102列車 本屋にて
感じ方は人それぞれです。
少々時間をさかのぼって、12月12日。
(うーん。今日はこれとこれとこれでいいかぁ・・・。)
黒崎はいま浜松の町のほうまで来ている。薗田たちとカラオケに行った帰りだ。ここまで来たついでに本屋で興味を持った本を決めたのだ。
レジにいって決めた3冊を買う。
「これでよし。」
見回して、坂口がどこにいるのか探した。薗田と磯部と端岡はすぐに見つかるところにいたが、坂口だけは今ここからすぐに見える場所にいない。
(・・・。また時刻表でも見てるのかなぁ・・・。)
坂口の行動パターンもすぐに分かる。いつも時刻表に目を通しているのだ。そんなにあの分厚い本は面白いのだろうか・・・。
その場所に行ってみると今日はそこにいなかった。
「あれ。」
ふと声が出る。普段ここにいないということはないのに・・・。どこに行っているのだろうか。少なくともこの本屋のどこかにいる。
探しに行こうとしたが、いつも坂口が見ている時刻表が気になった。いったいどんなことが描いているのだろう。タイトルが時刻表というくらいだ。この中は電車の時刻しか書いていないのだろう。時刻表の中でも携帯サイズのコンパス時刻表を手に取って中を見てみた。
中にはびっしりと時間が記載されている。ある列車は6時00分に東京を発車し、その7分後には品川にいる。
(これのどこが面白いだ・・・。)
すぐに元あった場所において、坂口を探しに行った。
その頃・・・。
(・・・。)
鉄道ジャーナルに目を通していた。
(うーん。これからこういうのしか出てこないのかなぁ・・・。)
見ているのはE5系とE6系の併結テスト走行。個人的にはあんまり見たくない写真である。本を閉じて元あった場所に戻し、時刻表が置いてあるほうに行った。
おかれた本はすぐにほかの人が取った。
(萌の場合電車だもんなぁ。そんなに移動するようなことはないと思うけど・・・。)
と思って角を折れる。折れてその方向に歩いていくとある表紙が目に入った。
「・・・。」
そこにいたのは萌以外の人。
(鉄道雑誌を読む・・・女の子・・・。)
心の声がそう言う。その人は黙々と読み進めている。中身は今ここからではわからない。
「うわぁ。ロングとロングが・・・。変な組合わせ方してるよなぁ・・・。」
その人は突然独り言を言う。
「・・・。」
近くに合った自分でもわかりそうな雑誌を手に取って中を見るふりをする。
「・・・。」
「223系の2000番台かぁ。2000番台率高いなぁ。」
また声が出る。
「なかなか1000番台がでてこないじゃん。・・・。いた。でも普通ってしょぼいなぁ・・・。新快速のほうはないのかなぁ・・・。いた。」
聞いてればよく分からないことを相手は言っている。萌の口からよく1000と2000ということは出てくるが、1000番台、2000番台という言い方をしたかどうかは定かではない。まぁ、それは自分が電車のことをよく知らないからそうなるのだろう。
「さくら。なんかいいのあった。」
誰かが人を呼ぶ声がする。それには自分の隣にいた人が反応した。
「いや、全然。今回はね。」
呼ばれた人は本を置いて、その人と一緒に向こうへ歩いて行った。
「にしてもE5系とE6系併結運転やったらしいよ。」
留萌はいま得た情報を木ノ本に渡す。
「えっ。E5系はあの緑のキモいのだけどE6系って何。」
「だから。E3系を置き換えるための茜色のキモいの。」
「ようはE5系と同類。」
「そう。同類。・・・。はぁ、このごろあんなのしか出てこないからそれだけでも目が覚めるよ。空気抵抗のこと考えたらあの顔になるっていうのは分からないわけじゃないんだけど、何となくわかりたくないね。」
「分かりたくないね・・・。分かるよ。私もあれ好きじゃないもん。」
「あれってどっちだよ。E5系か。それともE6系か。」
「両方とも。」
「まぁ、E5系気に食わない人はE6系もそうなるんだよなぁ。自動的に。あれ思ったんだけどさぁ、E2系の顔を無理やり長くしたような顔してるから気持ち悪いんだって。だからさぁ、もうちょっとN700系ポクなればまだましになったと思う。顔だけは。」
E2系がどういう顔をしているかは分かる。それとE5系の顔を足してみると留萌の言うとおりだということを実感する。確かにE2系はE5系のロングノーズを始まってすぐのところで切断した形に近い。
「なるほどなぁ。でも顔をN700系にするとそれもそれで気持ち悪くないか。私好みは300系だし。」
「意外だなぁ。てっきりEF66のほうが好きだと思ったよ。」
「私はカマには萌えてません。」
「そこまでやんでなかったか。」
笑いながら棚の角を曲がる。すると、
「萌ちゃん。」
見慣れた顔を見つけて、木ノ本がそう言った。
萌は呼ばれた方向を見て、
「榛名さん。」
と返してきた。
「何知り合い。」
留萌は当然萌のことは知らない。
「紹介するね。永島の彼女の坂口萌ちゃん。」
「彼女って紹介するな。」
(でもどこかであった様な・・・。)
「まぁいいじゃん。そうじゃなくてもそうなんだし。時折展示とかにも来てるからさくらも見たことあると思うよ。」
「あっ。それで。」
留萌は手をたたいた。
「ていうか。萌ちゃんはキラキラ展来るの。」
木ノ本は話題を変える。
「もう前売り券は抑えてあるよ。」
「やること早いなぁ。」
「前売り券売り始めたその日に買ったから。」
「へぇ。」
「ナガシィも張り切ってるでしょ。」
「うん。子供みたいにな。」
「アハハ。らしいね。まぁ、それくらいのほうがいいけど。」
そのあと木ノ本は声を潜めて、
「ねぇ、これって完治したってことでいいのかなぁ。」
「それは私が判断します。」
「・・・。」
「おい。何か隠してることでもあるのか。その間でそれはヤバいぞ。」
「そういう意味はないって。こっちの話。」
「・・・。」
木ノ本はそういうと元に戻った。
「あっ。ごめん。」
坂口は何かを思い出したようだ。
「今日はそんなに長話できないんだ。ごめんね。友達と来てるから。」
「あっ。そうなのか。じゃあ。またキラキラ展でね。」
木ノ本と軽くあいさつを交わして、分かれた。
それと入れ替わりに黒崎が来た。
「あれ。萌どこにいたの。」
「ちょっと前からね。その前は鉄道ジャーナルとかが置いてあるところにいたんだけど。」
(なんだ。入れ替わりになったのか。)
「そろそろ行こう。そうみんなに声かけてきたし。」
「ああ。じゃあ、ちょっと待ってね。」
「何。また電車違うのがくるのか。」
「うんそういうこと。大丈夫あと4分だけだから。」
「それじゃあ、早くいかないとダメじゃないか。」
「ここにいるのがあと4分ね。」
「・・・。」
それからすぐに新浜松のほうに赴いた。次に来るのは2004のはずだ。まぁ、日曜日だし、運用が変わっているということはないだろう。
いつものように所定の位置に行く。その間にいつもと違う光景を見た。
(あれ。1007。なんでここに。・・・。)
普段30系が止まっている2番線ホームに1000形の第7編成。1007号が止まっていた。レアものだと思って携帯を取り出し、写真を撮る。
「何。珍しいもの。」
薗田は気になったらしく、その方向を向いた。だが、いつも乗っている車両の区別がついていない薗田には何が珍しいのかわかるはずはないだろう。
「全然珍しくないじゃん。いつも乗ってるやつじゃないの。」
という言葉が聞こえてきた。
「確かにね。あれ自体は珍しくないね。」
答えを返して、いつもの位置に向かう。この時間は本当に白の線の位置に並んでいる人は少ない。一番目をとることができた。
待っている間にN700系の「のぞみ」が博多方面に向かっていった。今この時間からでも向こうへ行く「のぞみ」が設定されているということに驚く。あの速度は伊達じゃないということだ。また入れ替えでホームに進入して行こうとする211系と313系の併結も見た。あれは中のシートの形状から2500番台(313系)であるということが判別できた。
「萌って全部あれ分かるんだろ。」
薗田が分かりきっているでしょと聞いてきた。確かにそうなのだが、211系のほうだけはそれだけしか分からない。211系だけはその先の区分を知らないのだ。
「全部ってわけじゃないよ。大体わかる。」
「全部ってわけじゃないって。ウソでしょ。全部わかってるでしょ。」
確かに。知らない人からしてみれば、その人はすべてを知っていると考えられてふつうかもしれない。だが、所詮人間。知らないことがあって当然だ。
「ウソじゃないって。東海の211系って0番台じゃないのは知ってるけど、何番台かわかんないし。それに313系のほうは0番台と、300番台と、5000番台と、2500番台と、3000番台走ってるけど、それ以外知らないし。」
(そこまで言われてももはやなんだかわからない。)
「・・・。あ。掘り込みすぎちゃったかなぁ。」
「うん。十分ね。」
と言ったぐらいだろう。電車が接近してくるアナウンスが流れて、向こうから黄色っぽいヘッドライトをつけた列車が入ってきた。それはホームに入る直前にライトをハイビームからロービームにしたため、さほどまぶしくない。
「ファファファファファ。キィィィィィィィィィィィ。」
列車は小さく音を立てて止まった。止まる間に車号2004を確認した。
数人降りた後乗り込む。
運転手はそれまでおろしていたカーテンを上にあげ、乗務員室内の蛍光灯を点ける。この頃分かったことだが、進行方向後ろの乗務員室用の蛍光灯が点灯しているときは尾灯が点灯しているときだということが分かった。今ここから見ることはできないが、尾灯が点灯しているのだろう。
すぐに発車時刻になって、
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
「キンコーン。キンコーン。」
バタンという音を立ててドアが閉まる。その音がしたら2回ブザーの音がする。ブザーが2回なるとブレーキが解除され、VVVFの音が鳴り始める。
すぐ隣の第一通りに停車。そこで、また客を拾う。
「おっ。宿毛君。」
ちょうど同じ列車に居合わせたのだ。
「ああ。久しぶりだな。」
「ちょうどカラオケに行った帰りで。」
「カラオケねぇ・・・。俺も同じことやってきたところ。」
「へぇ。」
「んっ。ナガシィ君は一緒じゃないの。」
磯部が聞いた。
「おいおい。永島君がカラオケに行ったらどうかなるだろ。」
それには端岡が答えた。
「歌う曲ないのにカラオケに行く方も無謀だと思う。」
「確かに。無謀だけど、もしかしたらうまいかもしれないじゃん。」
宿毛が答える。
「そこんとこどうなんだよ。坂口さん。」
今度は私に振ってきた。
「知らないよ。ナガシィが歌ってるところ見たことないもん。」
「えっ。」
「ナガシィってそういう変なところだけ恥ずかしがるところがあるからなぁ・・・。私もナガシィの歌声は聞いたことない。」
「・・・。」
どうも永島君という人には秘密が多そうだ。
ナガシィはほかの人に歌声を聞かれるというのが嫌なのだと思う。
前書きに感じ方は人それぞれと書きましたが、虚仮にしすぎたかもしれません。僕も最初E5系には抵抗があったのですが、留萌の言うとおりこれからそういうものが出てくるわけですし、認めて行かなければならないのかもしれません。