救われたかった代償
青年はこの世界を救うために、女神に召喚された者達の一人だった。
他の者達は世界を救うことに承諾した。しかし、この世界の危機を説明された青年は迷うことなく拒否をした。
高らかに、この世界を救うと宣言した他の者達と違って、青年は頑として帰還を譲らなかった。城の者達は拒否した青年を臆病者、卑怯者と罵った。勇者の召喚に携わった自分も青年を軽蔑した。
そんな者達を青年は冷たい眼で言った。
「私が決めてはいけないことなのか」
何を言っているかがわからなかった。
「私が女神の勇者であることを、戦わないことを選ばないことはおかしいことなのか」
諭すように青年は言葉を続けた。
青年の言葉は間違いではないと思うほどに清廉に、逆らうことを許さないように傲慢で、まるで尊き王のごとく。
「私が帰りたいと選ぶことは罪だと言うのか」
青年の言葉は心に茨のようにちくちくと刺さり、毒のように浸した。
自分達は自分達の世界を救うために、まったく関係のない世界から、見も知らぬ者達を召喚した。そして自分達の世界の命運を押し付けている。
しかし、これはこの世界を救うための仕方がないことだ。
「それなら何をしてもいいと、お前達は言うのだな」
吐き捨てるように言う青年に、言い返すことが出来なかった。
青年は探した。探して探して、何年も経て、ようやく青年は自分の世界へと帰還するための方法を見つけた。
見つけた方法には必要な材料や道具、しなくてはならないことが山ほどあったが、青年はそれでも諦めなかった。青年は迷わなかった。
そして、青年は帰還の方法を応用した術を作り出した。故郷である世界、青年の父親と連絡をとることに成功した。
喜ぶ青年に父親が悲痛な顔で告げた言葉は、青年を絶望へと叩き落とした。
青年が召喚された後、他国の人間達が青年の産まれ故郷である島国に攻めこんできた。島国を守るために、王族が先頭に立ち、戦った。
その戦いで、亡き母親の親友で、育ての母親である女王が、実の兄のように慕った女王の息子が、死んだことを、王父親が涙を流して伝えた。
狂ったように声をあげて、青年は泣き喚いた。自分は青年に何と言っていいのか、わからなかった。
「……我らは…」
自分の世界に帰還するために必死に方法を探す青年に、自分達は何をしたのだろうか。故郷に家族のもとに帰りたいと願う青年を、自分達は愚か者だと決めつけた。
勝手な都合で青年達を、自分達の世界に召喚した。憎まれても、恨まれても、仕方がないことを自分達はした。
それなのに、青年は自分達を憎まなかった、恨まなかった。耐えることを選んだ青年に、何故このような仕打ちなのだろうか。世界を救うことを拒絶した青年への罰だと言うのか。
信仰する女神に何度も自分は問いかけた。自分達は理不尽に青年達から、愛する家族を、いつもの日常を、描く未来を奪ってしまった。
奪われた青年の眼が憎悪に満ちる。〈チカラ〉が集まり、青年を変える。
亡き母親と育ての母親と同じなのだと、嬉しそうに語っていた銀髪が闇のごとく、黒く染まる。左眼が血のごとく、赤く染まる。青年が〈魔〉に堕ちていく。
「……もう、いい。もう遅かった」
思い知らされる。自分達がどれほどに傲慢であったのか、愚かであったのか。だから、青年の行いを、向けられる憎悪を、目を閉じて受け入れた。
救いようのない大罪人である自分達は、復讐の処刑人である青年に首を差し出した。




