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サハギンを食べよう!


「ああ、申し訳ありません。人々の業が貴方達の命を奪ったのです……」


 アコさんが海に向かって祈りを捧げている。

 こういうところ見ると本当に清楚で神官らしいなぁ。


 今日はサハギンの討伐だった。


 サハギンといえば、まぁつまり魚人。

 マグロみたいな体躯の魚が猫背になって、エラで歩いてる感じ。


 ちょっととぼけた面とシルエットが、マスコット的で可愛いと思う。

 今回もちょっと遠出だったけど、いっぱい保存食を持ってきた。


 だから前回の二の舞いにはならないと思ったのに。

 道具袋にはコボルトが顔を突っ込んでいた。


「保存食が、食われたんですか?」

「水に濡れたら駄目だと思って、道具袋を置いといたら……ゴメン」


 実は砂浜に道具袋を置いて、サハギンを討伐していたのだ。


 人もいないし、ちょっとぐらい大丈夫だと思ってたんだけど……。

 どうやら近くにいたコボルトが荷物を漁って、保存食を食べちゃったらしい。


 俺は口元に保存食の欠片がついている子コボルトを抱いていた。

 もうコボルトは食べたくない。よしよし、ふわふわだな、こいつ。


「つまり今日、夕食はない、と」

「もう深夜だし、多分宿も閉まってるだろうね」


 サハギンたちの巣は港からけっこう遠いところにあった。

 ちょっとした洞窟だったのだけれども、満潮の関係で待たなければならなかったのだ。

 おかげですっかり夜になってしまった。


 今から帰れば朝日を迎えるまでには街に帰れるだろうけど……。

 まぁ、時間帯的に考えて夕食は抜きになるだろう。


「…………そいつ食べましょう」

「ダメ! こんなか弱い生き物を!!」


「食べましょう」

「ダメーッ!」


 血走った目で俺が抱いている子コボルトを見つめるアコさん。

 前回と違い、子コボルトちゃんはまだ生きているのだ。

 こんな可愛い生き物をわざわざ殺して食うなんて……!!


 俺が子コボルトちゃんを庇うと、目標を失ったのか──。

 それともまだちょっと理性があるのか。


 ふらふらと食えそうなものを探して徘徊するアコさん。


 やがて彼女は近くに倒れていたサハギンのエラを掴んだ。


「では今日はこのサハギンを食べましょう」

「ええ!?」


 サ ハ ギ ン ヲ タ ベ ル !?


 一応、魚人……人って付くんだけど!?


「サハギンは人族として認められていません」

「魚人ってつくのに!?」


「つまり食べてもいい、ということです」

「本当かな……ホントかなぁ!?」


 だって魚人だよ!? 人ってついちゃってるんだよ!?

 まぁ見た目的にはマグロにエラの手足が生えてるだけだけど!!

 あんまり人っぽさ感じないけどさぁ!!


「ダメですか」

「ちょっとダメだと思う……」


「ではそのコボルトを食べましょう」

「ダメーッ!!」


「もう一匹食ったんだから二匹も三匹も同じですよォーッ!!」


 メイスをべちんべちんと空いてる方の手に叩きつけて仰るアコさん。

 口からはまた涎が吹き出ている。


 ああ、また空腹モードに……!

 こうなると遅かれ早かれ、コボルトちゃんが襲われてしまう!

 選択しろ、俺。幼き命を守るか、ちょっと倫理観に嘘をつくか。


「わかった……! サハギン、サハギンを食べる!!」

「よく選択しました」


 くそっ、命には代えられない!

 すごい満面の笑みだ、アコさん……!

 今の俺には悪魔の微笑みに見えるよ!!


 さて、どうやって調理しようかな……。

 まずは血抜き。それから解体して。


 おお、本当にマグロみたいな肉質だ。赤身とか、大トロとかある。

 でも生で食べるのはちょっと寄生虫とか怖いな。一応魔物だしな。


 ここは薄く切って、さっと炙っちゃおう。今日はフライパンも持ってきている。

 焚き火に近づけて、サハギンの切り身を乗せてっと……。


 ジュ~~っと焼ける。うん、美味しそうだ。

 これだけだと肉が余るので、残ったものは鍋にしちゃおう。


 水はないけれど……。


「アコさん、鍋に水を入れてくれないかい?」

「ええ、もちろん任せてください。"水撃(ミヅチ)"!」


 便利な生活魔法。

 アコさんの掌からジョバジョバと水が生成される。


 これを使って、鍋にしてしまおう。コボルトも調味料までは食べなかったしな。

 今日は……なんとミソもちょっとある!


 箱豆をペースト状にして発酵させたものだ。

 これはまぁまぁ簡単に作れるから、大きな街なら間違いなく売っている。


 サハギンの肉を叩いて、丸めて、つみれ状にして、鍋にいれる……!

 あとは煮るだけ。


 これで完成だ!!


 サハギンの炙り身と、つみれ汁!!

 こんがりと焼けた炙り身と、ミソが溶けた濁った汁に浮かぶつみれが美味しそうだ。

 ……魚人ってついてるんだけどなぁ。


「わぁ!! 美味しそうです!! いただきます!! おいしい!! おいしい!!」


 速攻だった。前回よりはまだ緩やかだけれども、それでもむしゃむしゃといくアコさん。

 お昼、多めに街から持ってきたお弁当を食べてきて本当に良かった……!!


 さて、俺も実食。作ったからには食べないと命に失礼だからね。


 うん、炙り身はとてもジューシーで、すごい濃厚な脂の味がする。

 油っぽいと言うより、魚の脂身というか……これだけでとても甘いのだ。


 くにゅくにゅとした食感も、食欲を促進させる。

 ああ、ご飯が食べたいな、これは。


 さて、つみれ汁の方は……。

 うん、こっちもすごい濃厚!!


 つみれから肉汁が出てて、ミソだけの味じゃないし。

 つみれも口に含むと、ふんにゃりと溶けていく。


 なによりミソスープが冷えた体に温かい……。


 これはほっこりとするな。


「偉大なる地母神よ、このようなお恵みを与えてくださって感謝します……」


 思い出したように、神に祈りを捧げるアコさん。

 サハギンは地母神じゃなくて海神の担当だと思うんだけど。


 まぁいいや。


 子コボルトちゃんもお腹が空いたようだ。

 一回逃がしたのに戻ってきている。


 炙り身をちょっと分けてあげることにした。

 うん、美味しそうにもぐもぐ食べている。


「チッ」


 今、アコさん舌打ちした?



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