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第一章 出会い その1

1‐1 リョウタ


 事務所は大都会の真ん中にある。渋谷区と新宿区の一部、それが僕らの事務所の管轄内だ。

 事務所に向かう駅の乗り換えでは、一応耳を澄ます。人の多い場所では、モンスターがでる可能性が高くなるからだ。

 モンスターはふつう見えない。もちろん自分にも見えない。でも狙われる人には見えるのだ。ハンターである僕らにとって、こちらに存在が見えないのは問題だ。こっちを狙ってくるように仕向けるか、それか、ひとを取り込んだ時の数秒間だけ、自分のような者にも見ることができるようになる。その時を、僕らは逃さないようにするしかない。

 モンスターに狙われるには条件がある。モンスターは心が弱くなっているところを狙うのだ。悲しみを抱えていたり、ひどく落ち込んだりしていると狙われてしまう。狙われる前に、モンスターは見えるようになるらしい。自分にはなったことがないからわからないが。だから、狙われている人を見つけたら、寄り添って大丈夫、と励ますことも大切だ。うまくいかないことも、もちろんあるのだけど。


 アキラさんはずっと、国民にモンスターの存在を知らせよう、と言ってきた。万一の時みんなが身を守れるようになれば、それは良いことだ、と。しかし上の方は、国民がモンスターを怖がって経済が回らなくなるのを恐れているみたいだ。みんなが怖がって外出しなくなったり、どこにでたという情報が出回って風評被害が起きたり、そういうことを避けたいのだろうか。数少ないハンターが地道にモンスターを倒していくのと、国民に知らせてパニック状態になるのとでは、どちらがいいのかリョウタには分からない。国はとにかく、ソーシャルメディアなどでモンスターの情報が広がらないように奔走している。


 地下鉄の乗り換えはなんせ人が多い。この駅が何路線も抱える、日本有数の大きな駅、というのもあるけれども。それぞれの人が目的をもっていろんな方向に進んでいく。そこをすり抜けてゆっくり進む。まだ任務時間外だけど、一応目と耳を澄ます。


ハァ…ハァ……ハァ…。


荒めの息遣いのようなものが聞こえてきた。嫌な予感がする。


ハァ…ハァ…。


何かを怖がっているような、自分を落ち着かせているような。

誰かに、モンスターが見えている。そう直感する。そう、今は任務時間外で、ひとりだけど、でも見て見ぬふりはできない。助けなくては。鞄の中に武器があることだけは幸いだ。モンスターは単独行動をするし、なんとかなるかも、とリョウタは考えた。

息遣いの方へ向かう。


地下道を素早く進んでいくと、道の端にしゃがんでいる若い女性が見えた。スカートが床に着くのも構わず一点を見つめている。あの子だ、そう感じた。

走って行って近づく。女性は自分には気づいていないようだった。

「ねぇ」

隣にしゃがみ込み、声をかけた。

 彼女はびっくりしたようで、飛び上がった。恐怖の目が、ある一点から離れ、こっちを見る。

「あれが、見えるんだね」

リョウタは確認するように言った。

え?と驚いた顔をしながらも、すがるような目線に変わった。

「あなたも…?見えるの…?」

女性が聞いてきた。さっき彼女が見ていた先を凝視する。申し訳ないけど、やっぱり見えない。

「ううん。見えない。でも、存在は知っている。」

落ち着かせようと思ってゆっくり話をした。

ハァ…、彼女はそうため息をついて、さらに体勢を崩し、手を床に付いた。もう、モンスターは見たくない、というように目線が下を向いた。

「大丈夫。落ち着いて。気をしっかり持てば、大丈夫だから」

「大丈夫ってどういうこと?」

弱弱しく女性が聞いてきた。背中をさすってあげる。

「あれが、見えなくなるってことだよ」

まさか、あなたはモンスターに取り込まれそうになっているんだ、なんて言えない。そう考えてリョウタは言った。

「深呼吸して。落ち着いて。息を吐くことを意識するんだ」

ふー、ふーと女性がゆっくり深呼吸した。少し落ち着いてきたように見える。

「まだ見える?」

そう聞いてみる。

 女性は決心したように、でもまだ怖がりながらもモンスターがいるであろう場所に目を向けた。

 そして息をのんだ。

「まだ…、見える…」

さらに小さい声で女性が言った。

「どんな姿をしているか、教えてもらえる?」

今回のモンスターはどんな奴だろうと思って問いかけた。

「姿は、知らないの?」

彼女が言う。目はモンスターにくぎ付けのままだ。顔をしかめる。

「うん。教えてもらえる?」

これじゃあ疑われるな、と思って付け加える。彼女の力になりたかった。

「そいつを倒しに来たんだ。僕、ハンターをしてるんだ」

そう言って武器を鞄から出した。今、空気砲を持っていないことが残念だ。狙いをこっちに変えられるかもしれないのに、これからは持ち歩くことにしよう、と決意する。

 彼女は、少しは信用してくれたのかもしれない。教えてくれた。

「蛇よ。蛇みたいな感じ。周りに黒い煙が見える…。」

蛇か…。蛇は瞬発力をもっていきなり飛び掛かってくる。それも、上から。これは厳しいかもしれない。そう思いながら見えない敵と対峙し、女性の前に立ちはだかった。でも目線は彼女だ。表情を見ないといつ飛び掛かってくるかわからない。

「ねぇ、シャーシャー言ってる」

後ろから怖がって女性が言った。

「威嚇してるんだ」

「ハッ」

彼女の顔がゆがんだ。その瞬間、大蛇が後ろに現れた。

周りから、キャーという声が響く。少しの間だけ、普通の人にも大蛇が見えるのだ。

あぁ、ダメだったと思いながら武器の剣を突き刺そうとした。その時、横から走ってきた男に押されて倒された。

何?と見上げると押し倒してきた男は竹さんだった。

「竹さん!」

何でここにいるの?と思いながらも叫ぶ。

 竹さんが大蛇を突き刺しながら、女性を引っ張り出した。そんなことができるなんて、と驚く。

 一瞬強い風が吹き抜け、大蛇が消えた。

 女性は気を失っているようだった。彼女をその場に寝かせると、後は頼む、と言って竹さんはさっと立ち去ってしまった。



1‐2 竹さん


 駅地下を歩きながら竹田は考えていた。

 みんな「竹さん」と自分のことを呼んでくれていたが、本名は竹田吾郎という。

「竹さん」と親しみを込めて自分を読んでくれ始めたのは、アキラ君だったか。長い間、アキラ君とはハンターとして組んでいて、本当にお世話になった。引退してからも、気にかけていない、といえば噓になる。

 あることがきっかけで、モンスターが見えるようになってから、ハンターは引退した。というか、ハンターとして組織に所属しているのをやめたのだ。なんせ自分のようなハンターが、モンスターに取り込まれてしまってはどうなってしまうかわからないし、今までの仲間にも迷惑をかける。

 だから今は、単独行動をしている。普段はそんなに人のいない、山奥でひっそりと暮らしているが、たまにこうして人の多い場所に出てきては、モンスターがいないか探している。それにここは、アキラ君の管轄内のはずだ。いつもより、より一層気合が入ってしまうというもの。


 モンスターが見えるようになって感じるのは、目で探せるというのはとても楽になった、ということだ。見えない頃は、モンスターが見えてしまっている人の声を追って、彼なり彼女なりを特定するところから始まっていた。そのあとも彼らの目線を追うとか、運よくハンターを狙ってくれて見えるようになるのを待つとか、とにかくまどろっこしかった。

 モンスターは人に見えないことをいいことに、おそらく他の動物にも見えていないと思うが、とにかく大きいのだ。大きな大仏まではいかなくとも、2階部分には届いているという身長で、だいたい4m、5m以上はあるのではないかと思う。そんな存在がいたら、すぐに目につくものだ。色もどす黒く、周りには特徴的な煙のような黒いオーラを放っている。遠くからでも見えるようになった、これがハンターにとってとても楽になったことだった。


 歩いていたら100mくらい先に黒い大きなものが見えた。黒っぽい煙も立ち上っているように見える。モンスターだ。大蛇のモンスターがいた。今日は全然悪い予感はしていなかったが、ひとが多いところには、モンスターも来てしまうのだということを改めて感じた。

 急いでモンスターがいる方へ向かう。走っていくと狙われている女の子が見えてきた。隣にいるのは、リョウタか?と思う。まさか他のハンターと出くわすなんて思っていなかったけれど、会ってしまったものはしょうがない。


リョウタが女の子の前に立ちはだかるのが見えた。大蛇はシャーシャーと威嚇をしている。蛇は飛び掛かってくるものだ。リョウタを飛び越えて、女の子を狙えてしまうだろうなと思った。間に合え!と思いながら、ひとを避け走る。

 リョウタは女の子の顔を見ながら、襲ってくる時を見極めようとしているようだった。やはり見えていないと攻撃の時を見極めるのは難しい。アルミの剣が見えた。

 リョウタを避け、軽々と大蛇が上から女の子を襲うのが見えた。モンスターの動きは素早いが、ハンターは訓練を受け動体視力がいいので見えるのだ。

モンスターがひとを取り込んでから少しの間だけ、モンスターと外界との間に隙間があることを竹田は知っていた。いつもモンスターが見える、そんな自分の目しか見えないところだ。まだ取り込まれた直後なら、助けられる。

 女の子が飲み飲まれてから、初めてリョウタは大蛇を認識したようだった。剣を突き刺そうとしているところを押し倒す。

下から、驚いたリョウタの「竹さん!」という声を聴きながら、大蛇を突き刺す。そして隙間から手を伸ばし女の子を引っ張り出した。

パッと大蛇が消える。倒せたようだ。良かった。気を失っている彼女を床に寝かせ、話しかけられる前にここを離れなくては、と思う。

「後は頼む」

とリョウタに声をかけ、そそくさとその場を立ち去った。





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