#4「天上」
「.........。」
この男に連れられ、どれくらい時間が経っただろう。
先ほどは「ゴールが近い」などと言っていたが、あれからかなり時間が経過している。
...しかも、その間私たちは椅子に座っているだけで動いていない。
いや正確には、私たちがいるこの場所自体が移動しているのだが......。
「お、また外の景色だ〜。ずっと見れるようにしてくれればいいのにね?」
男の視線の先...窓の外には異様な景色が広がっている。
その景色には、無数の円柱が隙間を埋めるように立ち並んでおり、この空間が進むにつれてその円柱が高くなっているようだった。高くなっているといっても、一番近い円柱はすでにこの空間の窓からでは頂上を見ることが出来ないほど高い位置になっているため、ここしばらくの高さの変動は確認できていないが。
そして、円柱同士を繋ぐ...パイプのようなもの。これもまた無数に存在しており、おそらく私たちがいるこのカプセル状の空間が通る道になっているのだと思う。遠目ではあったが、同じカプセル状の物体がパイプを通るのを何度か見た。
「あ...、また終わっちゃったよ。」
外の景色が途切れ、窓からは無機質な鉄の壁が見えるのみとなる。
パイプは、透明になっている部分と鉄で覆われている部分があり、そこを進み続けているため何度も景色が切り替わっている。
「でもそろそろかな上まで。」
...男の言葉から察するに、ようやく目的地へ辿り着きそうなのだろうか。
このカプセルは、景色が見える時こそほぼ水平の移動をしているようだったが、今も含めて上昇していると感じる時間のほうが長い。
......いったい、どこまで......。
―――。
「んんーっ...。やっとついたぁ。」
カプセルが完全に停止し、私たちは外に出る。
......ここは...。
パイプを通っていた時に見た、無機質な壁と同様なもので区切られた部屋、それがこの場所だった。
「ふふん。ようこそ、俺たちのエデンへ。...ささ、着いてきて!」
楽しげに進み始める男が、部屋の扉を開けて進み始めたので、それに着いていく。
...「エデン」とはこの場所のことだろうか。
私が住んでいたあの場所が、この世界の最下層に位置するということは聞いたことがあったが......この「エデン」という場所に至るまでの上昇...ここまで高く世界が広がっているのだとは思わなかった。
コンコンコンコン
「ルファロスー。入っていーい?」
しばらく何もない通路を進み続けていたが、壁に扉が並び始めるようになってきたところで、男はそのうちの一つの前で止まった。
「.........入れ。」
男のノックを受け、中からは低い声の返事が返ってくる。
ガチャ
「お邪魔しまーす!」
「......予定のないエレベーターの使用は貴様か。...いったい、何をしに来た?オセルヴァ。」
扉を開けた部屋の奥には、いくつもの紙の束が重なる机とそこの前に立つ長身の男がいた。ルファロスというのはこの男のことだろう。
そして、今出た名前......どうやら私をここまで連れて来たこの男の名前は、オセルヴァというらしい。
「それがさー、実は俺たちの仲間を見つけちゃってね...!俺もカイムネラみたいに勧誘してきたんだよ!」
「......仲間?......まさかとは思うが、その娘のことではあるまいな...?」
ルファロスが私に視線を向ける。
「もちろん!じゃなきゃ連れて来ないって。」
「............。...何をもってそう思った?」
「あ、うん!聞いてよ!この子さー、すっごい下の方にいたんだけど、人を殺す危ないヤツがいるって噂になっててさー。それでさー、しばらく観察してたんだけど、今日ついにヤったんだよねぇー。話しかけてきただけの男を、スパッと!」
「......それで?」
「...え?いや、これで終わりだよ?あんな躊躇いなく急に人を殺すんだから、俺の時みたいに迷い込んだヤツかと思ったんだけど......」
「............。」
「......もしかして...違う?」
「ハァ............。貴様が馬鹿なことは知っていたが...これほどとは...。......いや、放任した私の責任だな。」
「え!?ホントに違うの!?あー!ゴメン!怒らないでー!」
「貴様への叱責は後だ。」
オセルヴァとのやりとりを中断したルファロスが私に向かって歩いて――
「―――ッ!?」
突然、私の首を掴む――。
「――まずは、この娘を殺す。」