レプラコーンを食べよう!
今日は村のお偉いさんに呼ばれた。
この小さな村は男爵領に当たり、とある男爵が税収やら政務なりを司っている。
少なくともこのケルディム王国は男爵が村や街を取り仕切る。
そして、子爵が男爵達から税収を取る。
その上の伯爵が子爵から更に税収を取り、侯爵が更に伯爵たちから回収する。
……という形になっている。
公爵はほとんど王族に連なるもので、最終的な税収の行き先だ。
つまり実質的な村や町の管理者は男爵であることがほとんどで、男爵をまとめる子爵、子爵をまとめる伯爵、伯爵をまとめる侯爵、侯爵をまとめる公爵というなんとも面倒な形になっている。
図にすると王族≧公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵=村長や町長という感じだ。
もっとも、これはあくまで形式上に過ぎず、子爵や伯爵が街を治めることもある。
結局、王族まで税収が届きさえすればいいので、そこら辺はなんかアバウトな感じだ。
これまた形式的な領土としては複数の男爵領を包括する子爵領、複数の子爵領を包括する伯爵領……といったところ。ちなみにうちの実家は子爵領だった。そこそこに偉い。
騎士爵もあるが、これは他の爵位と兼任していたり、あるいは他領に住み込み領土を持たないこともある。なんかかっこつけで騎士を名乗る貴族もいるので、ただの称号みたいな感じ。
この村の男爵はなんと、教会で神官長を営んでいるそうだ。
学があるからそういうこともある。教会に入るとき、家督を捨てるものが多いが、兼任する者もいるのだ。ただ信仰しているだけ、なんて人もいる。うちはどうだったかな……。
面倒な話をした。
要は今からお偉いさんに会う、というだけの話。
今は教会の礼拝堂で待たされている。なんだか緊張するなぁ。
珍しくアコさんが礼拝堂の女神像に向かって祈っている。
女神だから……地母神か。色々いるんだよね、神様。
多神教だから別にそこまで喧嘩しちゃいないけれど。
誰をメインに祀るか、とかは流石に宗派がある。
「アコさんはすでに会ってるんだよね?」
「はい、卵殻卿は蘇生魔法が使える聖女なんですよ」
「聖女!?」
聖女といえば、蘇生魔法が使える者が任命される職業だ。
蘇生魔法が使えたら聖女。とにかく聖女なのである。
どんな魔法が使えるようになるかは、授かってみるまでわからない。
蘇生魔法はそこまで希少……というわけではないが、重要度が高い魔法だ。
神官の百人の内、一人が授かると言われており、もし授かれば将来安泰と言われている。
まぁ、聖女だからな。
しかし神官長で聖女で男爵。盛り過ぎだろう。
神は二物を与えるとかいうやつだ。
「卿ら、参ったか」
どこか中性的だが、荘厳な声。
その方向を向くと、大きな卵の殻を頭に被った神官がいた。
性別はどちらかわからないほど細身――だが、俺よりも背が高い。
顔のほとんどは卵の殻で見えない。どうやって前見てるんだ、あれ。
祈りを終え、頭を垂れるアコさん。
隣に立って、その真似をしつつ耳打ちする。
「えっと……女性なんだっけ。聖女だから」
「蘇生魔法が使えれば、男性でも聖女に認定されます」
「で、どっちなの」
「さぁ……」
「卿らよ、聞こえているぞ」
「「す、すいません!」」
再び頭を下げ、謝る俺達。
そんな俺の顎を撫で、くいっと持ち上げてきた。
「ちなみに余はどちらでもいける」
「どういう意味!?」
アコさんが顔を赤らめ、こっちを見ている。
なんですか、「キャー」って。小さい悲鳴を漏らすな。
くそっ、なんかいい匂いがするしこの人!! 香水でも振ってるのか!?
「よい、多少の無礼は許そう。卿らの仕事ぶりは耳にしている」
「あ、ありがとうございます」
「感謝します」
そう言うと、卵殻卿は礼拝堂脇の扉を開いて、奥へと向かっていった。
「ついてまいれ」
そう言われたので、アコさんと目を見合わせついていくことに。
たどり着いたのはテーブルの置かれた談話室。
ふかふかのソファは客人でもゆったり出来そうだ。
「座りたまえ」
言われてアコさんとともにソファに座る。
卵殻卿はワゴンからなにやらティーカップを取り出し、そこのお茶を注いでいた。
「近隣で取れたハーブティーとレプラコーンのクッキーだ。美味いぞ」
「レプラコーン……?」
レプラコーンといえば、金貨を見つけてくれる妖精で有名だ。
まさか妖精をクッキーに混ぜ込んだのだろうか。
シルキーの時のこともあるから、ありえなくはないけれど……。
「うむ。レプラコーンは他の妖精種より多くの白粉を撒き散らす。これが上質な砂糖に使われることから金貨を生む、とまで言われている妖精なのだ」
「へぇ、やはり精人の方が集めたのですか?」
「さてな。その辺りの情報までは知らん」
もぐもぐとリスのようにクッキーを頬張るアコさん。
お茶菓子に対して、遠慮という文字は彼女にはない。
さて、俺も一つ……。
うん、たしかに上質な甘みだ。
小麦粉もきっといいのを使っているのだろう。
ああ、久しぶりにちゃんとした食べ物を食べた気がする……!
こっちのハーブティーも独特の渋みと甘みがあって、美味しい!
なんだか目が冴えるようだ。
「うむ。たんと食え」
「あ、あの、俺達は何のために呼ばれたんでしょうか……?」
「おっと、そうであった。説明しよう」
そう言うと立ち上がり、卵殻卿は黒板を持ってきた。
既になにやら大きな魔物のような絵が書かれている。正直言ってちょっと下手だ。
内容的にはこの大きな魔物が、森から小さな魔物を追い出した……と言いたいらしい。
「森林の奥から魔物が溢れてきている理由。おそらく強大な魔物が現れて、住処を追われた魔物たちが街道や村に飛び出している……と考えておるのだ」
「へぇ……」
「つまり、私たちにその強大な魔物――言うなれば”ボス”を探し出して倒せと?」
「うむ、そうすれば今回の騒ぎも落ち着くであろう」
しかし、なんだってそれを俺たちに言うのか。
もっと強力なパーティだっているんじゃないかな……。
……いないか。少なくともこの村じゃあ、俺たちが今のところ最強だ。
「冬になるまでに討伐に行こうと思う。無論、余もついていく。卿らには有望な冒険者を集めて臨時パーティを設立してもらいたい。”ボス”相手に二人では厳しかろうしな」
「なるほど、承知しました」
「りょ、了解です」
「うむ、時にアコよ」
「はい、なんでしょう?」
「卿とその男はどういった関係なのだ? もうしっぽりいったのか?」
「は、はぁああああああああああああああああ!?」
顔を真っ赤にして、両手をバタバタと振るうアコさん。
それに対し、卵殻卿はケタケタと笑っていた。
「よいではないか、いい男の趣味だ」
「べ、別にチョーくんとはそういうのでは……っ! もうっ!!」
「違うなら余が貰おうか?」
「はぁあああああああああああああああああ!?」
ぶんぶんと振るう手が卵殻卿の方へ向く。
卵殻卿は笑って避けているが、あれは結構力を込めてるぞ。
結局、この人は男なのか女なのか……。




