朝冷えの街
鋭く尖った凍てつく針が、痛いほどに突き刺さる。
夜を越えた風が、身を切って、陽を知らぬ空気が張り詰める。
凍りついた寒さで、輪郭を知る。
血が流れ、筋がうなりを上げて、熱を生む。
冷たい外と、熱い内側。
それが世界を隔てる境界線。
白くけぶる存在証明。
大きくそれを吐き出して、ペダルに力を込める。
後ろへたなびくそれが、未来への羅針盤。
払暁の暗がりの中で、凍える体が、どこを向いているかは分からないけれど、前へ進んでいるのは確かだから。
夜を振り払うように車輪は回る。
進んでも、進んでも、暗闇は後ろから肩を掴むように。
膝を抱えて俯いてても、陽は昇るはずだけど、がむしゃらにでも進まなければ、暗がりにポッカリ開いた大穴に呑み込まれて行きそうだから。
落ち葉の絨毯をガサガサと蹴立てて、車輪を回す。
耳に障るその音だけが、世界が息を止めていない証拠のように。
白い吐息と、擦れる落ち葉。
それぞれが、内と外との存在証明。
色と音が重なって、朝の光へ僕を押しだす。
空気の中に分け入って、車輪を回して進むから、一瞬一瞬、居場所が違って。
後ろを振り向きながら、過去の自分に別れを告げて。
冬の朝を車輪が回る。
夜と過去とを置き去りにして。
今、この瞬間すらも過去にして。
夜を終えた街に火が灯る。
夜と過去とを置き去りにして。
朝が運ぶ、未来を信じて。