ジャック・オー・ランタン
自らのイノチの意味に悩む男が居た。
夕暮れに独り問い掛け、さざなみに独り愚痴をぶつける。
男の悩みは、大人への階段の足元に広がる、独特の昏い熱病のそれとは、少し異なった。
それよりも深く、黒く、重い。
男の歩みから、男の思考から、男の呼吸すらからも、色を奪う。
その悩みは男にとって糧であり、使命でもあった。
男は鉄のカラダと数字のタマシイを持つヒト。
命とは何かを詳らかにする為に生み出された、孤独なイノチ。
魂のエゴを探るために、内燃機関に火を入れられたオトコ。
人は、男をJACKと呼んだ。
JACKは常に悩みと共にあった。
そう造られたからだ。
人間と同じように食べ、人間と同じように眠る。そうやって造られたJACKの体はしかし、鉄で。
人間と同じように泣き、人間と同じように笑う。そうやって造られたJACKの魂はしかし、数字で。
JACKは幾度も問いかける。私のイノチは命なのだろうかと。どうすればそれが明らかになるのだろうかと。
その命題こそがJACKの製造意義であり、存在意義を彩る物だからだ。
幾星霜の夜を悩みぬいた。もはや、JACKを造った人間は死に、心を通わせた者も誰一人生きて居なかった。
そうして、永い永い孤独の果てにJACKは気づいた。
そして錆すら浮かない精緻で頑強な体躯を丸め、泣いた。
泣き方も学んでいた。誰かの死を悼む事も。孤独の恐怖など言わずもがなだ。
そんなJACKの出した答え。
「死ねないカラダに命など宿るはずも無い」
JACKは決断した。
鉄のカラダが人のものであると認める為に。数字のココロが人のものであると認める為に。
それらを備えた自分のイノチが命であると認める為に。
他でもない自分で、自分を認める為に。
JACKは自らの命を摘み取った。
死に恐怖を覚える心が震わせる、鉄の左手で。
死を以って命を為した男の顔は恐怖と苦悶が刻まれていた。
命の刻印が為されたその体は、千歳、錆こそ浮かせながらも、終ぞ大地に還る事は無かった。
ジャック・オー・ランタンは、悪魔に貰った石炭ををカボチャに入れランタンとし、それを持ってさまよう男の寓話、らしいです。
なんか、勝手に造られた命が人生の道をさまよい続けるというエピソードにリンクしたので、少しモチーフとして拝借。