#8「到着」
「お二人とも、そろそろ着きますよ!」
セツナの声が操縦室から聞こえた。
「んん〜!やっとかぁ〜!」
私と同じように近くに座っていたオセルヴァが伸びをする。
私が目を覚ましてから十日以上だろうか...かなりの時間が経っていた。
「あの崖の洞窟から入って行きます!」
「うぉ〜すげー...」
船の進む先には高い陸地があり、その側面には海面から繋がる小さな穴があった。
船はその穴へと入っていき、陽の光が遮られ......しばらく薄暗い洞窟を船で進んでいくと、少し開けた空間に出る。
その空間にあった、橋のような場所の隣で船は止まった。
「...わたしが先に降りて説明してきますので、お二人はここで待っていてください。」
操縦席から降りてきたセツナは、船の傍から橋へ降りていく。
「いってらっしゃ〜い。」
―――。
「......本当にいるとは...。」
しばらくして洞窟の奥からやって来たのは、セツナではなく一人の女だった。
「あ、フォーラ〜。久しぶりぃ。元気ー?」
「......今元気では無くなったところだ、オセルヴァ。」
「え、そうなの?大丈夫?」
「...はぁ......。」
フォーラと呼ばれた女とオセルヴァは知り合いのようだ。
彼女が、オセルヴァが言っていた「仲間」ということだろうか......。
「あれ、てか、せっちゃんは?」
「せっ...?...あぁ、セツナのことか......。あの子なら村で休ませている。...態度には出さなかったが、随分と疲れていたからな......。」
「えー、そうだったんだ...!」
「......そうだったんだでは無いだろう!この馬鹿がっ!」
フォーラが急に怒鳴り声を上げた。
「え...!?な、なに?急に......。」
「何故、あの子が一人で船を任せられている...!?」
「え...?いや、知らないよ...。手配したのルファロスだし......。」
「あの男か......!アイツは人をモノとして見過ぎなんだ......!」
「はぁ、そう...?...あ、そうだ。コレ、ルファロスの手紙。」
オセルヴァが懐から手紙を取り出しながら船を降りていく。
「...よこせ。」
「わっ...。」
オセルヴァが降りてすぐに、フォーラが手紙を奪い取った。
「........................。」
フォーラは手紙を開くと、それを凝視しながら読み始め......次第に表情には怒気が滲んでいくようだった。
「チッ.........!」
「......あー......また何か怒ってる...?」
「当たり前だっ馬鹿者がッ!!」
「ぅお...!怒鳴んないでよー......。」
「あの男...!体良く厄介者を全て押し付けてきたということだろう...!」
「......はぁ。」
「......一番の厄介はお前だぞ...!」
「え!俺!?」
「ここに書いてある通りなら、この状況自体お前が引き起こしたものだろう...!」
「......んー...?そうなの?」
「...チッ.........。.........ハァ......まあいい......。それより、そこにいるのがナギという娘か?」
「ん?あ、そうそう!ナギちゃんこっちおいでー!」
オセルヴァに呼ばれ、船を降りる。
「あ!俺がナギちゃん連れて来たから、俺のせいってこと...!?」
「...お前が私たちに従う意思があるというのは本当か?」
フォーラに問われる。
「え、無視?」
「黙っていろ。」
従う意思があるか...。
私は、ルファロスに必要とされ、従うと言った。
この女が、あの男の仲間であり、私を必要とするのであれば――
「...ああ、私はお前に従う。」
これは、今の私に唯一ある――行動の理由だ。
「そうか...。ならば、そうだな......。床に手をつけろ。」
「............?」
床に......?
......この女の意図は分からないが、とりあえず従おう。
身を屈ませ、橋へと手をつけた。
「ん?何してんの?...あっ、土下座ってやつ?あははっ、フォーラ趣味わるぅわぁぁぁっっ!!!?」
じゃぼーーん!
オセルヴァはフォーラに蹴り飛ばされ、水に落ちた。
「ぷはっ...!ちょっと、何すんの!?」
フォーラの方は、落ちていったオセルヴァを一瞥することも無く、腰に刺さった長い棒......いや、刃物を引き抜いた。
「今からこの剣でお前の手を貫く。」
......?......それに何か意味があるのだろうか...?
「え...?ホントに何してんの...?」
「従うというのならば、そこを動かず抵抗をするな。」
......試されているということか?
「......わかった。」
フォーラが刃物...剣を、私の右手の上に切先を向けて掲げる。
「本当にいいんだな...?」
「......必要であるなら。」
「そうだな...。これは――」
剣が落ち――
「――必要だッ!!」
――私の手に突き刺さる...!
「――――ッ......!!!」
鋭い痛みが私の手を灼いた――
「......っ...はぁっ......はぁっ.........」
「......本当に抵抗をする気は無いようだな。」
...呼吸が荒くなり......視界が霞む......
ズシュッ
「......ぅぐッ.........!」
手から剣が引き抜かれ、血が溢れる。
「............おい、立てるか。」
「............っ」
...力の入らない右手を使わず、立ち上がる。
「......ついて来い。」
そう言い、振り返って歩き出したフォーラの後に続いた。
「.....................こっわ......。...あ、てか置いてかないでよ!」