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兄の愛は毒のように

「立派なものです」

エマがほぅとため息をついた。


「ええ。いかがですか」

洋品店の店主は満足げに微笑む。



季節は巡り、2月になっていた。

穏やかな陽の光がシリの部屋に差し込んでいた。


その部屋には、ため息が出るほど美しいドレスの数々が並んでいる。


一流の職人が4ヶ月をかけて仕立てた、贅沢な衣装だ。


どのドレスもシリの指示通り、落ち着いた色だった。


許す限りのたくさんのタックやシャーリングがついており、

手の込んだ刺繍が施されている。


フリルが控えめなのは、長身のシリに似合わないと職人が判断したのだろう。


しかし、シリはそれらのドレスをちらりと眺めただけで、すぐに窓の外へ視線を移した。


「兄上にお礼を伝えておきます」

その目は窓の景色を見ているようで見ていない。

虚な目だった。


「シリ様、これを」

店主はテーブルに包みを置いた。


「なんですか」

シリは訝しげに包みを見つめる。


「こちらもゼンシ様からの指示で作りました」

店主が頭を下げる。


シリが包みを開かない限り、店主は頭を上げないだろう。


渋々、包みを開けると、固くて丈夫な生地が指に触れる。


「これは・・・!」

シリが驚きの声を上げると、店主が微笑む。


「乗馬服です」


シリは黙ったまま、紺色の乗馬服を見つめた。


「シリ様は乗馬がお好きなのですね」

店主の説明にシリは黙ってうなずく。


裏切った妹に破格の対応をしている。


そう思った。


ドレスはわかる。


シリに政治の駒になって欲しいからだ。


けれど、乗馬服を作らせたのはシリを喜ばせたいからに違いない。


店主が帰った後にシリはつぶやいた。


「兄は・・・何を考えているの?」


「シリ様を・・・不憫だと思っているのではないでしょうか」

エマが言いにくそうに話す。


「あの兄のことよ。油断はしないわ」

シリは頭を振りながら答えた。


嫁ぐ2日前に、実の妹を乱暴するような男なのだ。


常識の範囲に当てはまらない。


シリは乗馬服を膝に置いたまま、しばらく動けなかった。


――これは罠か、それとも・・・哀れみか。

答えの出ぬまま、陽はゆっくりと傾いてゆく。


その紺色の服は、まだ一度も袖を通されていなかった。


明日の更新は11時20分


雪に閉ざされたレーク城で、キヨは新たな城の設計図を広げていた。

豪華な妾部屋、そして第一夫人よりも広い「シリの部屋」。

狂気と妄執に満ちた未来図に、弟エルは凍りついた――


「新城の妄執とシリの部屋」


前作の小説を書いた裏話をエッセイで書きました。

「テンプレ?何それ?美味しいの?ライトノベルを一冊も読んだ事がないど素人が「小説家になろう」に飛び込んでしまった」 良かったらご覧ください。

日刊 エッセイ 連載ランキング1位になりました。

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