スペルブックを食べよう!
「ああ、偉大なる地母神よ、私をお守りください……っ!」
今日はマギさん直々の依頼で、古の地下図書館に本を取りに来た。
すっかりダンジョン化しているそこは、魔物が住まう危険地区。
本一つ、取りに行くにも冒険者を雇わなければいけない惨状だとか。
まぁ、ダンジョンとしては本棚ばかりが並び立つ、特に面白みのないものだけれども……。
なんかアコさんは怖がっていた。
俺の背後にぺったりとくっつき、物音にもいちいち怯えている。
ゾンビですら喰らう人なのに何が怖いんだ……?
「アコさん、そんなに何を怯えてるんだい」
「私、こういうなんか出そうな雰囲気が苦手なんですよっ!」
「ゾンビも平気なくせに……」
「ゾンビは私達の敵じゃありませんし……しかし未知の敵は危険です」
「未知の食材は危険じゃないの!?」
「あれは楽しみでしょう!?」
楽しみなのか……。
やはりアコさんはとんでもない。
ゴブリンとかちょっと毒入ってたのにな。
さて、目当ての本は、っと。
この欄にあると言われていたけれど。
本棚から本を取り出す。
すると他の本がひとりでに飛び出してきて……。
「わあっ!? 本が、本が飛んでる!?」
「す、スペルブックです!!」
ページを羽にして飛び、背表紙の先にくちばしがついている。
まるで鳥のようだ……いや、鳥なのか。
それも複数いる!!
「”震打”ッ!!」
アコさんが地面にメイスを打ち付けると、黒い稲妻が跳ね跳んだ。
その余波だろうか、次々とスペルブック達が地面に堕ちていく。
「次が来る前に逃げましょう!!」
しかし、今の衝撃で魔導書を落としてしまった。
えっと……どれだ……ええい、この辺の全部持っていくか!!
アコさんの言う通り、次のスペルブックが本棚からわらわらと出てきた。
このままだと襲われてしまう。さっさと逃げ出すか!
強力な魔法は回数が限られているからな……!
スペルブックが飛び交う中、俺達は地下図書館を急いで飛び出した。
外に出ると大学の中庭。こんなところにダンジョンなんか作んないで欲しいなぁ。
「なんでダンジョンにスペルブックなんているんだろう」
「本棚を巣にしているんです。食事は本を食べようとする虫なんかで、普段は休眠状態。ああやって巣が襲われた時に飛び出してくるんですよ。古い図書館に多い魔物ですよ」
「へぇ……!」
さて、回収した本は、っと。
4冊。あっ、3冊はスペルブックだな。
よくよく見ると、骨格や筋肉なんかがついている。面白いな……。
「あ、そうだ! このスペルブックを食べてみましょう!!」
「ええ!?」
「ダメでしょうか……?」
別に鳥っぽいから、抵抗感はないんだけど……。
そんなに食べる部位がなさそうだな。
いや!! ココは料理人の腕の見せ所だ!!
「やってみるよ」
まず背表紙とページを切り分け、くちばしもとっておく。
少ない身をしっかり細切れにしたら、それをフライパンに。
ショーユとオーシの実を入れ、炒める。
残ったページを丸めて具材を詰め、サクッとオリブ―の実の油で揚げれば……。
「完成!! スペルブックのペーパーロールサンドだ!!」
「わぁ、まるでおかずクレープみたいです!!」
たしかにおかずクレープみたいだけど、生地の部分は揚げてあるから割とサクサクしている。
うん、普通の鳥肉よりコリコリしているけれど、ちゃんと鳥の味だ!
ショーユのおかげでなんとも辛口で美味しい。
それにこころなしか、魔力が体内に溜まっていく感じがする。
やっぱりスペルブックという名称は伊達じゃないな。
羽に書かれていたっぽい文章はただの擬態だったけれど……。
「おまえたち、何をしてるんだ……」
見かねたであろうマギさんが寄ってきた。
そういえば中庭で火なんて起こしたから人が集まってきているな。
まぁ、いい匂いもするからね。
しかしこちらを警戒してか、建物の外にまでは出てこない。
「なにってスペルブックを食べてるんだけど」
「そういうのはせめて、厨房でやりたまえよ!? 中庭で火を起こすな!!」
「美味しいですよ、ひとくち食べてみては?」
そう言ってアコさんにペーパーロールサンドを差し出されたマギさん。
一瞬、躊躇するように顔をしかめたが好奇心には勝てなかったのか、一口齧りついた。
そのまま、もそもそと食べ始めるとアコさんがニコニコしながらそのサンドを渡していた。
人に食事渡すんだ……意外だな……。
「うん、美味いな。おまえたち、なかなか料理が上手いじゃないか」
「チョーくんはなんでも料理してしまうんです。すごいですよ」
「いやぁ……それほどでも……」
あるけど。
だっていつもアコさんに無茶振りされるもん。
「マギさんはもうちょっと食べないと大きくなれませんよ」
「ふん、食事など薬草やフェアリーの粉などで充分だ」
「そんなだから大きくなれないんです」
「お、おまえだって胸はそんなに大きくないだろ!!」
「胸は関係ないじゃないですか、胸は!!」
そういえばアコさんは神官だから、自分がよほど空腹じゃなきゃ人に分け与えることもあるんだな。そんな風に思いながら、俺はペーパーロールサンドをむしゃむしゃと食べた。
「あ、料理していないスペルブックはいるか?」
「え? ああ、いるけど……一匹他の食べ方をしようと思って……」
「良ければくれないかね? 研究がしたい」
仕方ないなぁ、と思いつつ、まぁ昼飯もダンジョンを潜る前に食べている。
ニ匹も既に平らげていたから、アコさんもニコリと微笑んで頷いた。
「じゃあ、こいつをどうぞ」
そう言って、縛っておいたスペルブックをマギさんに渡した。
なんだかすごく嬉しそうだ。
生きてる魔物なんて、早々研究材料に出来ないからね。
「ふむ、では臨時報酬だ。妖精のポーションをやろう」
と言って、小さな瓶を懐からくれた。
中には液体が入っている。
「これは……?」
「フェアリーの鱗粉、まぁ本来は気体なんだが、アレを液体に溶かしてみたいんだ。かなり甘いし、滋養効果があると思う」
「ほう!! いいですね!! また今度料理に使ってみましょうよ、チョーくん!!」
アコさんの目がぱぁあああと、大きく見開かられる。
甘いもの、大好きだもんなアコさん……。
ともあれ、スペルブック、かなりオススメできる味だったな。
残ったページも後で揚げてスナックにしてみよう、うん。