表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/267

届かぬ想いに、触れた朝

「この髪飾り、どう思う?」


風は冷たく、木の葉は色を失いはじめている。

冬が、もうそこまで来ていた。


冬の気配が忍び寄る中庭で、ユウがふいに口を開いた。



東屋の中、彼女はシュリの隣に腰を下ろしている。


長い金の髪に、青く光る鉱石の髪飾りが揺れていた。


ゴロクが買い求めたものだ。


ーー誰のためにこの飾りをつけているのか、自分でもよくわからない、

ただ、シュリが見てくれると嬉しい。


そんな密やかな想いがユウにはあった。


けれど、その想いに反して、シュリの反応は淡々としていた。


「・・・はい」


シュリはその髪飾りに視線を落とし、そう答えるだけだった。


「それだけ?」


ーーもっと他に何か言えないの? 


そんな気持ちでユウがシュリの顔を覗き込むと、息を呑んだ。


シュリの茶色の瞳が、まっすぐにユウを見つめていたのだ。


その視線は、言葉ではなく、

まるで「きれい」を百回繰り返しているかのようだった。


ユウは慌てて目をそらした。頬だけでなく、耳まで熱くなるのを止められない。


「・・・シュリ、手を出して」


ごまかすように、少しぶっきらぼうに言う。


シュリは戸惑いながらも、素直に手を差し出した。


その手に、ユウがそっと触れる。


指先が触れた瞬間、シュリの肩がぴくりと震えた。


ユウはそれに気づかぬふりをして、静かにクリームを塗り込んでいく。


風の音。


木々の揺れる音。


ふたりの間に言葉はなかったが、

互いの鼓動の高鳴りだけが、静かに重なり合っていた。



木々の影がふたりを包み、世界から切り離されたように静かだった。


エマは目を細め、そっと手を胸に当てた。


ーーこのままでは、いけない。


二人は、もう、子どもではなくなろうとしている。


ユウが傷つく前に。

シュリが、後戻りできなくなる前に。


「・・・これは、私が忠告しなければ」


エマは小さく息を吐き、窓辺から身を引いた。


窓の外には、手の届きそうに見えて、決して届かない初恋が揺れていた。



その日の夕方、エマはシュリを一人だけ呼び出した。


場所は裏庭の小道。


「・・・あの、お呼びでしょうか」


シュリは不安そうな顔をしている。


エマは静かに、優しく口を開いた。


「シュリ。あなたを疑うわけではありません。ただ・・・伝えておきたいことがあります」


シュリは、まっすぐにエマを見る。


「ユウ様は、あなたに心を開いている。とても、深く」


「・・・はい」


「その気持ちは、姉妹でも母親でも受け止めきれないものかもしれない。

でも、それを一身に背負うのは、あなたにとっても危ういことよ」


「・・・わかっています。けれど……」


「けれど?」


「放っておけないんです。ユウ様の顔が・・・あまりにも苦しそうで」


シュリの目が揺れる。


「・・・私に、できることがあるなら、してあげたいんです」


エマはその言葉に目を伏せた。


その気持ちが嘘ではないことは、よく分かる。


「ありがとう。あなたの優しさは、シリ様にも届いているわ。

でも、ひとつだけ――忘れないで」


「?」


「あなたは使用人であり、ユウ様は姫。

その立場の違いを、ユウ様が忘れたとき、一番傷つくのは、あなたよ」


シュリははっとして、小さくうなずいた。


ーーもし、シュリが乳母子ではなかったら。


そんな夢のようなことを思ってしまった。


ーーきっと、お似合いの二人だっただろう。


まるで、まるでグユウとシリのように。


ふっと湧き上がった感情に蓋をして、エマは微笑んだ。


それは母のような、どこか切ない微笑みだった。


シュリはただ、静かにうなずいた。


エマの言葉は、正しかった。

ユウ様のためにも、自分のためにも、線を引かねばならない。


けれど――


距離を置けば、心は離れないままでいられるのだろうか。


風が吹いた。

木々の梢が揺れ、淡く色づいた葉がひとつ、足元に落ちる。


それを拾おうとして、シュリはふと立ち止まった。


胸の奥に、形のない痛みが残っていた。


それはきっと、名前をつけてはいけないもの――。


ーー次回 明日は2回更新します。

その瞳に、触れたくなるほど惹かれてしまう――。でも、惚れても無駄よ。だって、あの子は『領主の娘』だから

明日の9時20分 触れてはいけない


===================

この物語は続編です。前編はこちら ▶︎ https://ncode.syosetu.com/n2799jo/


おかげさまで累計10万6千PV突破!

兄の命で政略結婚させられた姫・シリと、無愛想な夫・グユウ。

すれ違いから始まったふたりの関係は、やがて切なくも温かな愛へと変わっていく――

そんな物語です。

===================



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ