トロルを食べよう!
俺達はこの村で冬を超すことにした。
理由は色々あるが人助け……といったところだろうか。
人が少ない村は冒険者がいるとなにかと助かるからな。
しかし食料が心許ない。あれだけあったリザードマンやオーク、街道にいた魔物達の肉も数ヶ月に渡る冬に耐えられるほどではないのだ。第一野菜が足りない。
かくなる上は街に行って食料を買い揃えるしかあるまい。
幸いにして、この村には金銭的な資源が余っていた。街道が塞がれていたからな。
「と、いうわけで余達は街に買い出しに行くぞ」
幸いにもここからは学都が近い。
男爵である卵殻卿が話し合えば、食料を売ってくれるだろう……ということで、俺達は十人ちょっとのキャラバンを結成することになった。
俺とアコさん、そしてデュラン達のパーティに加えて何人か冒険者がついてくることに。
もちろん村にも何人か冒険者が残っている編成だ。
デュラン達が着いてくるのは、ベテラン冒険者を村に残すためでもあった。
「いってらっしゃ~~い!」
「楽しんできてね~!」
「お土産買ってきてくださいよ!」
……などと歓迎されムードで村を旅立ち、冬の街道へ挑むことに。
まぁ、そうは言っても平地だ。雪山に登るわけじゃない。
危険はないと思われていたが……。
想像以上に真っ白な街道を、ザックザックと進むことになってしまった。
途中で雪が降ってきたのだ。積もらなきゃいいが。
「寒いですね」
いつもの神官服に見えて、ちょっとモコモコになっているアコさんが言う。
俺達は幌馬車の中だが、この寒さは身にしみる。
「ああ、卵殻卿は大丈夫かな」
「オリエでいい」
そう言いながら、白い息を吐く卵殻卿は高そうなマントに身を包んでいた。
まぁ、俺もジャケットを着ているけどさ。寒いんだよな、とにかく。
しかしオリエか。卵殻卿の名前かな。
「卿らには感謝している。我が村が今年救われたのは卿らのおかげだ」
「いえ、まぁ知らない仲じゃありませんし」
「アコさんとオリエさんは知り合いなんだっけ?」
「ええ、神官学校の先輩です。そこまで親しいわけじゃありませんでしたが」
神官学校。たしか神官を教育する機関だったかな。
才能があれば無償でも入れるそうだ。神官になることを確約とする代わりにだが。
アコさんは神官学校に無償で入ったそうだ。
「この人、あの頃からこんな兜を被っていて……」
「ふん、それが余の誓約だ。みだりに顔を晒してはいかんというな」
「破ったらどうなるんだろう……」
「大したことはない。顔を晒している間は魔法が使えんだけだ」
オリエさんのも誓約だったか。
まぁ、知らず知らずの内に誓約が決まってる人もいるそうだけど。
オリエさんの場合は、多分意図的に決めたんだろうな。
「チョーくんは私に料理を作ってくれるって誓約がありますよね」
「ないよぉ!?」
なんか勝手な誓約を足されそうになっていた。
さて、このままでは皆が凍え死んでしまう。
俺は魔法瓶を取り出し、皆にスープを配った。
「なにかな、これは」
「街道で倒した魔物の肉を入れたスープだよ。たしかけっこう毛むくじゃらの……」
「あれはトロルですね。ずんぐりむっくりしてて、オークに似てますが、肉が柔らかく毛皮が上質で、よく狩られています。動きがとろくさいため、かなり大きいですが倒しやすい魔物ですね」
ああ、トロルね。
オークよりもはるかに毛むくじゃらの魔物で、更に大きかったんだよな。
なかなか斬撃が通らなかったけれど、動きは遅いからそれほど苦戦はしなかった。
なんか熊っていうより森の妖精って感じだったね。
「俺のこのジャケットもそのトロルの毛皮で作ったんだ」
「チクチク縫ってましたね」
「手製か!? なんでも出来るな、卿は……嫁に欲しいぐらいだ」
「あ゛け゛ま゛せ゛ん゛!!」
アコさんが吠える。そんな吠えなくても……。
オリエさんが少し兜を上げて、スープを一口。
「うむ、美味いな。肉汁が染み渡っている」
「村の牛の乳も入れたんですよね」
「ああ、ちょっと貰えたからね」
どれ、俺も一口。
ふぅ、トロみがあって、乳の甘さもある。
チーズも入れたかったけれど、そこまでの贅沢はできないな。
第一、持ち運びに不向きになる。
トロルの肉は……、うわっ!! 柔らかい!!
オークの肉よりもふにゃふにゃで脂身が多い感じだ!!
これでなんとか一息ついたな……。
他の馬車にもスープは渡してあるから飲んでくれると良いけど。
冬なこともあり、街道に魔物が出てくる気配はない。
ひとまずそう思っていたが、がさごそと何かが雪道の中、動いたような気がした。
「魔物……いや、あまり良くない連中かもな」
肉包丁を引き抜き、戦闘準備をする。
その最中、なにかがこちらに飛んできた。
俺はそれを肉包丁を叩き落とす。危うくオリエさんに刺さるところだった。
「なんだ? どうした?」
「盗賊、みたいだね」
「ふえ~~、盗賊ですか……」
アコさんが角笛を持ち、高らかに鳴らし始めた。
敵襲を知らせる笛の音である。
「ぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ぶぉおおおおおおおおおお!!」
俺は馬車を飛び出し、矢が飛んできた方向に向かって火炎魔法を放った。
「炎掌ッッ!!」
ぼふんっ!! と周りの雪が爆ぜる。水蒸気なんたらだっけかな。
「敵襲っすか!?」
「任せなさい!!」
わらわらと他の馬車からも冒険者が出てきた。
さて、どう襲撃してくるつもりだ?
向こうが魔法を使うと厄介だ。先手必勝!!
俺は矢が飛んできた方向に飛び込んだ。
そこには明らかにカタギではない、外套にマスク姿の男が二人。二の矢を撃ち込もうとしていたが、俺の襲撃で厳しいとわかったようで、腰の短剣を引き抜いてきた。
それを盾で弾き、片方の手を掴むと、そのまましっかりとへし折った。
「ガァアアアアアアアアアア!?」
逃げられないように、足の骨も蹴りで叩き折る。
殺さないだけ有情と思って欲しい。
「チィッ!!」
もう片方の男が明らかに魔法を使うように、片手を伸ばしてきた。
撃たれては敵わない……ので、肉包丁を投げる。
見事に男の胸に突き刺さった。
「カハッ……!」
痛みで魔法の集中がキャンセルされることはよくある話だ。
男も例にも漏れず、魔法を撃てなくなったところで近づき、そのまま地面に叩きつけた。
「大丈夫ですか!?」
アコさんが他の冒険者と共に駆けつけてきた。
時すでに遅し。既に二人の鎮圧は終わったところだ。
「おっと、チョーさん、殺したんですか……!?」
「え、いやそんなはずは」
胸に突き刺さった男はもう長くなさそうだが、もう一人は舌を噛み切って死んでいた。
明らかに野盗の動きではない。どちらかと言うとこれは……。
「暗殺者か……」




