ケンタウロスを食べよう!①
ひとまず集まった冒険者は俺達を含め3パーティ分。
森林奥にいるであろうボスを探すために、別れて活動することにした。
大抵の場合、あまり人間が群れて魔物の住処に入るのは良くないのだ。
刺激して攻撃的になるし、一斉に襲いかかられてしまう。
大体は4~6人ぐらいがパーティとして妥当な数だ。
もちろん、森にいる魔物を掃討する気ならば軍でもいいけれど……。
生憎とそこまでの戦力はない。
俺の臨時パーティとしては5人。
俺、アコさん、卵殻卿、デュランくん、そしてリャイちゃんだ。
前衛はデュランくんとリャイちゃん。
補助や回復はアコさんと卵殻卿。
俺は魔法で攻めたり、戦士として戦ったり臨機応変に。
ついでに索敵はデュランくんとリャイちゃんで行うことになったのだが……。
「ね、ね! 貴族様ってお金持ちなの!?」
「余はそれほどでもない。領土はこの村ぐらいだからな」
「でも冒険者よりは稼いでるんじゃないのかな!」
「ふふ、愛妾にしてやってもいいぞ?」
「え~~どうしよ~~!」
リャイちゃんは卵殻卿と会話しててまともに働こうとしない。
仕方ないので俺とデュランくんで周囲を警戒しているところだ。
まったく貴族様はやる気があるのかないのか……。
「兄貴、木に不自然な傷跡がついてるっす」
「おお、ありがとう。ところで兄貴……?」
「そりゃあ助けてもらったんすから。俺の兄貴も同然っす」
なんか懐かれちゃったなぁ……。
そしてたしかに木になにか大きなモノが擦りついたような傷跡がある。
俺よりデカいな。全長240CMはありそうだ。
つまりあの熊みたいなオークより大きいことになる。
こいつが”ボス”かもしれない。
アコさんが興味深そうに眺める。
「こんなに大きい魔物ならば目立つはずです」
「ああ、そこまで遠くに行ってないと思う。探そう」
しかし何の魔物だろう。ちょっと怖くなってきたな……。
卵殻卿とリャイちゃんはまだぺちゃくちゃ喋ってるし。
デュランくんと俺、ついでにアコさんも周囲を索敵する。
すると、デュランくんが何やらこちらに近づいてきた。
「いたっす!! なんか、なんかデカい……!!」
「ええ、どんな魔物だい?」
「えっと、アレは多分……ケンタウロスっす!!」
ケンタウロス。六本の手足を持ち、人の上半身と馬の下半身を持つと言われる魔物だ。
伝承どおりならいくらなんでもアコさんも食べないような魔物である。
……食べないよな?
しかしそんな魔物が”ボス”とは到底思えないけれど……。
なんなら人族っぽいよね?
「とにかく来てくださいっす!」
言われて茂みに潜みつつ、案内された場所に向かう。
その広場の中心には、確かに六本足の魔物がいた。
上半身──というか三分の一はキュッと締まった細身。
下半身──三分の二は太く、それこそ馬の胴体のようだ。
とは言うものの、俺はその魔物をもっと形容しやすい単語を知っていた。
エビ、あるいはカブトムシである。身がプリッとして美味しそう。
でもエビは陸地にいないだろうからどっちかっていうとカブトムシなのかな。
角、あるからな……。
「あれがケンタウロス!?」
「ケンタウロスで間違いありません。昔の人はアレを鎧を着た半人半馬だと勘違いしたのです」
「鎧、まぁ黒光りしてるからそう見えるか……」
アレなんだっけな。外骨格? まぁカブトムシとかエビの特徴だね。
さて、どうやら眠っているようだ。それならば先制攻撃させてもらうとしようか。
おっと、その前に一応確認。
「あれって理性とか……ないよね?」
「ええ、ケンタウロスは人族とは認められていません。つまり……」
ごくり、とアコさんが喉を鳴らしたのを聞いた。
食べたいのか、アレを!!
「ふむ、結局アレが”ボス”で良いのかね?」
「おそらく間違いないでしょう。ケンタウロスは森の主と呼ばれることもありますから。それに……私が知っているモノよりかなり大きいです」
卵殻卿が訝しげにケンタウロスを見つめる。
いや実際には卵の殻で視線なんてわからないが、見つめている気がする。
「じゃあひとまず先制攻撃をするか。──炎掌!!」
掌に集めた炎を槍の形にして……放つ!!
よし、命中! ちょうど装甲の関節部に炎の槍が突き刺さる。
「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」
今の一撃で、しかし起きたようでL字状に立ち上がった。
なるほど、あのシュッとした部分を仰け反らせているから、人の胴体に見えるってわけか。
うわ、器用に胴体を曲げてこっちを見た。
そのまま口の部位から何かを吐き出してきた!
「聖壁!!」
卵殻卿がそう唱えると、俺たちパーティの周りに防壁が生じる。
そこに針のようなものが突き刺さってきた。いやもう、杭だな。
ケンタウロスは弓が得意って伝承は、この能力によるものか。
「今だ!」
「炎掌!!」
再び炎の槍を生み出し、撃ち放つ。
卓越した聖壁使いはすり抜けさせるものを選ぶことが出来る。
事前に話した通り、俺の炎掌は通り抜け、再びケンタウロスに当たった。
「ゴォオオオオオオオオオオ!!」
だが突進してくるケンタウロス。このままでは伸し掛かられる。
先程のように関節部に上手く……という感じではない。
ガギィン、と聖壁が封じるが、長くは持たなそうだ。
ビキビキ、という音を立てているからな。
「お任せください! ──震打!!」
アコさんが聖壁越しにケンタウロスの腹部をぶん殴る。黒い雷光が迸り、ケンタウロスの装甲も砕けるものの、気絶とまではいかなかった。しかしフラフラとよろめいている。
その隙に近づいて背中に乗り上げると、装甲の関節部に肉包丁を突き刺した。
「まだまだぁ!! 炎掌!!」
そこから炎を送り込む。
かなり上手くいっているようで、全身の関節部から炎が吹き出していた。
だが、これだけではまだ倒れないようだ。
意識が戻ったのか、身をよじらせ、俺を吹き飛ばそうとする。
必死になって肉包丁を掴み、しがみついていると──。
「デュラン! 踏み台になってちょうだい!!」
「え!?」
デュランくんの肩に乗って、リャイちゃんが跳ねる。
そのままケンタウロスの先端──シュッとしたのけぞり部分まで飛ぶと。
ザクッ、とナイフを関節部に突き刺した。
しかしそこはケンタウロスの急所じゃない!!
ぶんぶん、と上半身を振り回し、引きずり降ろそうとするケンタウロス。
おかげでこっちの動きは収まったが、リャイちゃんが振り落とされてしまった。
「キャッ……!」
くっ、どうすればこいつを……。
そうだ、一気に圧力を加えればいいんじゃないか?
通常ならば難しいが、こいつは装甲で囲まれている。
つまり鍋も同然だ!!
「圧撃!!」
ベコンッ、と肉包丁を突き刺していた部分の周辺が凹む。
そのままケンタウロスは前のめりに倒れた。
「ふははははは、素晴らしい連携だ! よくやった皆の衆!!」
ケンタウロスに踏み潰されないように、ちょっと後方に逃げていた卵殻卿が叫ぶ。
ふぅ、なんとか倒したぞ。
しかし、身が焼けたからか……なんともいい匂いが漂ってくるな。
……!! アコさんが涎を垂らして獣のような表情で、ケンタウロスを睨んでいる!!
料理するしか……ないのか……!!




