ゴーレムを食べよう!
「ああ、うなぎの蒲焼が食べたい……」
アコさんが何やら言い出した。
でも今日はうなぎなんていない、山の街道を歩いているのだ。
今回の依頼は街道に現れたゴーレムの討伐。
ゴーレムとはつちくれの人形で、魔術師が作り出す、と言われているけれど。
野良のゴーレムって多いんだよな……なんでだろ。
「急にどうしたんだい、アコさん」
「天啓です」
「天啓かぁ……」
天啓なら仕方ない。もしかしてアコさんがしょっちゅう色んな物を食べたがるのは、いわゆる地母神との契約なのかもしれないな……いや、一日三食食べないと暴走するのは、呪いだろ。
「でもうなぎなんてここらじゃ釣れないよ」
「わかっています。山道ですからね」
はぁ、と溜息をつくアコさん。
いつも食べ物の事を考えているのかな。
今日はそこそこ食料があるから、豪勢にしちゃおう。
「おっと、あれがゴーレムじゃないか」
「ふむ、どうやって倒しましょう」
山道にゴーレムが見えた。
土塊が混ざりあり、人の形をしている。
大きさは……通人の成人男性よりふた周りほど大きい。
210CMほどだ。
さて、どうやって倒すか。
「基本的にゴーレムは魔法で倒すのが定石だそうですが」
「武器は通りにくいだろうしね。どんな魔法が効くのかな」
「基本的に火炎、氷結、雷撃が有効だそうです」
「なら、俺の火炎魔法で……!」
少し遠くからのんびりとしているゴーレムに向けて……。
球状にした火炎魔法を……撃ち出す!!
「”炎掌”!!」
俺の掌から球状の火球が飛び出す。
火球がゴーレムにぶつかると、燃えはしなかったが熱気で悶え苦しんでいた。
「あいつ、感覚あるんだ……意外だな」
「それよりもこちらに気づきましたよ、来ます!」
動き自体は鈍いけれど、一度勢いづいたらけっこう速い。
このままではぶつかってしまう!
「お任せくださいっ!!」
アコさんが俺の肩を踏み台に、ゴーレムの頭上へと飛び上がる。
そのままメイスをゴーレムめがけて振り下ろした。
「”震打”!!」
ゴーレムにぶつかったメイスから黒い雷撃が迸る。
キィイイイイン、という甲高い音と共にゴーレムが前のめりに倒れた。
”震打”は殴った相手を振動させて、気絶させる魔法だ。
非生物には本来通じないはずだが……。
「ゴーレムって非生物、なのか?」
「魔力を持っている相手ならばだいたい魔力酔いを引き起こすので倒せますよ。おそらくコアがあるはずです。破壊してしまいましょう」
そんなわけでゴーレムを掘ってみる。
すると、ずるずると何やら紐のようなものが出てきた。
「うん……? なんだろう、これ」
ぐねぐねしている。もしかして、これ、生き物なのか?
もう少し調べてみよう。
ゴーレムをもう少し掘り起こしてみると、やはり紐状の何かが出てくる。
どうやらこいつがこのゴーレムを構成しているようだ。
「なるほど、これが野良ゴーレムの正体ですか」
「正体、というと?」
「擬態しているんですよ、土塊を使って人型に」
「この紐状の生物が!?」
強いて言うならゴーレムワームとでもいうべきだろうか。
ミミズ、みたいなウツボみたいな不可思議な生物だ。
白くてちょっと気味悪く、アコさんの手首ぐらいの太さはある。
「で、でもゴーレムは魔法生物なんじゃ?」
「一口にゴーレムと言っても機械製の物、純粋に魔法で出来たものとたくさん種類があります。野良ゴーレムがどこから生まれたかの研究は少なかったのですが……ミミズのような生き物が擬態していた、とするならば納得ですね」
「へぇ~~~」
土の硬度はコイツラの粘液を混ぜて補填。
関節はコイツラが筋肉の代わりをしていたってわけか。
なかなか愉快な生き物だ。
「あ!!! そうだ!!!」
パン、とアコさんが手を叩いた。
天啓でも降りたのだろうか。その顔は若干食欲に満ちていた。
「こいつらを蒲焼にしてみましょう!!」
「ええ……!?」
ぬめぬめ動いているのに……!?
たしかに見方によってはうなぎに見えないこともない、けど。
「ど、毒があるかもよ?」
「強い毒があるならこんな擬態をする必要はありませんよ」
たしかに集団になって擬態するような生物だ。
強力な毒があるなら武器にするはずだし……即死するようなものはないと思いたい。
「仕方ないな……」
「わぁい!!」
最近、本当に魔物食に抵抗が無くなってる気がする。
良くない傾向だ。でも天啓も食べろって言ってるみたいだし。
大丈夫、だよな……?
というわけでまずは鍋を水で満たし、その中に入れ、ぬめり気を取る。
一応、土も吐かせたいからしばらく放置しよう。
しばらく時間を置いたらかっさばき、内臓を抜き取る。
そのまま開いたら、フライパンで蒲焼にする。串がないから蒲焼とは言い難いか……。
焼けてきたら箱豆を発酵させて採取したというショーユをかけて……う~~ん、いい匂いだ。
「出来たよ、アコさん!」
名付けて、ゴーレムワームの蒲焼もどき。
見た目は蒲焼に見えないこともない。
これを持ってきた御飯の上に乗せ……。
ちょっとショーガ草とかも盛り付けて、っと。
うな重ならぬ、ゴーレムワーム重だ!!
「わぁい!! いただきます!!」
アコさんが美味しそうに料理を食べる。
うむ、即効性の毒は……なさそうだな。
では俺も、いただいてっと。
うむ、思ったよりもふわふわで美味しい!!
まるで綿を食べているみたいだ。
身も簡単にほぐれてご飯に合う!!
「すごい美味しいですね! ショーユとご飯と身が混ざって……!」
「うん、まるで陸上のうなぎだね!」
ゴーレムワーム、意外な食材だったな。
アコさんの天啓のおかげかもしれないねぇ……。
「ああ、このような食事をありがとうございます、地母神様……!」
アコさんが祈りを捧げる。
一応、作った食事を少し切り分け、神に捧げることになった。
と言っても簡素な祭壇を作って、祈るだけなんだけど。
うわっ、シュッ……って無くなった。すごいな……神の力……。