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サキュバスを食べよう!

 ようやく村に戻ってきた。

 程々に建っている民家が俺を癒やしてくれる。

 保存食も尽きてきた頃だったから助かったよ……。


「ああ、偉大なる地母神よ。お恵みに感謝します」


 アコさんが隣で祈っている。

 ゾンビを始末してからは、食料も尽き、保存食だけで帰ってきたからな。


 やはりアコさんは保存食があまり好きじゃないみたいだ。

 それでもめっちゃ食うけど。

 

「じゃあアコさん、宿をとろうか」

「はい!!」


 スキップしながら宿に向かうアコさん。

 それほど宿の食事が楽しみなのだろう。

 俺も保存食ばかりだったから楽しみだ。


 宿を見つけるのにはそれほど時間がかからなかった。

 冒険者の宿「月と枕際のミルク亭」。

 大きく看板が吊り下げられたそこに入ると、中は多くの冒険者で繁盛していた。


「へぇ、このあたりは人通りが少なそうなのに意外だな……」

「チョーくん、とりあえず食事にしましょう! 食事に!!」


 なんとか席を取ったアコさんが軽くべしべしとテーブルを叩く。

 あまりに人が多いから酒飲みのおじさんと相席になってしまった。

 まぁ、いいや。


「嬢ちゃんたちはなんだい、カップルかい?」


 おじさんが話しかけてきた。

 でもこういうのも冒険者の宿での醍醐味だ。


「いやぁ、他になかなか組んでくれる人がいなくて……」

「なんとなくノリで組んで以降、一緒に冒険者をさせてもらってるんですよ」

「バランスもいいし、ね」


 パーティとしてはもちろん俺が前衛、アコさんが後衛……。

 と言いたいところだが、アコさんは腕っぷしも強い。


 けっこう華奢な方なのだが、なにやら魔法で強化しているそうだ。

 ……もしかしてバーサークでもしてるんだろうか。


 一応、俺だって魔法も使える。

 そんな感じでなんだかんだバランスも良く、組んでいるのが現状だった。

 最近は心労のほうが多いけれど!!


「へぇ、カップルじゃなくてよかったな」

「それはなぜだい」

「気になりますね」


「へへへ……この宿にはな、サキュバスが出るんだ!!」

「「サキュバス!?」」


 サキュバスといえば、淫猥な夢を見せ、精気を搾り取ってくるという伝承の魔物だ。

 実体は俺も見たことがない


「アコさんは知ってる? サキュバス」

「いいえ、しかし実験結果ですが神官でもサキュバスの夢を見ることがあるそうです。隣で神官が見張っていても」

「ああ……」


 むしろ神官ほど、サキュバスの夢を見やすいとかなんとか聞いたことがある。

 女性の場合はインキュバスな気もするが……。


「それは実害があるのかな」

「いや、淫猥な夢が見られるってこの宿は評判でね!」

「へぇ~~~」


 まぁ、ちょっとぐらいは興味ある。

 アコさんがいる手前、そんな事は言わないけれど。


「大丈夫ですよ、チョーさん! サキュバスが出てきても私がやっつけますから!」

「それは困るがなぁ~~」


 おっさんが酒を飲みながら、そんなことをぼやく。

 それよりもさっさと夕食を決めてしまおう。


「あの、オススメって、あるかな」

「それならクック鳥のステーキがおすすめだぞ、味付けの実が美味いんだ」

「クック鳥かぁ」


 クック鳥はいわゆるデカい鶏、みたいな感じで、騎乗用にも使える便利な鳥だ。

 メス鳥は卵だって生むし、こういう村ではよく育てている。

 生まれる量も多いので、頻繁も調理されるのだ。


「ではそれで。アコさんもそれでいい?」

「ええ」


 注文をすると、しばらくしてクック鳥のステーキが出てきた。

 なるほど、美味しそうな鶏肉だ。実はなんというかニンニクっぽい。

 初めて食うな、この実。うん、味もニンニクっぽい。


「う~~ん、肉汁がジューシィーだけど、皮がサクサクとしてて、それでいてあっさりめ。とても美味しいですね……!」

「うん、このニンニクみたいな実もイケてるね!」


 醤油っぽいソースも、付属のライスとよく合う。

 う~~ん、これはサキュバス抜きにしても当たりの宿かもしれない……!!


 一通り食べ終わったら、部屋を借り、そこで眠ることに。

 二部屋借りる余裕はないから、同室。


 魔法で焚いたであろう風呂を借りて、入浴を済ませる。

 一応生活魔法で体を洗ったりしているけれど、やはり入浴はいい。


 部屋に戻ると、アコさんとのベッドの間に、布でちょっとした区切りを作っておいて……。


「おやすみ~~」

「あ、はい。おやすみなさい」


 どうやら区切りの向こうで祈りを捧げているようだ。

 流石にそこまで付き合う気はないので、俺は先に寝てしまおう。


 ────────────。

 ──────。


 アコさんが夢に出てきた。

 淫靡な肉体になって、悪魔の尻尾と翼が生えていた。


 う~~ん、聖職者に対して尊厳破壊もいいところである。

 サキュバスっていうのは、けっこう外道なのかもしれないな。


 しかしなんとか朝だ……というのに、ちょっと疲れた。

 これが精気を奪う、ということか。


「アコさん、サキュバスが夢に!!」

「お、お、お、おはようございます……っ!!」


 顔を真っ赤にしたアコさんが区切りから顔を出してきた。

 明らかに普段の態度じゃない。


「まさか、アコさんもインキュバスの毒牙に……!!」

「あ、ありえません!! 魔物が入ってこないよう、結界魔法を貼っていましたから……!」


 昨日、祈っていたのはそれだったのか。

 しかし結界魔法を貼っていたなら、サキュバスの仕業じゃないのか……?

 いったいどうなってるんだろう。


「……昨日ステーキについていたニンニクみたいな実。あれの作用かもしれません」

「つ、つまり?」


「ニンニクには滋養作用があると言われています。その作用が極端に高い実……」

「媚薬みたいな催淫作用があったってことか」


 なるほど、名物料理に使われている実。

 これがサキュバスの正体だったわけか。


「あれ、じゃあ神官はなんでサキュバスの夢を見やすいんだろう」

「普通に禁欲している方が多いので、その……」


 ……神殿では禁じられた色恋が多いってことか。うん。

 禁じられた関係をサキュバスやインキュバスのせいにする、有り得る話だ……。

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