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ゾンビを食べよう!

「ああ、偉大なる地母神よ、哀れな彷徨い人を送りたまえ……!」


 今日はゾンビの討伐。

 戦争で過去に滅んだ街がアンデッドの生息地になっていたのだった。


 もちろんちゃんと今日は保存食を持ってきている……だけでなく、米すら用意してる。

 もう魔物を食べるのは勘弁だからね!


 周辺はもうすっかり寂れた街。瓦礫、と形容したほうがいいかもしれない。

 そんなところに現れるのは腐り果てた村人たち。


 一口にアンデッドと言っても、スケルトンやゾンビ、グールなど種類は実に様々だ。

 動く死体の状態によって、名称が変わるのがなかなか面白いところだ。


 一応アコさんと俺は二人組のパーティであり、アコさんは神官だ。

 こういったアンデッド退治の依頼はよく受けるし、ちょっと詳しかったりするのだった。


 アンデッドを浄化魔法でガンガン打ち倒しているアコさんも、今日は輝いているように見える。

 まぁ、実際に浄化魔法の魔力光で輝いているのだけれども。


 さて、ゾンビ退治も一段落したところで、夕食にするか。

 今日はチーズリゾットにでもしようかな!


「時に」

「時に、なにかな……?」


 焚き火を燃やしているところで、アコさんが何か言い始めた。

 鍋で炊いているご飯が気になるのだろうか。


「アンデッドがなぜ動くのか知っていますか?」

「えっと、魂がこう、動かしてるんでしょ?」


 ぐりんっ、とアコさんが首を傾げてこちらを見上げてきた。

 ちょっと怖いよ……。


「魂にそのような力があるのは、偉大なる魔術師ぐらいのものですよ。誰もかしこもそんな魂を持っていたら、死の概念なんて崩壊してしまいます!」


「じゃ、じゃあなんで動くんだい?」


 にやり、と微笑むアコさん。

 知識欲か、あるいは食欲なのか。

 いや流石にゾンビは食べないよな……? だって人だぞ……?


「その正体は粘菌、つまりはキノコの一種だと思われます!」

「ええ!?」


 知らなかった! ゾンビってキノコだったのか!? でも明らかに屍体が動いているし、ゴブリンみたいに植物が擬態しているようには見えないけど……。


「でも、ゴブリンみたいには、食べられないでしょ!?」

「ええ、正確には屍体をキノコが動かしているわけですよ。寄生粘菌、というわけですね」

「…………で、で、それがどうしたんだい?」


「キ ノ コ の リ ゾ ッ ト に し ま せ ん か ! ?」


「わ、わぁ……!」


 アコさんが近くに倒れているアンデッド……。

 動かなくなったゾンビを突く。突くな。


「浄化魔法では、ゾンビの内部の粘菌を不活性にするだけなんです。つまりほっとくと生き返る」

「生き返るのは知ってるけど……」


 最終的に屍体をしっかりと火葬しないと、アンデッドたちは生き返ってしまう。

 焼いて、骨にして、バラバラに砕いて、墓を作るのだ。


 これがかなりの手間なのだ。一応、俺の火炎魔法ならいけるが……。

 とりあえず屍体を集めて、一気に焼いたほうがいい。


「しかしキノコを取り出せば、焼かなくても済むんですよ!!」

「でもほっといたらまたキノコ生えてくるんじゃないかな……」

「まぁ、食べたいだけですが」


 じっ……、とゾンビを見つめるアコさん。

 まだ腹は減ってないはずだけど。


 たしかに具材が入ってないよりはキノコが入っていたほうがいいかもしれない。

 鍋で煮詰めれば、こちらの体に寄生もしないだろう。


 とはいえ……。


「でもゾンビから生えたキノコだよ!? 食べていいの!?」

「なにか問題でも……?」


「な、なんか、衛生的というか、宗教的に……!」

「ゾンビから生えたキノコを食べちゃ駄目なんて教えはありません!!」


「う、ううっ……」


 アコさんがじっ……、とこちらを見つめてくる。

 そして煮詰めている鍋を見た。

 また俺を見つめてきた。怖い。


「わ、わかったよ、キノコ、取ってみる……」


 後学のためになるかもしれないし……。

 そんなわけでゾンビを調べることに。


 あ、肩の部分や、頭の部分、腐りかけた内部ににょっきりと、生えてるな。

 特にスケルトンなんかは骨だけだからとりやすい。


 そうか、スケルトンの数が少ないのは、キノコの育成環境にやや不向きだからか。

 とりあえずゾンビたちからキノコを採取して、まな板で切る。


 一旦、別の鍋で煮詰めて灰汁抜きしておこう。

 と言っても鍋は二つもないから……フライパンに水を注いで代わりにする。


 充分、灰汁抜きしたら水を切って、米を炊いた鍋に入れて……っと。

 そこに上からチーズを掛ける!


 これで完成だ! ゾンビキノコのチーズリゾット!!

 御飯の上にチーズとキノコが乗っていて、食欲をそそる匂いだ……!

 最近、まともな食事してなかったから助かるなぁ!


 さて、アコさんが食べるのを見て、こっちも一口。うん、チーズの酸味とご飯のふわふわとした感触、それにキノコの香ばしさが相まってとても美味しい。


「わぁ……! なんというか香ばしいというか、焼いていないのに深みがあります!!」

「うん、しっかり熟成されているみたいだね」


 今日は理性が残っているからか、ちゃんとした感想をくれる。

 いつもおいしい連呼だけじゃあ、作る側も作り甲斐がないもんね。


 しかしゾンビキノコ、なかなか美味しいな。

 上手くすれば、高級食材になるんじゃないか?


 屍体を勝手に動かすから危ないけれど……。


「しかしアコさんと一緒にいると、色んな経験をするよ」

「ええ、私もチョーくんと一緒にいるとそう思います」

「フフフフ……」

「あはははっ」


 俺達は互いに笑いあった。

 周りの死骸もこころなしか笑ってるように感じる。

 気のせいだろう。


 さて、明け方に近くなった頃に、死骸を集めて焼き払っておいた。

 火炎魔法もけっこう大変だ。体力を使う。


 チーズリゾットを食べといてよかった。


 心なしか、火力も普段より高い。

 もしかしてゾンビキノコには魔力促進効果があるんだろうか。


 最近、魔物に食うのに忌避感が無くなってきたな。

 ……良くない傾向、かもしれない……!

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