第十話「この世界の妹」
──ああやはり戻る時の感覚は慣れないし、気持ち悪い。あの時を思い出す。
僕は胃から込み上げる物をなんとか、押さえ込んだ。
トウマが僕の異変に勘付いて、語りかけてきた。
──戻ったのか?
トウマの額に一筋の汗が伝う。
恐らく俺の思考から前の世界の記憶は読めない。
ただ戻ったことだけがわかるだろう。
「トウマ、帰るぞ。」
ここにいてはダメだ、ここにいたらまた殺される。
そんなのはもうこりごりだ。
「キョウ、境界を作って帰るぞ!今すぐに!」
その意思のこもった声に何かが起きたと思い、境界を作って逃げようとした時──
──隣で撃たれている。ユイナがいた。
「あ、ああ」
と僕は声にならない声を出して、
次の瞬間、僕の脳天は鉛によって撃ち抜かれた。
*
また僕は電車で目を覚ました。
──逃げられなかった。僕の判断でユイナを殺してしまった。その重圧が僕に乗りかかる。
なんでなんだ?なぜなにも変えられない?
こんな能力を持っていてなぜ?
わかってるさ、わかってるんだ!
あの時から僕は何一つ変わってないということを.....
トウマは異変を勘付いていたが、
何も言わないでくれた。
その優しさがなぜか、今は苦しかった。
*
気づいたら僕は電車から降りていた。変わらない会話、変わらない行動、それらに僕は──
──気味が悪い。
そう思い、フラフラになった足を引きずりながら、
太陽を睨みつけていた。
僕の行動に変だと思ったのか、
キョウは「休んでいていいよ!」と言ってくれた。
周りを見れている。だからこそリーダーになれたのだろう、などとどうでも良いことを考えて、
今のこの状況を受け入れたくない。いわゆる現実逃避をしていた。
*
僕は一人でこっそり敵アジトに乗り込んだ。そこには、僕と同じくらいの背丈のガキがイスに座って、
紅茶を嗜んでいた。
僕はそいつを見るなり、過去に戻る力で
擬似瞬間移動をして近づき、殴った。なんども、なんども、なんども、殴り続けた。
「お前のせいで死んだ!ユイナもみんなも!」
泣きながら声にならない嗚咽を吐きながら、殴り続け.....
──そいつは確実に息を引き取った。僕はみんながいる遊園地に向かおうと思い、帰ろうとしたら.....
僕の腹に銃弾一個分の穴が空いていた。
そいつは何事もなかったように、そこに立ってた。
「──お前は危険すぎる」
とそいつは言い、撃たれた僕を倒して、銃弾で脳天に何度も撃った。
「──だがこれでゲームオーバーだ。サクくん♪」
とやつは悪魔らしい笑みを浮かべて、僕は息を引き取った。
*
僕はまた電車の中で目を覚ました。
「クソ.....代償か.....」
僕の目は白黒の世界になっていた。
恐らく何回も戻ったから、
これを繰り返せば人間としての機能を失い、また.....
──僕はバケモノになる訳か、
とトラウマを抱えた一人の少年はそう呟いた。
*
電車から降り、前と変わらない行動をしたが、ツムグが遊園地に行きたい!と言った時に、
「僕たちは本来の目的、アークにトワの記憶を取り戻すことだ。」
と感情のこもっていない声で話した。
「本来の目的が最優先だ。リーダーならそれがわかるだろう。」
少し威圧的に言ったことで、ツムグが怖がっているのがわかる。
「休息を取るのも大事だ、それにまだまだ時間はある。ゆっくり行けば良い。」
その言葉に少し腹が立ったが、それをグッと飲み込んで告げた。
「俺たちにはやらなきゃいけないことがある。それに遊園地こそいつでも行ける。その辺考えたらわからるんじゃないか?リーダー?」
と煽るように言ったが、トワが
「なんだか、今のお前は少し怖いぞ、何が起きて、
どんな目的があるかは知らないが、言い過ぎだ。」
「.....悪い少し疲れていたんだ。」
笑顔を貼り付けながら、そう返した。
*
トワと僕は前に来た廃墟に来ていた。
もちろん近くのカフェにそれ以外の人は置いて、キョウの能力ですぐ駆けつけられるようにしている。
「さあ、言い訳を聞かせてもらうぞ?僕殺し──」
と呟くような声でそう吐き捨てた。
*
中に入ると奴は前と同じく机と二つのイスがあった。
「やあ二人ともお待ちしていましたよ。」
薄ら笑いを浮かべて、そこにやつはいた。軽薄な男。それが第一印象だった。
「それで、トワさんを直して欲しいと言う訳ですね?」
トワは頷いたが、僕は頷かなかった。この世界では僕は賭けに出る事にした。
「トワが何者なのか、そして何をやってきたかは知っている。」
嘘だ。トワの正体はわからないが、何かアークとの接点はあっただろう、という読みの選択だったが、それが案外良かったらしく、「ほう」と興味深そうにこちらを見ていた。
「なるほど、なるほど、どうやって知ったかは分かりませんが、ええそうです。トワさんはこちら側でした。」
それを聞いてトワは少し過呼吸になっていたが、冷静さを取り戻し、
質問をした。
「僕がそんなことをするとは思えない、するとしたら、【洗脳】でもしたのか?」
僕もそれが一番ありえるだろうと
思っていたが、それにやつは──
「さあ?ここからは教えられませんね、
あなた達が入ってくれるなら違うのですが。」
と怪しい誘い文句に乗ってやる事にした。
「わかった入るよ」
と淡々と言ったことでトワは隣で驚いたが、僕の思惑を察して黙ってくれた。
「そうですか。それでは──」
【ご入会おめでとうございます♪】
と怪しく光る目に吸い込まれたように僕らは意識を失った。
*
「は!」と僕の意識は覚醒した。
そこには荒れ果てた地と、暴走している少女がいた。なぜか──
──僕の腕がユイナの腹を貫通していた。
「ゴフッ」とまだ息があり、足りない頭で思考して、今の状況を考えていた。
咄嗟に過去に戻る能力を使ったが、
すでに使い切ったのか、傷口が戻ることがなかった。
「お兄ちゃん.....」
「喋るな!今傷を....!」
クソ治らない!なぜ?なぜなんだ?
この世界は理不尽だ!なんで僕らがこんなことにならなきゃいけない!クソ、クソ!止まれ、止まれ!
溢れ出す血は無情にも止まることを知らない。
「お兄ちゃん.....」
と僕の頬にユイナの手が重なる。
その手がまだ温かみをおびていて、
泣いてしまった。
「全く、困ったお兄ちゃんだなぁ
どうせまた繰り返してるんでしょ?私は繰り返す感覚や世界が変わる感覚ってのがわからないけど──」
【この世界ではたった一人の妹なんだから!】
「だから、だから、そんな悲しい顔しないで」
「諦めるな!まだ戻せている!
お前だって喋れているだろ!」
希望に縋るように僕はそう発した。
「無理だよ、この傷は無理だ。
私にはそれがわかる。
だからさ最後にお願いを聞いて?」
僕は頷き、それによって涙が
ユイナに当たった。
【生きて欲しいこんな理不尽な世界を生きて、生きて、いずれは後悔を.....】
と言いかけた時、横から発砲音が轟いた。
「まあなんと感動的な兄弟愛なんでしょうか!ねぇお兄ちゃん♪」
そいつは憎たらしい顔しながら、
僕に語りかけてきた。




