第2話 ノエルの街と空の色
1話から続けて読んでくださってありがとうございます。
この世界の“やさしさ”と空気を、もう少しだけ覗いていく回です。
まだ穏やかな日常の中で、ノエルとユウマの距離が少しずつ近づいていきます。
パンを食べ終えたあと、ノエルはユウマの手を引いて街の中を歩いた。
「この通りね、朝はパンの匂いでいっぱいになるの」
「へえ……いい匂いだ」
「うん。パン屋さんがいっぱいあるから、みんな朝は幸せなんだよ」
そう言って笑うノエルの頬は、光に透けるように白かった。
ユウマはなんとなくその横顔を見ながら、自分の世界を思い出していた。
灰色のアスファルト、無言の通勤列車、
そして、誰の顔も見ないで過ぎていった日々。
――この世界は、まるで絵本の中みたいだ。
広場では楽器を奏でる老人がいて、噴水のそばでは子供たちが遊んでいた。
どこを見ても、穏やかで温かい。
「ねえ、ユウマおにいちゃん」
「なんだ?」
「この街の人たち、みんなね、笑顔が好きなんだよ」
ノエルがふと立ち止まり、両手を広げた。
青空の下で、金の髪が光に踊る。
「だからね、泣いてる人がいると……神様が悲しむの」
「神様?」
「うん。この街を守ってる神様。やさしいけど、ちょっと怖いの」
ユウマは曖昧に笑ってうなずいた。
まだこの世界のことを何も知らない。けれど、
ノエルの言葉の中に、少しだけ冷たい響きを感じた気がした。
「ねえユウマおにいちゃん、これからどうするの?」
「うーん……とりあえず、働ける場所でも探そうかな」
「じゃあギルドに行こう! わたし案内してあげる!」
ノエルはそう言って、また小さな手を伸ばしてきた。
その指先は、春の光みたいに温かかった。
第2話まで読んでくださってありがとうございます。
ノエルの街の空気と、小さな会話の中に少しずつ“この世界のルール”を散りばめています。
次の第3話では、ギルドを通して新しい出会いと“違和感”が顔を出します。
――凪雨カイ




