103列車 準備中に・・・
12月22日。今日産業展示館というところに搬入する。
集合は8時00分に岸川寮。そこに集合ののち僕たちは産業展示館の方へ行く。アド先生は非常勤なため、終業式に参加する必要はない。だが、シナ先生は参加する必要がある。そのため、いつものようにバンを代わりに運転してくれる人がいない。だから、バンには一人生徒を乗せ、残りの生徒はすべて諫早のお母さんが人員輸送することとなった。
「みなさん。おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
アド先生があいさつする。
僕たちへの挨拶がすんだら諫早のお母さんの方にもあいさつした。アド先生の挨拶が済むと僕たちも頭を下げて、頼んだ。
「それじゃあ、上から木の箱を運んできてください。」
まず、指示が出た。
「おい。行くぞ。野郎ども。」
声をかけて、全員を上に。モジュールが入っている部屋の鍵を開けて、運び出す。運んできたら、モジュールをバンに乗せるか、入り口のところに置いて、次のモジュールを運んでくる。木の箱があるため、白いケースに入ったモジュールを運んでくるよりも速いペースで、バンがいっぱいになった。
「それじゃあ、中学生は終業式のほうへ行ってください。」
中学生たちは促されるように学校のほうへ向かっていった。
「永島君。バンの助手席に乗ってください。」
箕島たちは諫早のお母さんのウィッシュだ。乗れる人数は6人。全員は乗れないので、醒ヶ井と北石と潮ノ谷がここに残り、残ったモジュールおよび車両を搬出する作業をすることになり、乗れる人たちは産業展示館のほうへ向かうこととなった。
「アド先生。慎重にお願いします。」
心配になったわけではないが、搬出中に壊れてしまうということが多い気がする。声をかけた。何と言っても今回は移動時間が長い。
まずバンは寮の敷地から出る。次に数人の職員が車を止めている駐車場の横を通り、高校前のバイパスに出た。ここもある意味の難所。車は左右に揺れる。速度を落として、まずはここをクリアした。
バンはバイパスに出ると少し坂を下る。そして、寮の道から一番最初に左に曲がれる道に入り、僕がいつも上がってくる坂道を下った。下ると今度は下のバイパスに出る。ここには用水が流れている。当然橋がかかっているわけだが、そこの端から交差点までの短い坂が少しきついと思われる。速度を落としてここをクリアする。
ふと後ろが気になったので荷台いっぱいに乗っているモジュールのほうを見てみた。
「アド先生。もうちょっと慎重に。「綾瀬車両区」が少しずれてきてます。」
木の箱の上に乗せたはずの「綾瀬車両区」が少し左にずれている。このままではまずい。いつか崩れ落ちるだろう。
「そう。ちょっと元に戻してくれないかなぁ。」
「やれることはやってみます。」
右手を後ろに伸ばして、「綾瀬車両区」をつかむ。少し持ち上げて、元の位置に戻した。
「なんとか。これで少しはもつと思います。」
報告を完了した。
それから少し先までは何の段差もない。ちょっとスピードを上げて、遠州鉄道の助信の踏切まで来た。
「さて、ここも難所だ。」
アド先生はそうつぶやいた。ここは難所なのかと思った。
通ってみると案外難所らしい。バンは上下に揺れた。踏切には当然レールがある。レールの内側は車輪の「フランジ」と呼ばれる部分が入り込む隙間が開いている。ふつうに考えて、隙間がないところに何かものを通そうとするのは無理。そういう場所があるのだ。ここは数センチ単位の隙間だが、今この状況のバンには少しの隙間が大きく影響しているようだ。
そのあとわき道を突き進み、遠州鉄道上島から近いショッピングモールのところまで来た。ここにくる間にまた「綾瀬車両区」が傾いてきたのだ。
「ちょっと、そこの駐車場に入ろう。」
アド先生はハンドルを切って、すぐ近くの店の駐車場に入った。当然まだここに買い物に来ている車はいない。僕たちは一足早くこの店に入った。
「どうすればいいかなぁ。」
車が止まったので、シートベルトを外し、両手で「車両区」をつかんだ。
「どうしたんですか。」
箕島が助手席の窓を開けて聞いてきた。
その返答にはアド先生が答えて、僕は直すことに専念した。
(うーん。なかなか動かない。)
「綾瀬車両区」は下の支えがつかえて、ちょっとやそっとでは動かなくなってしまっている。上に持ち上げて、今この中に積まれている少ない白いケースに支えをひっかけて、動かないようにした。
「これでよし。」
アド先生にそう伝えて、店を出た。
それからは何の滞りもなく産業展示館の方へコマを進めた。産業展示館に着くといつも表側から入るところを裏側から入る。産業展示館の周りを4分の3周ぐらいして、後ろの入り口から入った。
(へぇ。裏側ってこうなってるんだな・・・。)
心の中でつぶやいた。産業展示館の裏側はどこかで見たことあるような恰好をしている。どことなく大きいお店の商品の搬入口のようになっているのだ。もともとモーターショーっぽいことをやるところだ。そうなっているのがふつうだろう。
「永島君。降りてもらえますか。」
「あっ。はい。」
アド先生の指示で、展示館内に入る前に僕は降りた。箕島たちもここまで運んできてもらった諫早のお母さんに感謝して、入り口のほうに集結した。
「どうぞ。中のほうに行っててください。私たちの展示場は一番奥の凹になっているところです。」
アド先生がそう指示したので。僕たちは先に館内に入った。
中に入るともうすでに準備しているブースがある。それぞれの展示場の大きさはさまざま。僕たちのところはそれを比べてしまえばものすごく小さいだろう。真ん中には大きな机が1周するように並べられている。僕たちが入った入口のすぐ左には人が乗れるミニチュアの線路と車両がおいてあった。先頭はこういうものにはオーソドックスと思われる蒸気機関車ではなく「ドクターイエロー」。・・・。いや、オーソドックスというのは僕の偏見ですが・・・。どうでもいい説明は置いといて、そのようなものが置かれている。
「へぇ。展示館っていうんだから、もうちょっと派手なところだと思ったのに。」
木ノ本にはどうも物足りない感が強いらしい。
「そうか。俺はここ来たことあるから、こんな感じだっていうのは知ってるけど。」
「へぇ。その時はなんか模型の展示とかやってたのか。」
「いや。確かその時はモーターショーだったかなぁ・・・。」
自分の記憶があいまいだったので濁らせた。
僕たちは自分たちの展示スペースらしきところに着いた。アド先生が言ったとおり、そこには緑のシートらしきものでおおわれた机が凹の形状に並べられていた。その周りには柵が設けられ、中には支柱が立っている。なお、この展示の売りは夜の風景を走る鉄道模型。当日はここの照明は落とされるということらしいが、そんなことをしたら、車内灯が付いていない列車をお客様は見ることができない・・・。どういうしかけてなっているのかはこの後すぐに分かった。
キュキュキュキュキュ。という音を立ててバンがこの中に入ってくる。床とタイヤとがすれる音だ。その音がやむころにバンは僕たちの方向に背中を向けて、止まった。
アド先生が車から降りて、
「それじゃあ、運んでください。」
と言ってバンの荷台を開けた。
バンの荷台が開いたことで、僕たちは荷物を置いて、作業に入った。僕は荷物を周回の中に置いたので、どうなっているのかすぐに分かった。中に立っている支柱の上にはライトが設置されている。これで展示館の照明が落とされていても車両を見ることはできる。だが、支柱の高さは150cmぐらいしかないだろう。僕の身長では注意しないと頭を張り巡らされている梁に打ってしまいそうな高さにあった。
それから仕事に加わり、僕たちはまず第一陣で運んできたモジュールを下ろした。そのあと第二陣を運んでくるために、アド先生のみ学校に戻り、僕たちは準備を進めた。
「駅はいつものところでいいだろう。」
「そうだな。」
「永島。「綾瀬車両区」どこに置く。」
「あっ。それはそこでいい。」
僕は木ノ本に凹の形状になっている机の左上角に置くように指示した。
「これが、どうなってたっけ。」
箕島が聞いてきたが、僕にもどうなってるかわからない。第二陣が来てから取り組めばいいという返答をして、第二陣の到着を待った。
第二陣の到着で人員がさらに増えた。もう終業式も終わったみたいで、学校のほうには今中学生がいるそうだ。残った醒ヶ井と北石と潮ノ谷が作業に加わった。第二陣以降もまだ運びきれていないものがあるようなのでアド先生はそれを取りに行くためにまた学校に戻っていった。
その間に一人人が僕たちのところに来た。
「アド先生いる。」
その人はそう聞いてきたので、いないと答えた。すると部長いると聞いてきた。部長はいるので箕島を呼んだ。
「話は聞いてると思うけど、展示を手伝ってもらう予定の模型工房の上野恵士。よろしく。元ここのOBだけど知ってる人はいないね。」
もしかしたら前の文化祭の時にいた人かもしれない。そう思ったが間違っていてはと思いそう問うのはやめた。
そのすぐ後だった。
とっさにお腹を押さえる。だが、押さえたところでどうこうの問題ではない。そのままの姿勢でそこにうずくまった。
「永島。・・・。どうした。」
誰かが心配する声がする。もう僕にはそれぐらいしか分からなかった。
「おい。永島。どうした。」
いつもと様子が違うのはだれが見てもすぐに分かった。箕島が声をかけて、永島の体に手を置く。永島はただ息が荒いだけ。それもとてもゆがんだ顔をしている。
「・・・。」
そのあと、
「ちょっと・・・。誰かはやく救急車呼べ。」
と指示を出した。
「えっ。そこまでヤバいのか。」
そこまでかという声で木ノ本の声が返ってくる。
「早くしろ。」
これはただ事ではない。今永島はお腹を押さえている。お腹と言っても右下の部分。となれば盲腸の可能性が高い。もし盲腸なら病院に送る必要がある。
「はい。・・・。えっ。産業展示館ですが・・・。」
留萌が電話する。
(おい。)
「誰か。こいつの家の番号分かるやついるか。」
次のそう聞く。これはいないという反応だ。全員の表情を見て直感する。
「ああ。間接的になら知ってると思う人がいるけど、聞いてみる。」
木ノ本は手を上げる。
「早く。頼む。」
(永島・・・。)
(ヤバい・・・。俺・・・死ぬか・・・も。)
今回からの登場人物
高砂模型クラブ
上野恵士 誕生日 1989年7月28日 血液型 O型 身長 168cm
伏線は前にも少し触れておいたけど、こういうものなのか・・・。