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裏切り者の長男の末路

残酷な表現があります。苦手な方はご遠慮ください

「なぜ、シンを殺したのですか!」


シリは声を詰まらせながら叫んだ。


その瞬間、カーテンの影に身を潜めていたユウとシュリは息を呑む。


――シンが、兄が殺された?


耳を疑いたくなる言葉に、心臓が強く脈打つ。


しかし、ゼンシは眉一つ動かさず、淡々と答えた。


「セン家の跡取りだ。生かしておけば厄介だ。殺すのは当然だろう。シリ、お前なら理解しているはずだ」


「・・・あの子は、私が赤ん坊の頃から育てたのです。それを・・・!」


怒りで声がかすれる。


ーー理解していた。


敗戦した領主の息子が殺されるのは常。

だが、納得などできるはずもなかった。



「・・・どうして、串刺しにまで・・・」

シリは声を絞り出すように問うた。


「たった5歳の子を、公衆の面前で・・・!」


怒りが、理性を焼き尽くした。


「兄上ですか! キヨにやらせたのは!」


掴みかからんとするシリを、エマが必死に抑える。


感情があふれ出して、もはや自分を制御できない。


「誰か、助けてください!」


エマの叫びに、廊下の家臣たちが駆け寄ってくる。


「セン家の跡取りだ。生かしておけば厄介だ」


一瞬の沈黙。


「殺すのは当然だろう」


「当然?」

シリが怒りで震えた声で質問をした。


「裏切り者の長男の末路がどうなるか、世に示す必要がある」

ゼンシはあくまで冷静だった。


「そんな・・・あんまりです! あんまりだわ・・・!」


シリの青い瞳が怒りに燃える。


ーーどれほど怖かったか。

どれほど痛かったか。


シンの顔を思い浮かべるだけで、胸が裂けそうだった。


ゼンシに飛びかかろうとするシリを、家臣たちが三人がかりで抑える。


「残酷な死が、反乱を防ぐ。それが現実だ」


「違うわ! 残酷なことをする者こそ、いつか裏切られるのよ!」


シリの叫びにも、ゼンシは表情一つ変えず、皆に向かって言い放つ。


「聞け。領主が敗れれば、こうなる。妻や子を泣かせぬよう、勝て。負けた者には、何も残らん」


そして、タダシとマサシを見つめる。


続けて、カーテンの方――ユウとシュリが潜んでいる場所に視線を向けた。


ーー気づかれている。


ユウとシュリは息をひそめた。


「領主に嫁いだ娘は、夫を勝たせよ。さもなくば、シリのようになる」


カーテンを射抜くような視線ののち、ゼンシは再びシリへ向き直る。


粗末な黒い服、左手の薬指に光る指輪。

怒りと悲しみに満ちた青い瞳を見つめて言った。


「シリ、お前は25だ。しかも、わしと同じ母を持つ。お前の身体も命も、モザ家のものだ」


シリは唇を強く噛み締める。


彼女も、子どもたちも、ゼンシの庇護下にある――それが現実だった。


「新しい嫁ぎ先を探す。グユウのことなど忘れろ。いつまでも死んだ男に囚われていては、次の家の迷惑だ」


そう言い残して、ゼンシは図書室を大股で去っていった。


二人の息子は、名残惜しそうにシリを振り返りながらも、父に従って去っていく。


シリはその場に崩れ落ち、泣きじゃくった。


「シリ様・・・」

エマは胸を締めつけられながらも、言葉を失った。


「たった5歳なのに・・・」


シリの声が震える。


「セン家の長男だった、ただそれだけで、こんな残酷な・・・!」


泣き叫ぶシリを、エマと家臣たちが抱きかかえ、部屋へと運んでいった。


静寂が戻った図書室。


ユウは小刻みに震えていた。


――シンが殺された。


公衆の面前で、串刺しに。


どれほど痛かっただろう。


どれほど怖かっただろう。


顔を上げると、隣のシュリは声も出さずに涙を流していた。


彼は、シンと共に育った乳母子だった。


一緒に遊び、稽古をし、虫を捕まえ、こっそり蜂蜜を舐めた。


「シュリがいないと、夜は怖くて眠れない」


そんなふうに、いつも自分の布団に潜り込んできた、あの温もりが――


いつも、そばにいた――なのに、ある日突然、いなくなった。


遠くに逃がしたと聞いた。


また会えると信じていたのに。


――もう、二度と会えない。


「シュリ・・・」


ユウが悲しげに彼の瞳を見つめた。


引き裂かれるようなこの痛みは、きっとシュリも同じだ。


ユウは、そっと彼の肩に触れた。


その瞬間、二人の中で堰を切ったように涙があふれる。


声を上げて泣いた。


黒い瞳で輝きながら、笑い、甘え、弟妹を可愛がっていたシン。


共に過ごし、ずっと一緒にいられると思っていた――。


「帰りたい・・・レーク城に帰りたい・・・」


ユウは泣きながら、シュリにしがみついた。


優しい父、微笑む母、暖炉のそばの団欒。

父の膝を取り合った、あの時間。


当たり前だった幸せは、一瞬で崩れた。


――もう、戻れない。


幼いふたりには、あまりにも過酷な現実だった。

次回ーー明日の9時20分


愛する者を喪い、なお立ち上がるシリ。

祝勝会の夜、彼女を待つのは祝福か、それとも新たな試練か。

輝きの裏に、ゼンシの影が忍び寄る――。


子供達のために


このお話の前の話。

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寡黙で不器用なグユウと勝気な姫 シリが本当の夫婦になるストーリー


秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜


▶︎ https://ncode.syosetu.com/n2799jo/

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