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フェアリーを食べよう!

「い、偉大なる地母神よ、どうかお救いくださっごふっ」

「アコさーんっ!!」


 アコさんが血を吐いた。

 最近、ちょっと調子が悪かったのだけれどもどうやら流行り病のようだ。

 流石に病には毒消しや回復魔法は効果がない。


 病気ごとに必要な魔法や薬を使うしか無いのだが……。

 アコさんはまだそこまでの知識や技術がないそうだ。


 曰く、専門は人じゃないらしく。

 つまり魔物なのか? 魔物だろうな……。


 ひとまず街に辿り着いたから、医者にかかるとしよう。

 ここは高名な学都だそうで、大学病院のエントランスで数時間ほど待つ。

 その間、アコさんはベッドで寝かせてもらうことにした。


「やぁやぁ、お待たせしてすまないねぇ」


 現れたのは金髪の少女。

 白衣を纏い、外見に似合わぬ老齢な雰囲気を持ち合わせている。

 腰まで伸びた髪はウェーブがかっており、その風貌は人形のようだ。


「えっと、貴方がこの大学病院の医者かな?」

「ああ、そうだ。正確には準教授だがね。ついてきたまえ」


 アコさんをベッドに乗せながら運ぶ。滑車がついていて便利だ。向かったのは研究室。

 色とりどりな薬草が植木鉢に生え、光った玉がフラスコに入っている。


 少女がアコさんに注射をして、血を抜く。

 その後、聴診器で胸の音を聞き、目や喉などを確認した。

 血を試験官に入れたかと思えば、ふむ、とひとりごちる。


「予想通り流行病だが、多少毒が体内に沈殿しているな。なにか悪いものでも食ったのかね?」

「え? ああ……色々食べたっけ……」


 最近食べたものを次々羅列していく。

 コボルト、サハギン、ゴブリン、ゾンビ、ゴーレム……。

 サキュバスの起こす現象の原因である実だって食べたっけ。


 それを聞くたび、少女の口角が歪んでいった。


「おまえら冒険者はいつもそうだ。妙なものばかり口にする」

「ははは……」


「まぁ、その中ならおそらくゴブリンだろうさ」


 はぁ、と溜息をついて少女が色々とフラスコを弄り始めた。

 薬でも調合しているのか。


「わかるんですか?」


「コボルトやサハギンに毒はない。ゾンビから生えたキノコも、魔力促進の効果があるとして、一部奇特な教員が好んで食べている。ゴーレムも少し怪しいが……生物よりは植物の可能性が高い」


「ちなみに、毒が沈殿するとどうなります?」


「この毒なら抵抗力や体力をじわじわと奪っていきつつも、相手を殺さないタイプだ。捕縛用の毒、と言っていいかもしれんねぇ。ゴブリンがよく使うものだよ」


「なるほど、タメになります」


 ゴブリンは毒消しとともに食べたほうがいいな……。

 いや、食べちゃ駄目だな、うん。


 少女の蘊蓄を日記帳にメモしていると、やがて管のついたフラスコを2セット持ってきた。

 先端にキセルがついており、フラスコの中には薬草と光る玉が入っていた。


「これ、なんですか?」

「薬草数種類とフェアリーだよ」

「フェアリー!?」


 ふふん、と自慢げに微笑む少女。


「フェアリーは気体の集合体でね。放置していると、煙のように別れ、また集まっていく。妖精の鱗粉、というのかな。凝縮すれば蘇生薬にすら、なりうる」


「へぇ……」


 つまりこれは水タバコのようなものなのか。

 最近の大学研究は進んでるな……。


「まぁ、凝縮薬は体に負担がかかるからとりあえず煙のように吸うぐらいでいい。おまえも吸っておくがいいさ。どうせゴブリンを一緒に食ったのだろう?」


「はい……」


 お言葉に甘えて、キセルを吸わせてもらうことに。

 おっと、そのまえにアコさんの口にゆっくり運んで……。


 うわっ!! 元気のなかったアコさんの目が突然パチクリして吸い始めた!!

 食料を眼の前に持ってきた時のようなテンションだ!!


 なんでだろう……と思って、俺も吸ってみる。

 うわっ、この煙、かなり甘い! 蜂蜜を気体にして吸引しているみたいだ!!


 俺にはちょっと甘すぎるけど、アコさんは好きな味だろうな……。

 妖精の鱗粉とやらがここまでの甘さを引き出しているのかな。


 フェアリー、なんとも興味深い食材だ……。

 一匹分けてもらえないかな。ダメか。


「そういえばおまえは、いままで食べた食材をメモしているのかえ?」

「そうなんですよ。後で寄生虫が見つかっても嫌だし。一応食べたものは全部日記と一緒に」


「良ければ見せてもらえんかな。後学の研究にしたい」

「かまいませんよ」


 日記帳を見せる。ちょっとばかり気恥ずかしい。

 その間、シャーシを吸ってゆっくりしていよう……。

 う~~~ん、甘い。本当に甘い。


 ちょっとばかり周りを見渡してみる。

 フラスコの中には、色んな色の光がある。色によって味が違うのかな。

 すごく気になるな……大学での研究、面白そうだ。


「拝見したよ。やや直情的だが、しっかりと読める文章だ。そこそこの家柄と見えるが」

「ああ、一応男爵家の三男坊だったんですよ。読み書き計算までは教えてもらって、それで」

「ほむ、冒険者には読み書き計算も出来ないものも多いからねぇ」


 まぁ、アコさんの知識量とかには全然敵わないんだけど。

 俺もさっさと独立せず、親の脛齧ってでも大学で勉強すればよかったかな。

 すごい興味が湧く。


「これ、ありがとう。また読ませてもらえると嬉しい。もちろん謝礼はするよ」

「ええ、ありがとうございます。えっと、あなたは……」

「マギ、と呼んでくれたまえ」


 マギさんか。もしかしたらいいコネが出来たかもしれないな。

 この学都は周辺へのアクセスもいいし、しばらくこの辺を拠点とするのも悪くない。


「ふぅ……少し元気になりました。ありがとうございます、けほ」


 アコさんがよろよろと立ち上がる。

 ちょっと吸っただけでずいぶん顔色が良さそうだ。

 けっこう即効性の薬なんだな……。


「しばらく安静にしておきたまえ。ポーションは出すが、数日はここに通うといいよ」

「しかし治療費が……」

「治療費はおまえたちの日記と、個人的な依頼で勘弁してやろうじゃあないか」

 

 おお、助かる。二人組だから、そこそこ稼いでるとはいえその日暮らしの冒険者。

 アコさんもけっこう食べるから正直不安ではあったんだよな。

 背に腹は代えられないけど……。


「おっと、そこの戦士。おまえも予防薬を打っておこうか」

「予防薬?」


 おっと、風向きが変わってきたぞ。

 なんだい、その手の注射器は。


「注射だ、注射。流行病だから格安、いや場所によっては無料で打っている」 

「注射はやだ……」


 俺がじりじりと離れようとすると、アコさんががしりと腕を掴んできた。

 病人を振り払うわけにも行かず、動けない。


「チョーくん、わがままはダメですよ」

「ヤダーッ!!」


 結局、ぶっさりと刺された。

 痛い……。


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