。そっちはどうなってるんだ。」
「ああ。佐久間たちに準備はさせてます。」
「そう。」
シナ先生はそのあと声を潜めて、
「これは27日にやるって言ってた打ち上げもやらないことにするか。」
と箕島に言った。
「そうですね・・・。永島がこういう状況である以上。」
「木ノ本君。留萌君。ちょっと。」
シナ先生はそのあと二人を呼んで、おそらくその話をしたと思われる。どうやらそのことは二人は了承したらしく、すぐに産業展示館のほうへ向かっていった。今おかれている状況とこれからどうすればいいかということを伝えに・・・。
産業展示館のほうでは・・・、
「ナガシィ先輩大丈夫かなぁ・・・。」
隼がつぶやく。
「大丈夫だよ。さっきのアド先生からの電話でそう聞いた。」
北石が答える。
「でも・・・。」
「確かに。どうなってるか気になるのは分かるけど、いずれわかること。今気にしてもしょうがない。俺たちは俺たちでやることをやっちゃわないと。永島先輩のためにもならない。全員でやろうって決めたことだ。」
展示の準備は永島がうずくまってからの状況とさほど変わっていない。ピッチを上げないとこれ自体に間に合わない。
「北石。これどうする。」
「えっ・・・。」
潮ノ谷が見せてきたモジュールのことは箕島先輩か永島先輩でないとわからない。
(くそ。箕島先輩まで行っちゃったからなぁ・・・。ここは俺たちに任せていったんだ。俺たちがしっかりしてなくてどうする。)
「どうした。さっきから進んでないじゃないか。」
ふと顔を上げてみる。するとさっきここに来た上野という人だ。その後ろには前に見たことある人たちが立っている。
「ちょっと無理言って学院大のほうから援軍もらってきたぜ。」
と言ってから、
「じゃ、頼むぜ。膳所。」
「はいよ。猪谷さん。青木さん。根府川さん。幸田氏。やりますか。」
「おう。」
病院のほうは・・・、
「箕島。早く戻れよ。」
「えっ。」
思わず聞き返す。
「心配してくれるのはありがたいけど、このまま展示のほうがおろそかになったらダメだろ。早く戻れ。お前でないと分からないってところもあるだろ。」
「それはお前のほうも同じだ。お前がいないと分からないことが・・・。」
「俺のピンチヒッターなら留萌がいる。だからそっちは心配ない。でも展示のこととかより詳しい情報を持ってるのはお前だろ。携帯北石に預けてきたってさっき言ってたけどさぁ、今この状況で冷静でいられる人なんていねぇよ。戻ってお前が指示を出せば、きっといいものになる・・・。」
「・・・。」
「心配するな。大丈夫。」
「冷静でいられる人はいないかぁ。・・・。大丈夫って言われても大丈夫じゃないんだよ。」
つぶやいてからそう言った。
その時、病室のドアが開いた。その方向に目をやってみると、
「誰ですか。」
箕島がまず問う。
「ああ。永島の友達です。」
萌はそう言ってから、
「安曇川さんですよねぇ。永島からよく話は聞いてます。お願いです。早く展示の準備のほうに行ってください。永島の面倒は私が見ます。だから、安心して・・・。」
アド先生に対し頭を下げた。
「・・・。」
「お願いです。永島はこの展示を人一倍いいものにしたいって思ってるはずです。それを裏切ることだけは・・・。」
「・・・。分かりました。箕島君。木ノ本君。留萌君。戻りますよ。」
アド先生はみんなを促して、まず僕の病室から出し、
「それじゃあ。みんなを送ったらまた来ます。」
と言って病室を出ていった。
病室の中は僕と萌だけになった。
産業展示館のほうは・・・、
「幸田。それはそこじゃなくて、こっちだと思うけど。」
猪谷さんが幸田に話しかける。
「えっ。そうか。これは位置的に考えてここだと思うけど。北石君。ここどうなってるかわかる。」
「ああ。そこは・・・。」
箕島先輩の携帯を見てみたが、どうなっているのかよく分からない。こういうときに本人がいてくれれば・・・。
と誰かがこちらに近づいてくる。
「アド先生。」
醒ヶ井の声でみんながそっちを向いた。
「・・・。上野君。それに膳所君に猪谷君に青木君に幸田君に根府川君。手伝ってくれてたのですね。ありがとうございます。」
アド先生はそう頭を下げた。
「いえいえ。元部活動がピンチならいつでも助けに来ますよ。」
「まぁ、半分俺らのところほったらかしだけどな。」
とそんな声も聞こえてきたが・・・。
「あっ。箕島先輩。ここどうなってるんですか。」
北石はすかさずいまぶつかっている問題を箕島に聞いた。
「えっ。どこ。」
箕島が近くまで来ると、
「永島先輩。大丈夫ですか。」
「ああ。」
「でも、何で戻ってきたんですか。」
「永島が戻れって言ったんだよ。プラス友達にも言われてね。」
「そうなんですか・・・。」
北石はそれ以上を聞かなかった。
このあと瀬戸学院から加勢してくれた人たちも手伝ってくれたことで90%近くが完成していた周回はすぐに完成し、瀬戸学院の人たちと上野さんには周回が関せしたところで、自分たちの展示のほうへ戻ってもらった。
病院のほうは・・・、アド先生たちが帰った後父さんたちもきた。そして、着替えとかを置いてすぐに帰っていった。なんでだろう・・・。
「なんで来たんだよ。」
「なっ。心配してきたのに追い返すわけ。」
「あ。ワリィ。・・・でも。この姿は正直見られたくないから。」
「見られたって。人生でまだ2回目だろ。」
「確かに。そうだけどさぁ・・・。」
1回目は小学校2年生の時。あの時は肺炎での入院だった。その時もこうして萌はお見舞いに来てくれたが、一つ違うとすれば、その時は萌の母さんたちがいたことだろう。
「時にはいいんじゃない。電車のこと考えずに骨休めするのも。」
「それ無理。」
「分かってます。」
「分かってるなら、何でそう言った。」
「何となく。」
「・・・。」
しばらく間があって、
「はぁ。展示したかったなぁ・・・。こんなんじゃいけないじゃん。」
「ナガシィのうちには大きなレイアウトがあるし、いつでもできるじゃない。」
「確かに。そうだけど・・・。なんかあれだけじゃ、今は物足りない感じもする。」
「みんなと楽しくやってるから。」
「そうかも・・・。」
また間があって、
「ナガシィってさぁ、何かに集中するとすごいところまで行くことあるよねぇ。」
「えっ。そんなことあるっけ。」
「あるよ。前なんかアニメの内容全部覚えてたじゃん。」
そんなこともあったなぁ・・・。でも今はできない。そういう系統に関心がなくなったからだ。だが、自分にとっても萌にとってもどうでもいい話。すぐに話すことに困った。
「ナガシィ。今回の展示でもいっぱい車両持ってく予定あったんじゃないの。」
話題を変えてきた。
「ああ。あったよ。でも、これじゃあ、それができないなぁ・・・。和田山さんに持ってってもらおうかなぁ・・・。」
「・・・。ナガシィ。」
僕が言いかけようとした言葉が萌の言葉に置き換わる。
「私がナガシィが持ってく予定の車両を詰め込んどく。それを和田山さんに運んでもらうでいいんじゃないかなぁ・・・。私のほうも今日から冬休みだし、ちょうどいいじゃん。」
「・・・。」
「ね。」
「でも。今回持ってく車両多いぞ。まず1000番台(223系)と2000番台(223系)だろ。後寝台特急の「あさかぜ」、「はやぶさ」、「みずほ」、「日本海」、「北星」、「はくつる」、「ゆうづる」、「鳥海」、「出羽」以外だろ。後「能登」と「雷鳥」と「スノーラビット」の「はくたか」とタキと・・・。」
「ナガシィ・・・。一体いくつ引き受けたのよ。到底頭に入る量じゃないわ。」
「ああ。分かった。今からノートに書く・・・ってノートさっき父さんたちが持って帰ったんだった・・・。」
「・・・。」
「はぁ、どうしよう・・・。」
「ああ。ちょっと待ってて。」
萌はそう言って病室を出ていった後、紙とペンを持って現れた。
「はい。書いて。」
「どこから持ってきたんだよ。」
「看護婦さんに持ってきてもらった。恥ずかしかったから、返しに行くのはナガシィがやってね。」
「おいおい。俺はだれからもらってきたんだかわからないんですけど。」
「しょうがないなぁ・・・。」
僕は萌がそのあとぶつぶつ言っているのを聞きながら、持っていく予定になっている車両のリストを書き上げた。その時には時間が5時になっていた。
「だから。承りすぎ。じゃあ、ナガシィの家行ってくるね。」
萌はそう言って立ち上がり、病室を出ていった。それと入れ替わりにアド先生がやってきた。もしかして、全員それを呼んでいたのだろうか。萌を入れ替わりに来る人のほうが多かった気がする。
今回からの登場人物
瀬戸学院の人々
幸田努 誕生日 1989年9月11日 血液型 O型 身長 175cm
根府川泰知 誕生日 1988年5月6日 血液型 B型 身長 167cm
子供だ。永島は子供だ。決して高校生じゃない。