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恋と謀反

「ユウ様 私がやります」

シュリの声音は焦りがこもっていた。


「大丈夫よ。私の方が腕が長いのよ」

ユウは挑戦的な目で、眼下にいるシュリに言い返した。


2人は中庭の外れにいた。


そこには大きなスモモの木が植えられている。


一足早く熟れたスモモを見つけたユウは木によじ登っていた。


木の下から、シュリがハラハラしながら見つめている。


ユウは幹に左手を絡め、右手を伸ばしてスモモを取ろうとしている。


スモモまで、あと少し。


無理をして腕を伸ばしたら、メキッと不吉な音がした。


ユウが足をかけている枝が重みで折れかかっている。


シュリは下草の茂みをかき分けて、ユウの足元に走り寄る。


枝が落れた瞬間、ユウは持ち前の反射能力を活かし、手近な枝につかまった。


「びっくりしたわ」

枝にぶら下りながら、ユウは目を大きく見開いた。


しかし、残念ながらつかまった枝は細いものだった。


ユウの重さに耐えきれず、その枝もメキッと不吉な音がした。


「ユウ様!私に捕まってください!!」

すぐ下でシュリが叫んだ。


ユウは、シュリの広げた腕にむかって飛び込んだ。


シュリは受け止めきれず、ユウと共に下草の茂みに転がった。


気がつくと、2人は折り重なるように下草の中に埋もれていた。


シュリの顔前に、ユウの美しい瞳と唇が見える。


思わず息を呑んだ。


不本意とはいえ、ユウを抱きしめてしまった。


身体が隙間なく密着している、その事実に気づき、一気に顔が赤くなった。


シュリは、慌てて身体を動かそうとしたが顔をしかめた。


あちこちが痛い。


「シュリ、大丈夫?」

ユウは心配そうにシンの顔を見つめる。


「だ・・・大丈夫です。ユウ様こそ・・・」


「私は平気よ」


その言葉にシュリは脱力する。


「良かった・・・」


あのまま、枝ごと落ちたら大怪我をしただろう。


少なくとも乳母子の責務は全うしたのだ。


ユウはジッとシュリの顔を見つめた。


「どうしたのですか・・・」


シュリが目を合わせると、2人は吸い込まれるように、魅せられたようにお互いを見つめた。


心の奥にかかっていた薄絹の覆いが外されたような気がする。


身分、立場、しがらみ、そんなことが些細な事のように感じた。


「ゆ・・・ユウ様」


戸惑い、掠れた声を出すシュリに、ユウはもっと顔を近づけたくなった。


その茶色の瞳の奥をのぞいてみたい。


「シュリ・・・」


ユウの長い髪がカーテンのように、シュリの顔の周りを覆う。


人を惹きつける青い瞳が近づいてくる。


シュリは喉がカラカラになった。


物心がついた時から、目の前の少女と共に過ごしていた。


こうして、間近で見ると本当に美しい少女だ。


負けない、曲げない、強い意志を持つ瞳、

そして、柔らかそうなピンク色の唇から目が離せない。


その柔らかそうな唇で、いつも澄んだ音を奏でていた。


その唇に触れたい。


唇と唇を合わせたら・・・どんな感じなのだろうか。


ユウが顔を近づけた時に、不謹慎なことは止めるべきだと思った。


思いながらも、気持ちは止められなかった。


ユウの顔が近くなりすぎて、焦点が合わなくなってきた。


吐息を唇に感じる。


唇と唇が触れるのは、あと僅か・・・


このまま・・・身を委ねよう。


そう思った瞬間、


「スモモの木が折れている!」

庭師の悲鳴のような声が聞こえたのだ。


その声に、ユウは弾かれたようにシュリから離れた。


シュリも慌てて起きあがった。


「スモモの木を登ろうとして落ちたの」

ユウは顎をあげて話す。


その話し方は、戦場で名誉な怪我をしたかのような言い方だった。


「ゆ・・・ユウ様?!」

庭師は慌てて平伏した。


こんな場所で姫に出会うなんて予想外だった。


「怪我人がいるの。部屋まで運んでくれる?」

ユウが命じた。


庭師に支えられて、シュリは起き上がった。


痛みは先ほどより感じない。


けれど、燃えるように頬が熱く、その顔をユウにみられたくなかった。


自分は乳母子だ。


ユウに触れたり、唇を寄せて良い人間ではないのだ。


自覚してしまった想いを、心の奥に沈めなくてはいけない。



「ユウ様!その格好!!」

エマが呆れたように叫ぶ。


城に戻ったユウの白いドレスは、土と緑色の草のシミがついており、

髪はボサボサで葉っぱが数枚ついている。


玄関に入った瞬間、乳母のエマ、ヨシノが2人の元に駆けつけた。



「何をしたの?」

階段を降りながら、シリが静かに聞いた。


「スモモを取ろうとして・・・木によじ登ったの」

ユウは決まりが悪そうに話す。


「木に!!登る!!」

エマは目をむいて喘いだ。


シュリの母である乳母のヨシノは、咎めるようにシュリを見た。


その目線を感じたユウは口を開いた。


「私が登ると言い出したの。シュリは反対したわ。

木から落ちた私を庇って、シュリは怪我をしたの。私が悪いの」


「ユウ」

シリが静かな声で名前を呼んだ。


「はい・・・」

ユウは肩をすくめた。


「シュリは大事な家臣です。今は滅びたけれど・・・大事なセン家の家臣です。

家臣の意見を聞かずに愚かな振る舞いをして、怪我をさせてはいけません」

シリの瞳は強い光を放っていた。


「はい・・・」

ユウは項垂れた。


「あなたはセン家の姫です。いざという時はセン家の名に恥じぬように振る舞いなさい」

幼い頃から何度も母から言われていた言葉が胸に響く。


「シリ様・・・」

エマは何か言いたくて仕方がない顔をした。


本来であれば、年頃の娘が木に登ることや、ドレスを汚したこと、

乳母子はいえ、異性と2人きりで過ごすことを咎めて欲しかったのだ。


シリの指導は、姫というより王子の教育に相応しい言葉だった。


けれど、神妙なユウの顔つきを見ると、

シリの指導は的確だと思わずにいられなかった。


その日の夜、ユウは夢見るような瞳で夜空を見上げ、ため息をついた。


シュリの茶色の瞳を思い出すと、どうしようもなく胸が苦しくなる。


知ってしまったのだ。


気づいてしまったのだ。


恋は不意に自分の生涯に現れるものではなく、

いつの間にか、自分の傍を静かに歩いていたことを。


・・・こんな事、妹達には言えない。


◇◇


首都ミヤビ ミンスタ領の定宿 ゼンシの寝室


眠っていたゼンシの瞼が開いた。


なにか・・・落ち着かない気配がする。


何度も命の危機を味わい、争いを繰り返していたので肌でわかる。


争い前の独特な雰囲気がするのだ。


ゼンシはガウンを羽織り、ドアを開けた。


窓の外を見ると、静かな空気がわずかに揺れている。


多くの兵が息を潜めている気配がする。


「謀反だ」

ゼンシがつぶやいた。


謀反とは家臣が領主を裏切り、兵を挙げることを指す。


ゼンシは近くにいる家臣を呼び寄せ、告げた。


「すぐにタダシを起こせ」



明日の20時20分 その優しさは…強さだ

時間を間違えました。待っていた皆様すみません

評価ポイントとブックマークありがとうございます。

これで頑張れますっっ

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