#6「世界」
.........。
目が覚めたら知らない天井が目に入った。
...ここは...?
視界の明るさだけでいつもの場所ではないと分かるが、それ以上にこの場所、揺れて......?
...そもそも、私はさっきまで......。
一番新しい記憶を辿る。
......そうだ。あのオセルヴァという男、アイツに着いていって......
上層でのやり取りを思い出す。
ルファロスに名乗り......?
そこから記憶が途切れている。
......どういうことだ...?まさか、この記憶は...夢?
もう一度、視界を意識する。
...いや、そうなるとこの場所の説明がつかない。
少なくとも、この記憶は現実だと思っていいはず...。
とにかく......
体を起こし、周囲を確認しようと――
ガチャ
――移した視界の先にあった扉が開く。
「お、起きてるじゃーん!」
扉から姿を現したのは、オセルヴァだった。
...やはり、私の記憶は現実で起こったことで間違いない。
「ナギちゃん、気分はどう?」
オセルヴァに問われる。
...私の体調のことか......。
「...問題ない。......ここはどこだ?」
答えると同時に、一番の疑問を問い返す。
...私はルファロスに「従う」と言った。そして、あの男は「我らのために動いてもらおう」と。
あの言葉だけでは私が起こすべき行動の内容は分からないが、今いるこの場所が何か関わっているはずだ。
「うんうん。気になるよね。......ちょっと待ってね、ルファロスのメモで説明するから。」
そう言うとオセルヴァは懐から紙を取り出し、広げた。
「...えっと。まずー、...ナギちゃんへの命っていうのがー...北極に行くことでー......そのためにイェソドに向かう必要があってー......あ、で、北極の...えっと、マルクトに行って......で、そう!そこにあるはずのなにか!それを見つけてくるのがナギちゃんの使命でーす!」
............?
...いまいち要領を得なかったが、今のは私に対する命の説明...ということでいいのだろう。
だが......
「......ここはどこだ?」
肝心の質問の答えが返ってきていない。
「ん?......あ、言ってないね、俺。」
.........。
「ふふふ、聞いて驚け...!ここは、なんと!――海の上!!」
――海――?
.........確か......世界に無限に広がる水...とかいう、あの......?
昔、孤児院で話を聞いたことがあったはずだ...。
だが、まさか本当に現実にそんなものが......?
「あれ?...あんま驚いてない感じ?」
オセルヴァが私の顔を覗き込む。
「......あ、下層の人たちは見たことないんだっけ。...とりあえず外に行こうよ。見れば分かるからさ!」
そう言って、オセルヴァは扉の方へと戻っていく。
外...。その扉の先に海が......?
...現状を把握するためにも今は動くべきだろう。
そう思い、先ほどまで横たわっていた場所...ベッドの上から降り、オセルヴァに着いていく。
扉を抜けた先の階段を上がると――
――そこには、青の世界が広がっていた。
視界の真ん中で切り分けられた、明るい青と暗い青。ただただ広がる一面の青に、唖然とする。
...下が海...?上は......
明るい青が広がる方を見上げる。
「――あれは.........」
視線を真上に移すと......色のついた線...が、真っ直ぐと伸びていた。
...色は1色じゃない.........7...?
「あー、そうだよね、あんな場所にずっといたなら空も見たことないよね。」
オセルヴァが口を開く。
「えーと、下に広がってる水が、海。上に広がってる......うーん、なんていうの?空気?...が空。それで――」
頭上の線に指が指された。
「――あれが、虹――。」
――海に、空に――虹......。
単語自体は、どれも初めて聞くものじゃない。
しかし、直接見たことなど......そもそも、実在するものであるということすら知らなかったものだ...。
「どう?驚いた?」
「...............あぁ...。」
「えぇー?ホントに驚いてるー?......あ!驚いて声も出ないってやつかぁ!」
...何か勝手に納得したようだが、驚いたのは事実だ。
......あの暗い世界しか知らなかった私には...この眩しい世界はあまりにも――
「オセルヴァ様!ナギさん、お目覚めになられたんですね...!」
後方から声が降り注ぐ。
「お、せっちゃん!」
声の主、「せっちゃん」と呼ばれた少女は、この......海の上の地面...?の脇にある階段を降りて、こちらへやって来る。
「初めてまして、ナギさん。わたし、この船の操縦を任されているセツナっていいます。...イェソド大陸までは、わたしが責任持ってお送りするので安心して下さいね。」
そう言う少女、セツナは私へ笑顔を向ける。
「.........。」
...人に笑顔を向けられるというのも久しく経験の無かったことだが...今のは......
「......えっと、ナギさん...?」
「あー、せっちゃん。ナギちゃん無口だから、全然喋んないんだよー。俺が数時間喋ってても、一言も喋ってくれなかったし。」
「え...そんなに...。」
...そういえば、オセルヴァに着いていった時なにか話していたな...。途中から意識すらしていなかったが、ずっと何か話していたのか...?
「......あ、えっと、とにかく、挨拶も済んだのでわたしは操縦席に戻りますね。...オセルヴァ様も、何かあればいつでも言って下さい。精一杯、お勤め頑張りますので!」
「うん、おっけー。...あ、早速一個いいかな?」
「...はい!なんでしょう?」
「せっかくしばらく一緒なんだから、様付けはやめてさ、もっと仲良くいこうよ!俺のことは『オセちゃん』って呼んでくれいいからさ!」
「.........ぇ、えぇ!?恐れ多いですよー!」
「いやいや、気にしないでよ。下層の街でこんな風に呼び合ってる子供たちいてさー、なんか良いなーって思っただけだからさ。気軽に、ね?」
「...え、えぇ...?じゃ、じゃあ......オセ、ちゃん.........?」
「うんうん!やっぱ、なんか良いね!...あ、もちろんナギちゃんも呼んでくれてオッケーだからね!」
......今の会話...セツナは終始笑顔でいたが...どこか違和感を感じた...。
いや、違和感というよりは...既視感......?
「あ、やっぱ無視?」