表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、世界一やさしい少女に出会いました。 ― これは、ひとりの少女を救う物語―  作者: 凪雨カイ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

第5話 笑顔の街にて

夜になっても、潮見の街は穏やかだった。

昼間の賑わいの名残がまだ路地に漂い、

パン屋の前には空になった籠が並んでいる。


ユウマはノエルの家の窓辺に座り、

遠くに光る海を眺めていた。

月明かりが波に映って、まるで金の糸が揺れているようだった。


「ねえ、ユウマおにいちゃん」

「ん?」

「今日ね、神様がとっても喜んでたよ」

「そりゃ、祭りだしな。みんな楽しそうだった」

「ううん。そうじゃないの。

 神様は、“泣く人がいなくなった”って言ってたの」


ノエルは微笑みながら、両手で小さなぬいぐるみを抱いた。

その声は穏やかで、どこまでも澄んでいる。


「……それって、どういう意味だ?」

「悲しい人や、苦しい人はね、もういないの。

 神様が連れていったから。だから、もう誰も泣かないの」


ユウマは言葉を失った。

昼間、通りで見かけた花売りの老婦人の姿を思い出す。

祭りの途中、彼女の屋台は片付けられたまま、

夕方には跡形もなく消えていた。


「ノエル、それって――」

「ねえ、ユウマおにいちゃん」

彼女が遮るように言った。

「やさしい世界って、きれいだよね」


その笑顔は、昼間よりもずっと静かだった。

ユウマは息を呑む。

その顔の奥に、まるで“人形のような均整”を見た気がした。


外から風が吹き込んで、部屋の灯りが揺れた。

遠くで鐘がひとつ鳴る。

昼のように八つではなく、たった一度だけ。

その音は、祈りの終わりのように静かだった。


ノエルは窓の外を見つめ、

「明日もいい日になるよ」と言った。


ユウマはうなずき、

その声が自分の中で何かを崩すように響いた。


夜が深まり、潮風が冷たくなる。

笑顔の街で、世界は確かに変わり始めていた。


第1章、これでひと区切りです。

読んでくださって本当にありがとうございます。


穏やかな空気の中に、少しずつ見えてきた“何かの歪み”。

第2章からは、その正体が静かに姿を現します。


また次回、朝の光の中でお会いしましょう。


――凪雨カイ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ