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四方八方光(よもやもひかり)
大きな影がついてくる。
だるまさんがころんだと叫んで、えいやっ、と振り向けば、その影は跡形もなく消えてしまう。
見えもしないのだから、もしかしたら付いてなんか来ていないじゃないかと僕は思う。先生もそう言う。本にもそう書いてある。なら付いてきていないのかもしれない。
それは君の影だ。と誰かはいう。
それは錯覚だ。と偉い人は言う。
それは私だよ。とお天道さまは言う。
えいやっ、振り向く。居ない。
物があって、光があれば影は出来るのだから、と思い直して、前を向き直る。
正面か。斜め右か。それとも左前方仰角45℃か。
うーんと悩み込んでしまう。だって、光はどこにもある。
みんな、どこも、至るところ、至るものが照らされている。
これじゃ、何が明るくて何が暗いかもわかりゃしない。
えいやっ、と言わず振り返る。後ろにも光がある。
でも、影はあるのだ。
それは父の影だ、と本はいう。
それは世間の影だ、と音楽はいう。
それは私だ、と神は言う。
深く暗い影がついてくる。
私はここだ、と僕の心が言う。