#7「整理」
あれから、セツナも交えオセルヴァから様々な知識を得た。
まずこの世界というものは、この海によって繋がっており、いくつもの陸地で人が生活しているらしい。
私が今まで生きていたあの場所もそんな陸地の一部でしかなく、他の陸地と比べればすごく小さいものだという。
...正直なところ話のスケール感が掴めず、いまいちこの世界の広さというものに実感が湧かないが、すごく広いということだけは確かなのだろう。
そして、空。
この上に広がる空という空間は、時間によって色とその様相を変えるようで、今は赤色となり暗くなり始めている。
私がこの船で目を覚ましてから、すでに何度も空の様子は入れ替わっており、明るい朝と暗い夜を繰り返すことこそ一日の周期なのだと教えられた。
あの下層では電気の光が多い時間が朝だと認識していたが、きっとそういうものなのだろう。
「お、オセちゃん...!魔獣、接近中です!」
「ほいほい〜」
操縦室のセツナの上げた声に応えたオセルヴァが、船の先で機械を触り始める。
あの機械はオセルヴァの力を船の周りに展開できるらしく、オセルヴァが触れると黒い膜の様なものが船を覆った。
この黒い膜は、海に漂っている魔獣という生き物を避けることが出来るらしく、セツナが魔獣の接近に気づく度に展開されている。
...あの黒い力はルファロスが見せたものと同じらしいが、詳しいことは話せないらしい。
......それにしても、この魔獣という生き物は一体なんなのだろうか...。
水の中を泳ぐ魚と違い、この生き物はただ浮いているように見える。
......そもそも泳ぐということが出来ないのか...?
この生き物たちの形状は一定ではないが、魚の見た目とかけ離れているものが殆どだ。
......セツナによれば、一応意思を持って進んでいるそうだが...。
...そして、それを可能にしているのはオーラの力だという。
オーラの力というものはどの生物も潜在的に持っているもので、その能力によって7色の種類に分けらるのだと教えられた。
このオーラの種類は扱う者によって得意とするものが違うらしく、私がオーラの力を"圧縮"し刃の形へ"造形"したのは、それぞれ<強靭>のオーラと<叡智>のオーラが得意とする形質変化...というものらしい。
...形質変化はあくまでオーラを扱う技術のようなもので、その能力の本質ではないらしく、私が扱ったものの中では、果物を"再生"させていた力......あれが<命脈>のオーラの能力に当てはまるのだそうだ。
セツナが魔獣の接近にいち早く気づくことが出来るのも、<叡智>のオーラの"知覚"の能力によるものだという。
...とりあえずこの辺りは理解できたが、正直ややこしかったので全てを把握できている気はしない。
「お、せっちゃん!あっちにデカい魔獣いるよ!」
「え...?......あー、あれは魔獣じゃありません。クジラっていう普通の生物ですね。」
「あれ、魔獣じゃないの!?」
オセルヴァが何やら騒いでいる視線の先を見ると、かなり離れた距離に何かがいるのが見えた。
確かに、ここからでも姿をハッキリ確認が出来るあたり、相当に大きい生物のようだ。
「ねえ、アレもっと近くで見れない?」
「あー...ごめんなさい。それは出来ないんですよね...。」
「そなの?」
「はい...。あのクジラはゲブラー大陸へ近づきすぎないようにする目安なので......。」
「あぁ、なるほどね。」
話の内容的に、あのクジラと呼ばれる生物がいる先には陸地があるということだろうか。
どうやらその陸地は目的地ではないようだが。
......目的地の名前は、確かイェソド大陸。
この船は、まずそこに向かっているらしい。
そしてオセルヴァの話では、私の目的地はそこからさらに北という方角に向かったところにある、マルクト大陸というところだそう。
その大陸で私は、なにかを見つけて来ることを求められている様なのだが、具体的なことの説明はされなかった。
...とにかくオセルヴァとしては、私をそのマルクト大陸へ送り込むことが出来ればいいらしく、詳しい話はイェソドに着いてから仲間に聞いてくれと言われてしまった。
......おそらく、あの男自身よく分かっていないということなのだろう。
まあなんであれ、私は求められたことをするだけだ。
......私は、そのためにここにいるのだから。
「............。」
空が本格的に暗くなって来た。
周りが暗くなると、退屈凌ぎに外を眺めることも出来なくなる。
......今日ももう寝よう。
私は船の中にある部屋に戻ることにした。