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便意のエース

作者: 柳原康弘
掲載日:2026/08/10

便意◎


「夏の甲子園も決勝まで来た。これもエースのおかげだ。1年生だけど本当によく抑えてくれる。

決勝、絶対に勝とう!」

キャプテンの言葉に、俺らは『おうっ!』と大きな声で返す。


エース、と呼ばれる俺はクールにマウンドへ向かう。

走らず、歩いて。

お尻を引き締めるようにし、絶対走らないように。


サイレンが鳴る。

夏の甲子園大会、決勝が始まる。


俺は強く決める。


『1回表が終わったらトイレに行こう!』

便意がヤバい。




ここで漏らしたら絶対一生ネタにされる。

『アイツ甲子園決勝で大便しやがった』


冷静な表情で、キャッチャーにうなずく。

そして、1球目、投げる。


『ファール』


いいぞ、ストライクだ。あと2回ストライク取ればワンアウト。トイレが近くなる。


サインに、うなずく。


『ファール』


…。

なんかヤバいな。

こいつ、アレか? ファールを取りまくって、打ちやすい球が来たら打ってヒットにするっていう。


ふざけんなよ? マジ今便意ヤバいんだよ、出そうなんだよ。


意識をしたら出かかる。慌ててお尻をキュッと締める。


『次の球で仕留めるぞ、エース』

キャッチャーの意図に気付き、うなずく。

冷静に、あくまでも冷静に。

冷静で絶対的なエースだから。


次で、仕留める。

投げる。


『ファール』


…。


何真面目な顔してんねん、バッター。マジで便意ヤバいんだよ。


あー、あー。


キュッ。




「よく抑えた、流石エース」

「まだ1回すから」

ベンチに帰り、監督と会話をする。


真面目で、厳しい監督。指示も上手い。


1回表、終了。


よっしゃあ! トイレ行って出せる!

さっさと行ってさっさと出してこよう。絶対優勝だ。


トイレに行こうとする俺。

すると監督が、


「おい、どこ行く」

「はい?」

「1年生なんだからな、これからのために、よく攻撃を観察しておけ」

「…あー」


死んだかもな、コレ。

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